社会保険の改正

法改正で「101人以上」でも8.8万円の壁が!社会保険の適用拡大を解説

2020年3月17日

新型コロナウィルス騒動の最中ですが、国会では年金関連の改正法案が提出されています。

今回はその中でも労務管理実務への影響が大きい社会保険の加入対象の拡大について解説します。

 

現行の短時間労働者の社会保険加入条件

特定適用事業所

社会保険では、その会社等が特定適用事業所かどうかで、そこで使用される短時間労働者の社会保険の加入要件が変わります。

改正法施行前の特定適用事業所とは、以下の事業所のことをいいます。

  • 社会保険の被保険者の数が501人以上の事業所
  • 社会保険の被保険者の数が500人以下で、任意で特定適用事業所となる申出をした事業所

※ 被保険者の数は特定適用事業所となる前の基準(以下で説明する4分の3基準)でみます

 

特定適用事業所以外の短時間労働者の社会保険加入要件

まず、特定適用事業所でない会社の場合、通常の労働者と比較して「週の所定労働時間及び月の所定労働日数が4分の3以上」かどうかが社会保険加入要件となります。

及び、なので、どちらかが4分の3未満の場合は対象となりません。

 

特定適用事業所の短時間労働者の社会保険加入要件

一方、特定適用事業所の場合、以下の要件を全て満たす短時間労働者が社会保険の加入対象となります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 月額賃金8.8万円以上
  • 1年以上継続して雇用される見込みがある
  • 学生でない

 

労働時間の要件が週20時間以上となっているため、特定適用事業所以外の事業所で働く人よりも短い時間しか働いていなくても社会保険に加入できます。

「加入できます」と書きましたが、これは「加入しなければならない」と言い換えることもでき、実際にそう捉える会社や労働者も少なくないでしょう。

また、月額賃金8.8万円以上というのは、もともと不正確な表現だったこともあり最近はあまり言われなくなったいわゆる「106万円の壁」のことです。

参考:106万円の壁(月額賃金8.8万円)に交通費や残業代、賞与は入りません!

 

法改正で社会保険の加入対象が拡大

特定適用事業所の範囲の拡大

今回の改正ではまず、特定適用事業所の範囲が拡大されます。

具体的には、被保険者の人数要件に変更が加えられ、現行の501人以上から、令和4年10月からは101人以上、令和6年10月からは51人以上と、段階的に引き下げられます。

現行の特定適用事業所の被保険者の人数要件:501人以上

令和4年10月以降の被保険者の人数要件:101人以上

令和6年10月以降の被保険者の人数要件:51人以上

 

特定適用事業所の短時間労働者の社会保険加入条件の一部変更

また、特定適用事業所の短時間労働者の社会保険の加入条件についても一部変更が加えられています。

改正法施行前の現在では短時間労働者の社会保険の加入について「1年以上継続して雇用される見込みがある」という条件がついていますが、改正法施行後、この条件は法律から削除されます。

ただし、社会保険の被保険者の適用除外の要件との兼ね合いから、改正法施行後であっても、実質的には「2か月以上継続して雇用される見込み」がないと社会保険に加入することはできません。

「1年以上継続して雇用される見込みがある」という条件が削除されるのは、特定適用事業所の要件が101人以上となるのと同じ令和4年10月1日からです。

 

法定16業種以外の個人事業所のうち法務業(いわゆる士業)の適用業種化

法人か個人事業所か

社会保険ではその事業所が、法人か個人事業所かで、社会保険が適用される(事業所として社会保険に加入する)かどうかが変わります。

法人の場合は、例え常時使用される者が1名であっても社会保険は強制適用となります。

ここでいう「使用」とは労働基準法等の「使用」とは意味合いが少し違うため、代表者しかいないような一人法人であっても、法人に使用されるものとしてその代表者は社会保険に加入することができます。

 

適用業種と非適用業種

一方、個人事業所の場合は業種によって、適用業種か非適用業種かが変わります。

適用業種の場合、「常時使用する労働者が5人以上いる個人事業所」は社会保険の強制適用となるため、その事業所は社会保険の適用を受けなければなりません。

個人事業所で労働者が5人未満の場合、社会保険の適用は受けなくてもいいということです(任意での適用は可能)。

一方、非適用業種の場合、「常時雇用する労働者が5人以上いる個人事業所」であっても社会保険の強制適用とはなりません(こちらも任意での適用は可能)。

強制適用となるのは法律で定められている16業種のみですが、ここには法務業、いわゆる士業が含まれていません。

法定16業種

  1. 物の製造、加工、選別、包装、修理または解体の事業
  2. 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体またはその準備の事業
  3. 鉱物の採掘または採取の事業
  4. 電気または動力の発生、伝導または供給の事業
  5. 貨物または旅客の運送の事業
  6. 貨物積み降ろしの事業
  7. 焼却、清掃または屠殺の事業
  8. 物の販売または配給の事業
  9. 金融または保険の事業
  10. 物の保管または賃貸の事業
  11. 媒介周旋の事業
  12. 集金、案内または広告の事業
  13. 教育、研究または調査の事業
  14. 疾病の治療、助産その他医療の事業
  15. 通信または報道の事業
  16. 社会福祉法に定める社会福祉事業及び更生保護事業法に定める更生保護事業

 

士業の適用業種化

今回の改正では、これまで非適用業種とされてきた士業が適用業種に変更されます(これにより法定の適用業種は17種になります)。

これにより、常時5人以上の従業員を使用する個人経営の士業の事務所は社会保険の加入対象となります。

こうした決定に至った背景としては、従業員の人数に関わらず社会保険の強制加入の対象となる法人化が士業では難しい、もしくは不可能であることや、士業の個人事業所は比較的経営が安定しており、保険料の支払いなどの事務手続きも問題なく行えると判断されたためです。

今回の改正で適用事業所となる士業等は以下のとおりです。

  1. 弁護士
  2. 司法書士
  3. 行政書士
  4. 土地家屋調査士
  5. 公認会計士
  6. 税理士
  7. 社会保険労務士
  8. 弁理士
  9. 公証人(法人化が不可能)
  10. 海事代理士(法人化が不可能)

 

士業の適用業種可は、適用事業所の被保険者数が101人以上となるのと同じ令和4年10月1日からとなります。

 

ちなみに、非適用業種とされている業種は具体的には以下のとおりです。

  • 第一次産業(農林水産業等)
  • 宗教業(神社、寺院等)
  • 法務業(弁護士、税理士事務所等)←今回の改正で適用業種化
  • 接客娯楽業(旅館、飲食店等)

 

2か月以上の雇用が見込まれる者の被用者保険の早期加入措置

2か月以内の期間雇用と適用除外

厳密には社会保険の加入対象の拡大とは違うのですが、同じ社会保険加入関連の改正ということで最後に、こちらも今回の改正事項である「2か月以上の雇用が見込まれる者の被用者保険の早期加入措置」について解説をしておきます。

社会保険では、臨時に雇用されるもので2か月以内の期間を定めて使用される者については適用除外としています。

一方、一旦は適用除外とされたものが、契約更新により所定の期間を超えて雇用される場合はその時点から社会保険に加入することになります。

あくまで所定の期間を超えて雇用される場合なので、仮にこの期間が1か月の場合で、これを超えて働かせる場合はその時点から社会保険に加入させる必要があります。

いずれにせよ法改正前の現在では、所定の期間を超えた時点から社会保険に加入させることになっているわけです。

 

「超えた時点」からではなく「当初から加入」へ

一方、今回の改正では、結んでいるのが2か月以内の雇用契約であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合、最初の雇用期間を含めて当初から社会保険の適用対象とすることとされました。

出典:第15回社会保障審議会年金部会 資料2 年金制度改正の検討事項

ここでいう「実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがある」とは具体的に、以下のものをいいます。

  1. 就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」、または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
  2. 同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

 

ただし、上記のいずれかに該当する場合であっても、労使双方により、最初の雇用契約の期間を超えて雇用しないことを両者で合意しているときは、雇用契約の期間を超えることが見込まれないこととして取り扱うとされています。

また、本件に関する過去の審議会の資料では、社会保険の調査の際に、雇用契約書等を確認し、上記のいずれかに該当することが事後的に判明した場合は、契約当初に遡及(遡及は社会保険料の徴収の時効である2年まで)して適用することを指導するとしています。

 

まとめ

以上です。

被保険者の人数が50人前後、100人前後の会社の場合、改正法の施行と合わせて対象となる労働者への通知等の対応が必要となるので注意が必要です。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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