社会保険の改正

加入や受給開始の年齢拡大が行われる確定拠出年金等の改正内容を解説

2020年3月24日

社会保険関連の法改正の解説は今回が最後です。

最後は確定拠出年金や確定給付企業年金などの改正について解説です。

 

確定拠出年金及び確定給付企業年金とは

法改正の中身に行く前に、確定拠出年金及び確定給付企業年金について簡単に解説しておきましょう。

 

確定拠出年金とは

確定拠出年金とは、企業もしくは個人が、毎月一定の掛金を納付、その納付した掛金を運用することで将来の年金とするものです。

拠出する掛金の額が決まっているから「確定」「拠出」年金というわけです。

ただし、掛金が確定している一方で、年金額は確定していません。

というのも、確定拠出年金では掛金の運用益が年金額となるため、運用方法と運用結果によっては受け取る年金額が掛金よりも減ることがあるからです。

とはいえ、運用の際には元本が保証されている商品を選ぶことができる他、個人の場合は所得控除、会社の場合は損金扱いとなるため、将来の老後に備えるだけでなく、現役時代の節税手段としても優れています。

確定拠出年金には企業が行うもの、個人が行うもの(一般にiDeCoと呼ばれるもの)、さらには企業が行うものにプラスして個人が行うもの(マッチング拠出)があります。

 

確定給付企業年金とは

確定給付企業年金とは、確定拠出年金とは逆に「給付額」が確定している年金制度です。

給付額を確定、というか決めるのは会社です。

会社は確定した「給付額」を捻出するため、給付額から掛金を算出、算出した掛金を拠出、それを運用し、給付の財源にします。

給付額は確定しているため、仮に運用が失敗し、予定の給付額に届かない場合は、会社がそれを補填することになります。

確定給付企業年金には基金型と規約型があります。

また、確定拠出年金と異なり、確定給付企業年金は個人が行うことはできません。

 

確定拠出年金の加入可能年齢の見直し

確定拠出年金には企業型と個人型の2つがあると言いましたが、今回の改正では、いずれの制度においても制度加入可能な年齢の見直しが行われています。

 

企業型は厚生年金と加入年齢を合わせる形に

まず、現行の企業型確定拠出年金については、加入年齢が65歳未満とされていますが、今回の改正により70歳未満に変更されます。

これは厚生年金の被保険者であれば、企業型確定拠出年金に加入できるようにするための措置です。

 

個人型は国民年金と加入年齢を合わせる形に

一方、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入年齢については、現行、国民年金被保険者のうち60歳未満とされています。

これが、今回の改正で、国民年金被保険者であれば加入可能となります。

①   第1号被保険者:60歳未満

②   第2号被保険者:65歳未満

③   第3号被保険者:60歳未満

④   任意加入被保険者:保険料納付済期間等が480月未満の者は任意加入が可能(65歳未満)

 

加入可能年齢見直しの改正は、いずれも令和4年5月1日からの施行となります。

 

確定拠出年金及び確定給付企業年金の受給開始時期の選択肢の拡大

今回の改正では、加入年齢だけでなく、確定拠出年金の受給開始時期及び、確定給付企業年金の支給開始時期についても見直しが行われています。

まず、確定拠出年金の受給開始時期については、現行では60歳から70歳の間で個人が選択可能となっていますが、法改正後は、公的年金の受給開始年齢の見直しに併せて上限年齢が75歳まで引上げられます。

一方、確定給付企業年金の支給開始時期の設定可能範囲については、現行では60歳から65歳の間で企業が設定可能となっていますが、法改正後はより柔軟な制度運営を可能とするため設定可能範囲が70歳にまで拡大されます。

こちらの施行は改正法公布の日からとなります。

 

中小企業向け制度の対象範囲の拡大

企業年金の普及・拡大を図るため2018年5月に創設された制度に「簡易型DC(簡易企業型年金)」と「iDeCo+(イデコプラス・中小事業主掛金納付制度)」があります。

しかし、その創設目的とは裏腹に、依然として中小企業における企業年金の実施率は低いことから、今回の法改正で、制度を実施可能な従業員規模を現行の100人以下から300人以下に拡大されました。

施行は改正法公布の日から起算して6か月を超えない範囲において政令で定める日となります。

 

マッチング拠出の要件緩和

現行の制度では、企業型の確定拠出年金に加入しつつ個人型の確定拠出年金に加入する場合、いわゆる「マッチング拠出」を行う場合、個人型確定拠出年金の加入を認める労使合意に基づく規約の定めが必要です。

逆に言うと、こうした規約がない場合、企業型に加入している労働者は、企業型とは別に個人型に加入することができないという問題がありました。

今回の改正では、加入要件の緩和のため、企業型確定拠出年金の規約に、企業型年金加入者が個人型年金加入者になることができることを定めなくても、企業型に加入しつつ個人型に加入することが可能となります。

マッチング拠出については、上記以外にも複雑な部分が多く、現状ほとんど活用されていないため、政府は法改正以外にも、企業型と個人型の掛金の合算管理の仕組みの構築や手続きの簡略化等を行う予定です。

こちらの改正の施行は令和4年10月1日からとなります。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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