社会保険の改正

介護保険法の改正により導入される「総報酬割」によって、各保険者の保険料はどうなるか

2017年2月9日

一昨日の2月7日の国会に、厚生労働省から新たに介護保険法の改正案が提出されました。

一番大きな変更は、年金収入等が340万円以上ある人の場合の自己負担率が3割になる点。こちらの施行は平成30年8月予定。

そのほかは、介護保険サービスにかかわる改正が主ですが、このあたりは少しテクニカルな上、介護事業者と地方自治体の話がメインなので、このブログではちょっと置いておきます。

今回は、この改正で導入される予定の、被保険者の保険料にかかわる「総報酬割」について。

これにより、場合によっては介護保険料率が変わる可能性があります。

それにしては聞き慣れない、携帯電話の新プランのような名称ですが、総報酬割について説明するにはまず、介護保険の保険料率の流れを知る必要があります。

 

介護保険料の行方

介護保険の運営の主体は地方自治体です。

ただ、運営のために必要となる保険料の徴収は国保を除くと、各医療保険の保険者、つまり、協会けんぽや健康保険組合、共済組合が行っています。

この医療保険の保険者が徴収した介護保険料が直接地方自治体に支払われるわけではありません。

各医療保険の保険者はいったん、介護給付費・地域支援事業支援納付金、通称「介護納付金」という形で徴収した保険料を「社会保険診療報酬支払基金」に納付します。

「社会保険診療報酬支払基金」は納付された保険料をプールしておく機関で、最終的には社会保険料報酬支払基金から「介護給付費」として集められた保険料は地方自治体に給付され、介護が必要な方への保険給付等に使用されます。

参照:費用負担(総報酬割)(リンク先PDF 第67回社会保障審議会介護保険部会資料)

 

被保険者の数から総報酬額へ

今までは、それぞれの各医療保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合、共済組合)が支払う「介護納付金の額」というのは、その医療保険の保険者に加入している被保険者の数によって決まっていました。

つまり、被保険者の数が1000人の健康保険組合と、2000人の健康保険組合では、後者の方が介護納付金は高かったわけです。

しかし、この方法だと、例えば、1000人の健康保険組合の平均月収は60万円で、2000人の方は30万円だったという場合、被保険者全員の月収合計額は同じ6億円にもかかわらず、2000人の方が介護納付金をより多く納めないといけません。

結果、2000人の方が従業員1人あたりの収入は少ないのに、介護保険料率は高くなるという不公平が生まれていました。

だから、これからは被保険者全員の収入の合計額(厳密には標準報酬月額の総額)を元に介護納付金の額を決めよう、というのが今回導入される「総報酬割」です。

 

今までは協会けんぽが割を食っていた

健康保険組合は大企業が組織していることが多く、一般的に言えば、そこで働く人たち全体で見た場合は、高給な場合が多い。

一方、協会けんぽは上記のような健康保険組合を組織していない事業所が加入するものですから、企業の規模や利益は様々な上、被保険者の数は非常に多い。

そのため、現行の被保険者数による介護納付金の割り当ての場合、一番割を食っていたと言えます。

事実、厚生労働省の試算によると総報酬割を導入した場合、第2号被保険者(介護保険料を支払う義務のある40歳から64歳までの被保険者)一人あたりの労働者の介護納付金は平均して、

  • 健康保険組合:+727円
  • 協会けんぽ:-241円
  • 共済組合:+1972円

(上記の数字は平成26年度決算見込額より試算したもの。)

参照:費用負担(総報酬割)(リンク先PDF 第67回社会保障審議会介護保険部会資料)

となるとされています。

逆の言い方をすれば、協会けんぽは第2号被保険者一人あたりの介護納付金額で見ると、健康保険組合よりも1000円近く、共済組合と比較した場合は2000円以上も多く支払っていたことになります。

 

総報酬割により、保険料が上がるところ、下がるところ

上記の数字はあくまで介護納付金を第2号被保険者一人あたりで割っているので、総報酬割導入後、必ずしも保険料もこれだけ変わるというわけではないですが、さすがに健康保険組合や共済組合の多くは、介護保険料率を上げざるを得ないでしょう。

ただ、言い方は悪いですが、世の中は豊かな健康保険組合ばかりではないので、約1400組合のうちの約370組合は介護納付金の負担が減るそうなので、保険料率が変わらなかったり、逆に下がるところもあるはずです。

一方、協会けんぽの場合は現在、国庫負担、つまり、税金が入った状態で今の料率となっていて、総報酬割導入後はこの国庫負担をなくすとのことなので、大きな変化はないかもしれません。

 

実施は平成29年8月からだが経過措置あり

総報酬割の導入は今年の8月からですが、経過措置として、平成29年8月から平成30年度(平成31年3月31日)までは、介護納付金の額は、全体の2分の1は現行の被保険者数で、もう2分の1は総報酬割によって計算されます。

そして、平成31年度は総報酬割の割合がさらに増え、4分の3が総報酬割で計算され、平成32年度より完全に総報酬割に移行されます。

よって、法改正後いきなり料率が変わるということはないはずです(総報酬割とは関係のない、財政面の理由での上下はあると思いますが)。

 

今日のあとがき

こういう法改正記事は自分の知識だけでは書けないので、書きながら調べるし、調べながら書くわけですが、当然、今回の総報酬割についてもそう。

で、総報酬割によって、健康保険組合や共済組合の負担が増えるので、協会けんぽや協会けんぽに加入する事業所の負担が減るのかと思ったら、国庫負担がなくなるので、協会けんぽの保険料率に大きな変化はなし、とわかって、書き終わったときには若干肩すかしをくらってしまいましたとさ。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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