労災・雇用保険の改正

変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準を解説 ③異常な出来事等

2021年9月30日

昨日までで、変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準のうち「長期間の過重業務」「短期間の過重業務」まで解説しました。

最後となる今回は「異常な出来事」の変更点と「対象疾病の追加」について解説していきます。

前回までのおさらい

まずはおさらいですが、今回の基準が見直され変更された点は以下の通りです。

長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

長期間の過重業務短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

短期間の過重業務異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤な心不全」を追加

脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要(リンク先PDF 出典:厚生労働省

そして、「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の違いは以下の通り。

発症前の期間 発症との関連
異常な出来事 24時間以内 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
短期間の過重業務 おおむね1週間以内 特に過重な業務に就労したこと
長期間の過重業務 6か月以内 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと

 

すでに、「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」に関する変更点は解説済みなので、今回は「異常な出来事」と「対象疾病の追加」について解説します。

 

異常な出来事とは

脳・心臓疾患の労災の認定基準における「異常な出来事」とは、発症前24時間以内に、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇した場合をいい、具体的には以下のようなものをいいます。

  • 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態
  • 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態
  • 急激で著しい作業環境の変化

 

ここまでは、以前の労災の認定基準と変更はありません。

今回の基準の見直しで変更されたのは、次に説明する「異常な出来事」があったと認められるかどうかの判断基準であり、具体的には判断基準が以前よりも明確化されました。

 

「異常な出来事」における判断基準の明確化(今回の変更点①)

旧基準では、以下に当てはまる場合に「異常な出来事」があったと判断できるとしていました。

①通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったか

②気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったか  等

 

ただ、上記の内容をみてわかるとおり、正直、具体性に欠けているし、種類もあまり多くありません。

一方、今回の新基準では上記の内容の見直しに加え、さらにそれを具体化したものも明記されています。

概要

異常な出来事と認められるか否かについては、出来事の異常性・突発性の程度、予測の困難性、事故や災害の場合にはその大きさ、被害・加害の程度、緊張、興奮、恐怖、驚がく等の精神的負荷の程度、作業強度等の身体的負荷の程度、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化の程度等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。

 

具体例

以下の①から⑤に該当する場合、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。

①業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合

②事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合

③生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合

④著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合

⑤著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合  等

 

「長期間の過重業務」「短期間の過重業務」と比べると、「異常な出来事」については変更点は少なめというか、これまでのものをより明確化しただけと言えるでしょう。

 

対象疾病に「重篤な心不全」を追加(今回の変更点②)

今回の認定基準の見直しに当たっては「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の他に、労災として認められる脳・心臓疾患の追加が行われています。

今回の基準改正では「重篤な心不全」で、それ以外の労災として認められる脳・心臓疾患は以下の通りとなります。

1 脳血管疾患

(1) 脳内出血(脳出血)
(2) くも膜下出血
(3) 脳梗塞
(4) 高血圧性脳症

2 虚血性心疾患等

(1) 心筋梗塞
(2) 狭心症
(3) 心停止(心臓性突然死を含む。)
(4) 重篤な心不全
(5) 大動脈解離

 

まとめ

以上です。

「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の基準を丁寧に解説した結果、とても1つの記事の分量に収まらないと思い、急遽全3回に分けてお送りしました。

ただ、正直、一番重要なのは「長期間の過重業務」に関する変更なので、実務においては、まずはそちらをきちんと確認するのが一番かと思います。

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(リンク先PDF 出典:厚生労働省

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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