労災・雇用保険の改正

変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準を解説 ①長期間の過重業務

2021年9月28日

以前、脳・心臓疾患の労災、いわゆる過労死等に関する認定基準に関する報告書が出てきたので、そのうち労災の認定基準が変わるかもしれません、という記事を書いたのですが、実際そうなりました。

脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました(厚生労働省)

今回はその解説。

過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準の主な変更点

今回、基準が見直され変更された点は以下の通りです。

長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

長期間の過重業務短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

短期間の過重業務異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤な心不全」を追加

脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要(リンク先PDF 出典:厚生労働省

 

「長期間の過重業務」「短期間の過重業務」「異常な出来事」

変更点だけを見ても、何が何だか、となる人も多いと思うので、まずは脳・心臓疾患の労災の認定基準の基本的なことから解説していきます。

実は、脳・心臓疾患の労災の認定基準については、3つの労働災害に分けた上で、それぞれ基準が設けられています。

そしてこ、れら3つは主に発症前の期間の長短やその他の事情によって分けられています。

3つの労働災害及び発症前の期間については以下の通りです。

発症前の期間発症との関連
異常な出来事24時間以内発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
短期間の過重業務おおむね1週間以内特に過重な業務に就労したこと
長期間の過重業務6か月以内著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと

 

この記事では「長期間の過重業務」の変更点について解説

今回の認定基準の改正では、対象疾病の追加を除くと、基本的にはこれら3つの労働災害の認定基準の見直しとなります。

このブログでは、「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」それぞれの基準の解説をしつつ、変更点についてもみていきたいと思います。

ただ、基準の解説だけでもかなり長くなる関係上、何回かに分けての投稿になります。

初回の今回は「長期間の過重業務」とその変更点についてとなります。

 

長期間の過重業務とは

長期間の過重業務とは脳・心臓疾患の発症前6か月以内に「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」があった場合をいいます。

「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」と言われても、ピンとこないかもしれませんが、評価基準ではこのあたりも以下のようにきちんと明文化されています。

(1) 疲労の蓄積の考え方
恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、
その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。

(2) 特に過重な業務
特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。

 

ただ、実務においてはこの辺は正直、全然重要じゃないので、この文章が社労士試験の選択式に出て泣きを見たくない、という人以外は読み飛ばしても良いところだったりします。

 

「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」があったかどうかの判断

「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務」があったかどうかの判断は、以下のように行うとしています。

ただ、これもちょっと長いので、労働基準監督官になりたい人以外は、全部読んで理解しようとする必要はありません。

ただし、以下の内容のうち、3.の「以下に掲げる負荷要因」については、非常に重要な部分なのでこの後の項で詳しく解説していきます。

  1. 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。ここでいう同種労働者とは、当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む。
  2. 長期間の過重業務と発症との関係について、疲労の蓄積に加え、発症に近接した時期の業務による急性の負荷とあいまって発症する場合があることから、発症に近接した時期に一定の負荷要因(心理的負荷となる出来事等)が認められる場合には、それらの負荷要因についても十分に検討する必要があること。
    すなわち、長期間の過重業務の判断に当たって、短期間の過重業務(発症に近接した時期の負荷)についても総合的に評価すべき事案があることに留意すること。
  3. 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。

 

「労働時間」と「労働時間以外」の負荷要因

なぜ、「以下に掲げる負荷要因」が重要かというと、結局、この負荷要因こそが「どういったことがあった場合に労災と認められるか」の具体的な基準となっているからです。

そして、この負荷要因は大きく分けて「労働時間」と「労働時間以外」の2つがあります。

 

労働時間の負荷要因

このうち、長期間の過重業務における「労働時間」に関する負荷要因こそが、以下の通り、世間一般でもよく知られている「過労死ライン」と呼ばれるものです。

「過労死ライン」については以下の通りです。

  1. 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
  2. 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる

 

「長期間の過重業務」における基準の変更点(今回の変更点①)

実は、今回の基準の変更では過労死ラインについて変更はありません。

ただ、以前の労災の認定基準では、過労死ライン、特に上記の2.を下回る場合の扱いが不明確で、基準をわずかに下回ってると、それを理由に労災と認められない可能性がありました。

そのため、今回の基準の改正で、上記の基準を下回る場合も、他の労働時間以外の負荷要因を総合考慮することが明記されました。

 

労働時間以外の負荷要因(今回の変更点②)

では、労働時間以外の負荷要因とは何かというと、具体的には以下の通りとなります。

(ア)勤務時間の不規則性
a 拘束時間の長い勤務
b 休日のない連続勤務
c 勤務間インターバルが短い勤務
d 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務

(イ)事業場外における移動を伴う業務
a 出張の多い業務
b その他事業場外における移動を伴う業務(以前の基準の「時差」を発展させたもの)

(ウ)心理的負荷を伴う業務(以前の基準の「精神的緊張を伴う業務」を発展させたもの)

(エ) 身体的負荷を伴う業務

(オ)作業環境(他の項目と違い付加的にこうr)
a 温度環境
b 騒音

 

この労働時間以外の負荷要因の項目やその内容も、今回の基準変更によって変更された部分となります。

例えば、「勤務間インターバルが短い勤務」については今回新しく追加されたものであり、例え勤務間インターバル制度を導入していたとしても勤務間のインターバルが「おおむね11時間未満の勤務」であったり、その頻度が多かったりする場合は労働時間以外の負荷要因となりうるとしています。

上記の表のうち、太字部分が以前の基準から新たに追加されたものですが、それ以外の項目についても、具体例等の追加がされるなど、より基準が明確化されています。

厚生労働省が公表している認定基準を貼っておくので、気になる方は一度確認してみるのも良いでしょう。

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(リンク先PDF 出典:厚生労働省

過労死労災認定基準新

 

まとめ

以上です。

次回は変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準のうち「短期間の過重業務」について解説します。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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