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ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)と就業規則

労働者の働き方や働く上での幸福度、あるいは生産性を考える上で重要な考え方に「ワークモチベーション」というものがあります。

労働者の労働へのモチベーションはどこから来るのか、それはどうすれば上げられ、どういったときにそれは失われるのかといったことを突き止め、それを活かすことがその目的となります。

今日は数あるワークモチベーション理論なかから、ハーズバーグが提唱した「二要因理論」と就業規則の関係について考えていきます。

 

ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)とは

二要因理論とは、職場には労働者の満足を高める要因(動機付け要因)と、労働者の不満を高める要因(衛生要因)の2つがあるという考え方です。

二要因理論は、この2つの要因のことを指すため「動機付け・衛生理論」とも呼ばれます。

 

動機付け要因

例えば、労働者の満足を高める要因(動機付け要因)としては、以下のものがあります。

  • 達成
  • 承認
  • 責任
  • 権限委譲
  • 仕事そのもの
  • 昇進
  • 成長の機会 など

上記の要因は、別のワークモチベーション理論の1つである「マズローの欲求5段階説」のうち上3つ(自己実現欲求、承認欲求、社会的欲求)と重なる部分が多いとされています。

 

衛生要因

また、労働者の不満を高める要因(衛生要因)には、以下のものがあります。

  • 職場での人間関係
  • 会社の方針
  • 職場環境
  • 労働条件
  • 給与
  • ステータス
  • 法律面での安全性 など

こちらの要因も、「マズローの欲求5段階説」と重なる部分が多いのですが、動機付け要因とは対照的に下2つ(安全欲求、生理的欲求)と親和性が高くなっています。

 

満足の反対は不満ではない

また、この理論の重要な点として、動機付け要因が満たされないからといって、それが衛生要因になるわけではないということです。

これは逆もまたしかりで、衛生要因が全てなくなったとしても、それが動機付け要因になるわけでもありません。

つまり、二要因理論に置いては、満足の反対は不満ではなく「満足を高める要因がない」ということに過ぎません。

同様に、不満の反対もまた満足ではなく「不満要因がない」ということになります。

例えば、動機付け要因の1つである「成長の機会」がその会社にないからといって、それがそのまま不満要因になるわけではないということです。

また、給与面での不満が解消されたからといって、それがそのまま労働者の満足に繋がるわけでもありません(ちなみに、日本の場合、給与によって幸福度が上がるのは年収750万円程度までと言われています)。

 

就業規則はあくまで衛生要因をなくすため

さて、ここに来てようやく就業規則の話。

わたしは昔から「就業規則で会社を元気にする」なんてのはおかしいと、声を大にして言ってきましたし、わたしの書いた就業規則の本の中でもそう書いています。

 

就業規則の条文に動機付け要因となるようなものはほぼない

どうして「就業規則で会社を元気にする」がおかしいかといえば、就業規則の条文に動機付け要因となるものがほとんどないからです。

強いて言えば、昇給や賞与、非正規から正規への転換といった条文は動機付け要因と言えなくもありません。

ただ、昇給や賞与が「達成」や「承認」といった形で行われているのであれば、確かに動機付け要因にもなるでしょうが、そうではない場合は衛生要因となることの方が多いでしょう。

 

就業規則を作成するのは、それを守ることで衛生要因をなくすため

また、そもそも就業規則は「労働者の労働条件」や「服務規律」「会社の業務命令権の根拠」を定めるものです。

労働条件が低かったり、会社が就業規則に定めた労働条件を守らない場合、それは当然、労働者の不満の要因になります。

また、服務規律に関しても、職場環境を整えるために整備するものであり、服務規律に違反してるのに何のお咎めもないとなれば、他の労働者が不満を抱く要因となります。

このように就業規則は基本的に労働者の衛生要因、不満要因を取り除くための規定で構成されていると考えられます。

言い換えると、就業規則を作成するのは、会社のルールを明確化し、労使が共にそれを守ることで衛生要因をなくすため、といえます。

 

特に衛生要因がない会社であっても就業規則が必要な理由

ちなみに特に衛生要因が見当たらない(と経営者が思ってるだけかもしれませんが)という会社であっても、就業規則はきちんと作成しておいた方が良いです(従業員が10人以上の場合はそもそも作成して、それを監督署に提出する義務がある)。

というのも、罪刑法定主義の観点から、就業規則がないと懲戒処分ができないからです。

別に、うちの会社に悪い子とする人なんていないよ、と思っていても、新しく入ってきた人があまりよろしくない人だったり、何かしらの理由で心変わりして悪いことをすることだってあります。

そうした際に、懲戒処分ができない、というのは最悪の衛生要因となり得るため、やはり就業規則はきちんと作成しておいた方が良いのです。

 

作成した就業規則を守らない会社は・・・

就業規則は衛生要因をなくすために作成する、と書きましたが、注意しないといけないのは就業規則は作成しただけで衛生要因がなくなるわけではない、ということです。

就業規則を作成し、それを労働者だけでなく会社も守らないと、衛生要因はなくなるどころか、「会社が就業規則を守らない」という衛生要因が増えるだけ。

さらには「就業規則ができたことで、ようやく会社が良くなる」と思っていた労働者の期待すら裏切ることになるため、最悪、会社が労働者に愛想尽かされて崩壊することもあり得ることを、経営者はゆめゆめ忘れないようにすべきでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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