労災・雇用保険の改正

令和4年より65歳以上の複数就業者の雇用保険加入が可能に

2020年12月1日

今回も副業・兼業について。

今年の通常国会で改正された雇用保険の副業・兼業に関することについて解説していきます。

 

現状では一つの事業所でしか加入できない

現状では雇用保険は一つの事業所でしか加入できません。

そして、雇用保険の加入の条件である「週所定労働時間20時間以上」については、複数の事業所で働く労働者であっても、単体の事業所で満たす必要があります。

そのため、複数の事業所で雇用されて働く労働者で、雇用されている事業所のいずれにおいても週所定労働時間が20時間満たない場合、雇用保険に加入できないという問題がありました。

 

65歳以上の高齢者に限り2つの事業所で条件を満たす場合、加入可に

複数就業者

今回の雇用保険法の改正では、こうした複数の事業所で働く労働者の問題について、かなり限定的ではあるものの、一定の解決策が用意されました。

ちなみに、雇用保険では「複数の事業所で働く労働者」のことを「複数就業者」といいます。

一方、労災保険では「複数の事業場で働く労働者」のことを「複数事業労働者」といいます。

雇用保険と労働保険とでは、適用単位が事業所と事業場で違うとはいえ、どうにか統一できなかったのかと首を捻らざるをえません。

 

65歳以上の複数就業者の雇用保険加入が可能に

話がずれました。

今回の法改正では、複数就業者の雇用保険加入の問題の解決のため「65歳以上の高齢者」に限り、以下の条件をすべて満たす場合、複数の雇用保険の適用事業に雇用されている場合でも雇用保険に加入できるようなりました。

• 年齢が65歳以上で複数の雇用保険の適用事業に雇用されている
• 雇用されているいずれの適用事業の週所定労働時間も20時間未満
• 複数の適用事業のうち、2つの事業の労働時間を合算すると週所定労働時間が20時間以上

労働時間の合算にあたっては、雇用保険が非適用の事業所での労働時間や、極端に労働時間が短い事業所での労働時間(合算できるのは省令で週5時間以上と定められる予定)については合算することができません。

加えて、3つ以上の適用事業に雇用されている場合で、いずれも週所定労働時間が20時間未満であっても、合算の際はそのうちの2つの事業の労働時間しか合算できません。これは事務手続きの負担を抑えるためです。

また、65歳以上の複数就業者が雇用保険に加入する場合、労働者側から事業主にその申し出をしなければなりませんが、会社はその申し出をしたことを理由に、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとされています。

 

まとめ

なぜ、65歳以上のみ?

改正内容は以上の通りですが、今回の記事を見てなぜ「65歳以上のみ?」と疑問に思った方もいらしたのではないでしょうか。

今回の改正で、複数就業者の雇用保険加入が高齢者に限定されている理由としては、複数就業者の雇用保険の加入について、まずは65歳以上の労働者を対象にその効果を検証するためとしています。

つまり、将来的には65歳未満の労働者についても同様の扱いとなる可能性があるわけです。

この改正は令和4年1月1日からの施行ですので、実際に動きがあるのはそれからさらに数年後でしょうが、頭の片隅に入れておいた方が良いでしょう。

 

また、先週から副業・兼業の「労働時間」「労災保険」「雇用保険」について解説してきましたが、今のところ「社会保険」だけは大きな動きはありません。

副業・兼業についてもここ最近の大きな動きはとりあえず押さえたので、副業・兼業の記事はひとまず今回で一区切りです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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