複数事業労働者と複数業務要因災害を解説【2025最新】

※ こちらは2025年12月に最新の情報を元に加筆修正されたものになります。

働き方改革以降、政府は労働者の副業・兼業を推奨してきました。

一方で、法律の多くは、労働者は1つの会社で働くことを前提に作られています。

では、副業・兼業する労働者が労災に遭ったらどうなるのでしょうか。

この記事では副業・兼業する労働者の労働災害である、複数業務要因災害について解説します。

目次

副業・兼業する労働者に対応するため改正された「令和の労災保険」

実は、令和2年より前、言ってしまえば平成までの労災保険制度は、労働者が1つの会社で働くことを前提に作られていました。

例えば、2つの会社で給与をもらっている、という人が労災に遭った場合、労災に遭った会社の給与のみを基準に、給付額が決まっていたので、給付額が低くなるということが起こっていたのです。

しかし、令和2年9月に制度が変更され、副業・兼業する労働者が、労災保険で不利益を受ける、ということはほぼなくなっています。

複数事業労働者

具体的に見ていきましょう。

まず、副業・兼業など、複数の事業場で雇用されて働く労働者のことを「複数事業労働者」と呼びます。

この複数事業労働者には「1つの会社と労働契約関係にあり、他の就業について特別加入している人」「複数の就業について特別加入をしている人」も含みます。

つまり、個人事業主やフリーランス、もっと言えば会社の経営者等であっても、労災保険の特別加入をしている場合に限り、対象となるわけです。

出典:複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(リンク先:PDF 厚生労働省)

 

複数の事業場の賃金を合算して給付額を計算

先ほども述べたとおり、平成の労災保険では、複数事業労働者が労働災害に遭った場合、労災の給付額が労災が起こった事業場の給与を基に決定されていました。

例えば、本業先の会社で20万円、副業先の15万円の賃金を得ているものが副業先の会社で労災に遭った場合、副業先で得ている15万円の賃金を基に各種給付の額が決定されていたわけです。

こうした問題を解決するため、現在法律では複数事業労働者については本業先と副業先の収入を合わせて給付額を決定するとされています。

よって、先ほどの例の場合、本業先で労災に遭おうと、副業先で労災に遭おうと、本業先の賃金と副業先の賃金を合わせた35万円の賃金を基に、労災の給付額が決定されます。

出典:複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(リンク先:PDF 厚生労働省)

 

複数業務要因災害

労災保険が労働者が単独の会社で働くことを前提にしていたのは給付額だけではありません。

実は、労災の認定基準についても、以前は単独の会社を前提としていました。

複数の事業場の負荷を総合的に評価

労災保険法では、業務中に起こった物理的な事故や災害だけでなく、長時間労働やセクハラ・パワハラといった業務上の労働者にかかる強い負荷そのものを「労働災害」として扱います。

これにより長時間労働等によって発症した脳・心疾患やメンタルヘルスについても、被災者やその遺族に労災保険から給付が出る仕組みとなっています。どれだけの長時間労働、あるいはどれだけの負荷であれば労災に当たるかについては、厚生労働省が定める基準に基づき判断されます。

実は改正前の労災保険では、こうした基準を個々の事業場ごとに当てはめ、労働時間数や業務上の負荷が労災に当たるかどうかの判断をしていました。

例えば、一月にA事業場で40時間、B事業場で60時間の残業をする複数事業労働者が過労死してしまったとします。一般に過労死ラインと呼ばれる残業時間は「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間」ですが、この過労死ラインを超えているかどうかについては、A事業場、B事業場、個々の残業時間をみて判断するわけです。

一方で、A事業場とB事業場の残業時間を合算した時間については、労災に当たるかどうか判断の対象とはしません。

このケースでは残業時間を合算すれば残業時間が100時間となるため、労災に当たる可能性が高いにもかかわらず、です。

こうした問題を踏まえ、今回の労災保険法の改正では、複数就業先での業務上の負荷を総合的に判断できるよう制度が変更されました。先程のケースでいえば、A事業場とB事業場を合算した100時間の残業時間についても労災に当たるかの判断材料となるわけです。

出典:複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(リンク先:PDF 厚生労働省)

 

複数業務要因災害に対する給付

このように、複数の事業場での負荷が原因として起こる労働災害のことを「複数業務要因災害」といいます。

労災保険法では、複数の事業場での負荷による災害を労災として扱うことに加え、こうした複数業務要因災害に対する給付も設けられています。

といっても、給付の内容自体は、他の労働災害もしくは通勤災害の給付と同じであり、異なるのは名称や手続きの方法だけです。

複数業務要因災害の給付一覧

  • 複数事業労働者休業給付
  • 複数事業労働者療養給付
  • 複数事業労働者障害給付
  • 複数事業労働者遺族給付
  • 複数事業労働者葬祭給付
  • 複数事業労働者傷病年金
  • 複数事業労働者介護給付

 

複数業務要因災害と企業の責任

労働災害に関しては無過失責任であるため、起こった時点で会社に賠償等の責任が発生します。

では、複数業務要因災害はどうかというと、実は、複数業務要因災害の要因となった複数の事業場のいずれも責任に問われることはありません。

複数業務要因災害では、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との間に因果関係が認められず、労働基準法上の災害補償責任を個々の事業主に問えないためです。

一方で、複数事業労働者の災害が必ずしも「複数業務要因災害」となるわけではありません。

複数あるうちのどれか一つの事業場の負荷だけで労働災害が認められる場合もあるからです。

この場合、複数業務要因災害ではなく、通常の労働災害と同じ扱いとなるため、労災を起こした会社に賠償等の責任が発生します。

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この記事を書いた人

社会保険労務士川嶋事務所の代表。
「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。
就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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