労災・雇用保険の改正

変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準を解説 ②短期間の過重業務

2021年9月29日

前回は変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準のうち「長期間の過重業務」について解説しました。

今回は「短期間の過重業務」について解説していきます。

前回までのおさらい

まずはおさらいですが、今回の基準が見直され変更された点は以下の通りです。

長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

長期間の過重業務短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

短期間の過重業務異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤な心不全」を追加

脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要(リンク先PDF 出典:厚生労働省

そして、過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準を考える上で重要となる「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の違いは以下の通り。

発症前の期間 発症との関連
異常な出来事 24時間以内 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと
短期間の過重業務 おおむね1週間以内 特に過重な業務に就労したこと
長期間の過重業務 6か月以内 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと

 

前回は「長期間の過重業務」に関する変更点を解説したので、今回は「短期間の過重業務」について解説していきます。

 

短時間の過重業務とは

短期間の過重業務とは、脳・心臓疾患の発症前おおむね1週間以内に「特に過重な業務」があった場合をいいます。

ここでいう「特に過重な業務」とは以下の通りですが、内容は前回の記事でみた(そして、読み飛ばしてしまって構わないと書いた)長期間の過重業務における「特に過重な業務」と同じです。

特に過重な業務
特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。

 

「過重な業務」があったかどうかの判断

短期間の過重業務における「特に過重な業務」があったかどうかの判断は、以下のように行うとしています。

  1. 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
  2. 短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、業務による過重な負荷は、発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられることから、次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して、特に過重な業務と認められるか否かを判断すること。
    ① 発症に最も密接な関連性を有する業務は、発症直前から前日までの間の業務であるので、まず、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
    ② 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
    なお、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の継続とは、この期間中に過重な業務に就労した日が連続しているという趣旨であり、必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労した日が間断なく続いている場合のみをいうものではない。したがって、発症前おおむね1週間以内に就労しなかった日があったとしても、このことをもって、直ちに業務起因性を否定するものではない。
  3. 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。

 

前回の記事でみた「長期間の過重業務」よりもさらに長いので、やっぱり労働基準監督官になりたい人以外は、全部読んで理解しようとする必要はありません。

ただ、前回と同様、以下の内容のうち、3.の「以下に掲げる負荷要因」については、非常に重要な部分なのと、今回の基準の変更の変更部分を含むため、この後の項で詳しく解説していきます。

 

短期間の過重業務における負荷要因(今回の変更点①)

過重業務を判断する際の負荷要因が「労働時間」と「労働時間以外」の2つに分けられるのは、「長期間の過重業務」の場合と同様です。

そして「短期間の過重業務」における、労働時間の負荷要因については、「長期間の過重業務」の過労死ラインのような明確な時間数はなく、以下の観点から業務と発症との関係性等を踏まえて判断するとしています。

労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、過重性の評価の最も重要な要因であるので、評価期間における労働時間については十分に考慮し、発症直前から前日までの間の労働時間数、発症前1週間の労働時間数、休日の確保の状況等の観点から検討し、評価すること。

その際、①発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合、②発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等(手待時間が長いなど特に労働密度が低い場合を除く。)には、業務と発症との関係性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。

なお、労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合には、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断する必要がある。

 

実はこの「短期間の過重業務」における労働時間の負荷要因の部分は今回の基準の変更で見直しが行われた部分となります。

以前の基準では労働時間の負荷要因に関して考え方は示されていたものの例示等はありませんでした。

しかし、今回の変更で「①発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合、②発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等」といった文言が追加され、どういった類いの労働時間の場合「短期間の過重業務」に当たりうるかが明確化されています。

 

労働時間以外の負荷要因(今回の変更点②)

次に労働時間以外の負荷要因ですが、こちらは具体的には以下の通りとなります。

(ア)勤務時間の不規則性
a 拘束時間の長い勤務
b 休日のない連続勤務
c 勤務間インターバルが短い勤務
d 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務

(イ)事業場外における移動を伴う業務
a 出張の多い業務
b その他事業場外における移動を伴う業務(以前の基準の「時差」を発展させたもの)

(ウ)心理的負荷を伴う業務(以前の基準の「精神的緊張を伴う業務」を発展させたもの)

(エ) 身体的負荷を伴う業務

(オ)作業環境
a 温度環境
b 騒音

 

こちらは「長期間の過重業務」における「労働時間以外の負荷要因」とまんま同じです(太字にしてある部分が今回の変更点及び追加項目)。

ただし、(オ)の作業環境については「長期間の過重業務」においては他の項目と違い付加的に考慮するとされていましたが、短期間の過重業務においては付加的ではなく他の項目と同様に十分検討することとされています。

各項目の詳しい内容は認定基準の原本からどうぞ。

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(リンク先PDF 出典:厚生労働省

 

まとめ

以上です。

次でこのシリーズはラストとなります。

次回は変更された過労死等(脳・心臓疾患)の労災認定の基準のうち「異常な出来事」と「対象疾病の追加」について解説します。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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