労務管理

会社は労働者に謝罪することを命令できるか

2016年2月16日

昨日は仕事の関係で滋賀の方に行っていたのですが、その道すがらの名神高速から見た伊吹山には、暖冬の影響かほとんど雪がありませんでした。名神から見える山々の中ではひときわ雄大な山なので、見ていて飽きない山ではあるのですが、ちょっと残念でした。

まあ、それはさておき。

SMAPが自身のテレビ番組で、解散騒動に対する謝罪を行った件について、かねてからパワハラではないのか、という批判がありました。実際、BPOにも2800件もの意見が寄せられたそうです。

SMAP謝罪、BPOに意見2800件 審議しない方針

多くの人が、あれはSMAP4人本心からの謝罪ではなく、ジャニーズ事務所による謝罪の強制だと思ったわけですね。

 

会社は労働者に謝罪させることができるか

SMAPに限らず、社会に出て仕事をしていれば、謝罪しないといけない場面というのはあると思います(その頻度はその人の環境やその人自身の資質にもよりますが)。

また、会社側からすると、自社の社員が何かしらのミスを犯して、取引先や会社に損害を与えた場合などのように、社員に謝罪させたい場面、というのもあるのではないでしょうか。

では、そういった場面で、社員の方から謝罪の意思表示等がない場合に、会社は謝罪を強いることはできるのでしょうか?

結論から言うと、これはかなり微妙なところです。ていうか、これ、結論言えてない(笑)。

大きな論点は2つあって、1つは強要罪との絡み、もう一つは思想・良心の自由との絡みがあるからです。

※ わたしは法学部出身でも弁護士でもないので、刑法や憲法については専門家でないことをあらかじめご了承の上、以下、ご覧ください。また、事実誤認等ございましたらTwitter等でご連絡いただければ幸いです。

 

強要罪と謝罪

で、強要罪とは

(強要)
第223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。

とあります。

法律の条文だけだと、実際にどのようなときに適用されるのかわかりづらいですが、弁護士ドットコムの記事によると、

「長女の父親が、学校に対して、謝罪を要求したからといって、それだけでは強要罪にはなりません。

学校側には謝罪すべき義務がない事案であるにもかかわらず父親が『脅迫・暴行』を手段として、『謝罪を要求する』という事実があれば強要罪になります。

しかし、父親が謝罪を要求し続けたとしても、『脅迫・暴行』を手段としていないのであれば、父親の学校への謝罪要求は犯罪にはならないといわなければなりません」

「謝罪文」を書かせようとした男を逮捕 「謝れ」と迫ったら犯罪になるのか?

なのだそうです。

 

懲戒事由と懲戒処分と謝罪内容と謝罪方法のバランス

つまり、単に謝罪を要求しただけでは強要罪にはならないけれど、なにかしらの『脅迫・暴行』があった上での謝罪要求は強要罪になるというわけです。

この『脅迫・暴行』の部分が、会社という場所ではかなり微妙なことになります。

例えば「謝罪しないと懲戒処分にするぞ」と会社側が言った場合に、懲戒処分に当たる事実が存在しなければ当然強要罪になります。減給や解雇を脅迫の道具に使っているわけですから。

ただ、そうした事実がある場合でも、懲戒に当たる事由と懲戒処分のバランスが取れていることはもちろんのこと、謝罪内容や謝罪方法ともバランスがきちんと取れていないとまずいわけです。

例えば、1回の遅刻に対して「クビにされたくなかったら土下座しろ」というのは、どう考えてもバランスを欠いています。

 

思想・良心の自由と謝罪

一般に、本人の謝罪や反省を強制することは、本人の意思や良心の自由を不当に制限することに当たり、憲法19条に定める思想・良心の自由を犯す行為と考えられます。

また、懲戒処分として、社員の何かしらの不始末に対して始末書の提出を求める会社も少なくないかと思いますが、こちらも思想・良心の自由との関係性は微妙なところです。

というのも、始末書というのは労働者本人に自分が犯した行為を認めさせ謝罪させると同時に、今後そういったことがないよう誓約させるものだからです。

よって、提出を義務づけるには最低限、就業規則等に記載がないと業務命令として出すのはまず無理、また、あったとしても懲戒処分という性質上、やはり、バランスが求められます。

ただし、謝罪などの内容を含まない経過報告書や顛末書についてはこの限りではありません。

 

労務管理と謝罪

まとめると、労働者が何かしらの不始末を犯した際に、会社が謝罪を要求する、それ自体は問題ないものの、それを強要しだすと話が変わってきてしまう、というわけです。

少なくとも、労務管理上は安易に労働者に謝罪を強要すべきではないでしょう。

会社内はそれでなんとかなっても、取引先へ謝罪しないといけない場合にその労働者に謝罪の意思がないときもあるかもしれません。

そうした場合は、監督責任ということで、会社の経営者やその人の上司に当たる人が責任を引き受けることも視野に入れておけば、最悪の事態は避けられるのではないでしょうか。もちろん、常日頃から、労働者1人に責任を押しつけるのではなく、もしものときは上司や経営者が責任を引き受けてくれる会社の方が、労働者からすると安心できると思いますが。

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土下座なんて、したくもないのはもちろん、わたしは見たくもないんですが

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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