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労務問題

労働市場の流動化なき同一労働同一賃金が上手くいかない理由

2017/01/27

人事コンサルタントの城繁幸さんのこちらの記事について、

「同一労働同一賃金なら賃下げ」は本当か

Twitterで以下のように、つぶやいたらそこそこ反響があったのですが、


140文字という制限もあり、結構言葉が足りてなかったなあと思ったので、今回ブログでまとめてみます。

 

市場に任せるか、企業に任せるか

同一労働同一賃金を達成するための方法としては、市場に任せるか企業に任せるかしかありません。もちろん、市場に任せるにしろ企業の力は必要なのですが、「主に」という意味ではこの2つしかない。

昨日、わたしに来たリプライには国に任せろ、なんてのもあったけど、

…、世界はそれを「社会主義」って呼ぶんだぜ。

で、市場に任せる、市場原理に任せるのであれば、労働市場の流動化というのが大前提である、というのが、上の記事での城さんの記事の主張。

しかし、労働市場の流動化には解雇規制の緩和や正社員の既得権益の破壊といった、世論の大きな反発を生むであろう政策を実行しなければなりません。

では、労働市場の流動化なしで、つまり、市場ではなく主に企業に任せて、同一労働同一賃金を達成しようとするとどうなるのでしょうか。

 

年功給と同一労働同一賃金は相反する

城さんも指摘するように、

従来、一般的な日本企業では、正社員の賃金は職能給と呼ばれる実質的な年功給で決められてきた。初任給から少しずつ昇給し、ベテランになってから若いころ頑張ったご褒美を貰える仕組みだ。一方の非正規雇用は、担当する仕事に値札が付く職務給と呼ばれるものが一般的だ。コンビニのレジでは、高校生のバイトと中高年のフリーターが同じ時給で仕事をしている光景も珍しくないが、あれがまさに職務給の典型だ。

「同一労働同一賃金なら賃下げ」は本当か

日本の企業の賃金は、基本的には年功給です。しかし、同一労働同一賃金を達成するためには、日本全体の給与が職務給にならないと難しい。

年功給は人に値段をつけるため、行う業務に値段をつける同一労働同一賃金と根本的に合わないからです。

例えば、年功給だと、若い頃バリバリに営業やって、高齢になって事務仕事になった、といった経歴でも、過去の営業時代の功績も給与の中に組み込まれるため、一緒に事務仕事をやっている、同一の労働を行っている若い女の子よりも全然給与が高い、ということが起こりえます。

これだと同一の業務を行っている若い女性と、高齢になってから事務仕事に就いた高齢者の賃金が同一になりません。同一労働同一賃金の原則に照らし合わせると、これは×なのです。

逆に、職務給だと、いくら営業時代に功績があっても、事務になったら、同一の労働を行う若い女の子などと給与が同等になります。

 

年功給から職務給への切り替えは行われるか

では、同一労働同一賃金が本格的に推進されると、どこもかしこも年功給から職務給に切り替えるようになるかというと、なかなかそうは考えづらいと思います。

なにせ、企業において年功給から職務給に切り替える権限を持つ人間というのは、まさにその年功給によって権益を得ている正社員だからです。

また、中小企業の場合、そうした権限を持つのは基本的にはその会社の社長さんですが、そうした方々は身銭切って給与を払っている感覚を強く持っています。

そのため、かなりおおざっぱに言うと、そうした方々の給与の決め方は、「多く払いたい人には多く払いたいけれど、払いたくない人には払いたくない」ということが多い。

しかし、職務によって給与を決めるとなると、この職務にはいくら払うかといった給与の支払い方をあらかじめ、ある程度決めておかないといけません。

なので、そもそもの考え方がなじまないし、それでなくても、中小の場合、人員が少ないため、いくつもの職務を掛け持つことも珍しくないため、職務によって給与を決めようとすると、それはそれで手間が増え面倒なことになり得る。

 

現状維持のまま同一労働同一賃金?

よって、いくら同一労働同一賃金といっても、年功給から職務給の切り替えを行わない日本の企業は少なからずあると考えられます。

そもそも給与形態や給与体系の変更というのは、企業にとって非常に大きな改革なので、そう易々と行えるところの方が少ない(その手のコンサルタントに頼むと、結構な額取られるし)。

となると、現状をある程度維持したまま、同一労働同一賃金に対応したいと考えるところも多くなる。

そんなことが可能なのか、といえば、おそらくできないことはありません。

なぜなら、パートタイム労働法では、通常労働の労働者と同等の業務を行う短時間労働に対する差別を禁止していますが、この行う業務が同等かどうかについて、行っている業務の内容が同一かどうかだけでなく、「業務に伴う責任の程度」や「人材活用の仕組みや運用」などによっても決まるとされているからです。

パートタイム労働法における「業務に伴う責任の程度」の考え方

  • 与えられている権限の範囲
    (単独で契約の締結が可能な金額の範囲、管理する部下の人数、決裁権限の範囲など)
  • 業務の成果について求められている役割
  • トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度
  • ノルマなどの成果への期待度 など

パートタイム労働法における「人材活用の仕組みや運用」の考え方

  • 転勤の有無
  • 職務内容変更の有無
  • 配置変更の有無 など

 

よって、業務に伴う責任の程度や人材活用の仕組みや運用、で現在の年功的な賃金との整合性を取ることができれば、現状維持のままでも、同一労働同一賃金は達成できなくもない(見せかけだけど)

これが、一番上のわたしのツイートで言いたかったことなのだが、ここまでで2500文字も使っているのに140文字で収まるわけがない(笑)。

 

市場からの圧力があれば企業は動かざるをえない

ただ、上記のような年功給を無理矢理に同一労働同一賃金に見せかけるのも、年功給を職務給に変更するのと同じくらい面倒なので、結局、多くの企業は、政府の奮闘むなしく同一労働同一賃金の音頭を無視することでしょう。

では、無視させないためにどうしたらいいのか、となると、それは冒頭の城さんの記事の結びを読めばわかります。

解雇しやすくなるということは、同時に採用しやすくなるということでもある。そんな愚かな会社からは、とっとと転職するといい。すき屋の一件を見ても明らかなように、流動性の高い労働市場で泣くのは、労働者ではなく質の悪い労働環境しか提供できない企業の方なのだ。

「同一労働同一賃金なら賃下げ」は本当か

労働市場の流動化が進めば、労働環境の悪い企業に人は集まらない。となると、各企業は人材確保のために給与体系や給与形態の変更を行わないといけない。どんなに面倒なことも、切羽詰まれば、生き残るためにはやるのが人間であり企業。

労働市場の流動化による、労働環境の悪い企業の淘汰が、結局は同一労働同一賃金がつながるわけです。
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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。