監督署の臨検調査

労働基準監督署や労働基準監督官は労働者を騙している

よく、残業代の未払い等がある場合、労働基準監督署に駆け込むといい、と言われます。

確かに、労働基準法第104条にはこうあります。

(監督機関に対する申告)
第百四条  事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
2  使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

 

また、労働基準監督署の監督官は、労働基準法違反の会社に対して、逮捕や送検といった処分を行う権限を持っています。

なので、未払い賃金があるのであれば、労働基準法第24条違反となるので、それをを通報するために、労働者が監督署に行くこと自体はなにも問題ありません。

しかし、監督署に未払い賃金の通報をする労働者というのは、単に通報して元いた会社に対して復讐する、というのが目的ではないでしょう。多くの通報する労働者は当然、その未払い賃金をなんとかして、会社に支払わせたいと考えています。

 

交通事故で警察官が損害賠償額を決定するか?

では、監督署に行けば、労働基準監督官が会社に対して、未払い賃金を支払うよう命令してくれるのでしょうか。

法律上はそんな権限はありません。

賃金の未払いに対して、逮捕・送検、是正勧告を行うことと、未払いの賃金を支払わせるよう命令する、というのはまったく別の権限だからです。

これは、交通事故に例えるとわかりやすい。

交通事故が起こった場合、警察官が現場にやってきます。ひどい事故の場合や法令違反がある場合、ドライバーを逮捕することもありますが、警察官が加害者に対して被害者への損害賠償の支払いを命令することはありません。

じゃあ、誰が、命令するのかと言えば、裁判官です。金銭の支払いと言った行為を命令する権限は、司法にしかないからです(普通は保険会社同士の話し合いで、損害賠償額は決まるので、裁判まで行かない方が多いだけ)

労働問題の警察官とも言える労働基準監督官もそれは同様なのです。

 

国会答弁でも否定される監督署の権限

こうした労働基準監督署の監督官の権限について、裁判所の判例はないものの、平成22年の国会答弁で、当時衆議院銀だった村田吉隆氏の、以下の質問に対して、

五 昭和六十二年五月二十二日の朝日新聞朝刊によれば、旧労働省の労働基準局監督課長松原東樹氏の話として、基発第一一〇号昭和五十七年二月十六日に関し、「指摘された通達は、監督官の業務指針として出した内部文書だ。三カ月という限度を設けたのは、割増賃金の対象となる労働時間の調査が大変手間どる作業で、一年も二年もさかのぼるのは不可能に近く、三カ月ぐらいなら何とか調べられると判断したからだ。それに、未払い分の支払いを命じる権限は、労基法上はない。しかし、何もしないのはまずいので、勧告している。」と、監督行政における遡及是正のコメントが示されている。
ここで、課長は「監督官には、未払い分の支払いを命じる権限は、労基法上はない」と発言しているわけだが、当時と現在とで事情が異なっているのか。仮に異なっているとしたならば、その理由も明らかにされたい。

※ 強調は筆者による

労働基準監督機関の役割に関する質問主意書  提出者 村田吉隆

当時首相であった、民主党の菅直人氏は

五 現在、労働基準監督官が、労働基準法上、同法に違反して支払われていない賃金の支払を命ずる権限を有していないことは、昭和六十二年当時と同様である。

※ 強調は筆者による

衆議院議員村田吉隆君提出労働基準監督機関の役割に関する質問に対する答弁書

と答えています。

 

ないものをあるように振る舞うのは詐欺だ

よって、労働者が未払い賃金があることを通報すること自体は問題ないが、その支払いを求めるなら、監督署ではなく弁護士やユニオンに行くべきだし、監督署もきちんとそう伝えるべきなのですが、わたしが知る限り、そのような対応をしているようにはまったく思えない。

ないものをあたかもあるように振る舞うのは詐欺師の所行だ。労働基準監督署や監督官は労働者を騙している。

たとえ、監督署や監督官に騙す意図はなくても、誤解や勘違いを放置していることは騙していることと変わらない。

労働基準監督機関の役割と是正勧告

名著。わたしも労基署対応の際には必ず手に取ります

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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