労務管理

有給取得率、残業削減、労働条件分科会が定める新たな政策目標とは

前回の記事では労働政策審議会について解説しました。

この労働政策審議会の下には分科会と部会があるのですが、その分科会の一つである労働条件分科会が、3月22日に開催された会で現在の目標を更新し「新たな政策目標の設定」を行っています。

労働政策審議会の分科会が目標を更新するということは、今後の政策はこれを踏まえたものになる可能性が高いということ。

なので、労務に関わる方なら知っておいて損はないでしょう。

ということで、今回はその解説です。

もともと政策目標は2つあって、今回はそのどちらも更新が行われています。

 

① 年次有給休暇の取得率を70%以上(2025年まで)

まず1つ目は2025年までに年次有給休暇の取得率を70%以上とするもの。

ここでいう70%以上というのは、以下によって計算されます。

「就労条件総合調査」常用労働者数30人以上の民営企業における、全取得日数/全付与日数(繰越日数を含まない)

 

ちなみに、2020年時点での年次有給休暇取得率は56.6%となっています。

ちなみにのちなみに、「年5日の取得義務」が始まったのが2019年4月。

なので、開始1年経ってるのにこの数字か、とも、開始1年なのでまだ浸透していなかったから伸び代がある、とも取れる感じですね。

いずれにせよ、2025年までに政府が有給取得率のアップに向けてどのような政策を出してくるのか、注目したいところです。

 

② 週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下(2025年まで)

実は達成済み?

週労働時間40時間以上の雇用者、というのは、法定労働時間が週40時間なので、大雑把に言うと週に少しでも残業している人、ということになります。

そして、週労働時間60時間以上、ということは、こちらも大雑把に言うと、週20時間以上の残業をしている人ということになります。

つまり、残業している人のうち、週20時間以上の残業をしている人の割合を5%以下にする、というのが2つ目の目標です。

で、そもそも現在の数字はどうなってるのか、というのが気になるところですが、実は2021年時点で5.0%。

つまり、達成済み・・・。

ままままま、これをキープする、っていうのが今後の目標ということでしょう。

 

2024年4月からの、中小企業でも「月60時間越え、割増賃金の割増率5割」に注意

ちなみに、週20時間っていうのは、単純計算で月80時間残業。つまり、過労死ライン。

だから、このパーセントを少しでも下げたい、というのが労働条件分科会の考えなのでしょう。

ちなみにのちなみに、来年4月からは、中小企業でも「月60時間を超える時間外労働の割増賃金の割増率は2割5分ではなく5割」になります。

それを踏まえて考えれば、この数字が極端に増えるということはないとは思われます。

 

以前の目標もチェック

ところで、今回の2つ目標は以前の目標を更新するためのものであると冒頭で述べました。

では、今回更新される前の目標が何だったか、ご存じの方はいらっしゃるでしょうか?

知らない方が多数だと思うので、早速、書かせてもらうと以下のとおりです。

  1. 年次有給休暇の完全取得を目指しつつ、年次有給休暇取得率を2020年に70%とする。
  2. 週労働時間60時間以上の雇用者の割合を2020年に現在の5割減とする。(※)

※ この目標が立てられた2008年時点の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は10.0%

 

上記のものは、2010年に立てられたもので、厳密に言うと、まだ今回の新しい目標が正式に決まったわけではないようなので、それまでは現在進行形の目標ということになります。

見てわかるとおり、1.も2.もやること自体は変わってません。

ただ、1.は達成できなかったから据え置き、2.はほぼほぼ達成できてるので、今後はこれをキープするという方向性にシフトした、ということでしょうか。

 

余談:目的と目標

ここからは完全に余談になりますが、今回の労働政策審議会の目標の立て方は、普通の人、普通の企業は決して真似てはいけません。

なぜなら、労働条件分科会は目標こそ掲げているものの、その目的は明らかにしていないからです(明らかにしてない、というと、目的がきちんとあること前提ですが、実際はあるかどうかも怪しい)。

目標というのはあくまで「目的」を達成するために掲げるものであることを忘れてはいけません。

目的を決めずに目標だけ掲げても、それは目的地も決めずに電車に乗るようなものなのです。

 

今日のあとがき

わたしは普段、ストリートファイター5を主にプレイするプロゲーマーの配信をよく見ます。いわゆる「格ゲープロ」と呼ばれる人たちです。

で、最近、そうした格ゲープロの配信で立て続けに配信されたのが「マーダーミステリー・狂気山脈」。

マーダーミステリーって? という方は、こちらの記事がわかりやすいのでどうぞ。

今話題のマーダーミステリーゲーム(マダミス)とは?マダミスのルールや魅力を徹底解説!

マーダーミステリーはトークが主体ということもあり、同じシナリオでもやる人が変われば、内容もガラッと変わります。

例えば、あるシナリオのマダミスをグループAで初見で見たとします。そして、そのシナリオを全部把握した後に、他のグループBの同じシナリオのマダミスを見ても、それはそれで違った楽しみができるわけです。

その上、それぞれプレイヤーの視点で目的も違うため、グループAのXさんの視点で見た後にYさんの視点を見るというの楽しみ方もできるわけです。

「マーダーミステリー・狂気山脈」の配信ばかり見て、「狂気山脈」熱が上がったのもあって、「狂気山脈」の元ネタである、ラブクラフトの「狂気の山脈にて」もついでに読んでしまいました。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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