みなさんは、改正法がどのように作成されているのか、ということをみなさんは考えたことはあるでしょうか?
国会議員とか官僚とかの偉い人が決めている、という程度の認識でも(法律さえ守っていれば)問題はありませんが、どのように決まっているかがわかっていると、早めにその動きを察知できたり、対応自体が楽だったりもします。
ということで、今回は法改正と関連が深い労働政策審議会について解説しています。
労働法の改正案はどこから来るの?
労働に関する政策というのは、厚生労働省の中の労働政策審議会というところでその大本の方針が作成されます。
そして、その方針に基づき、法改正案や省令改正案、指針等が作成されます。
なので、労働政策審議会の一挙手一投足に注目していれば、将来の政府の労働政策を予想したり、法改正前に、法改正の内容をある程度把握することができます。
労働政策審議会とは
労働政策審議会の仕事
この労働政策審議会について、もう少し詳しく見ていきましょう。
労働政策審議会の仕事は主に、以下の2つとなります。
- 厚生労働大臣等の諮問に応じて、労働政策に関する重要事項の調査審議を行う
- 労働政策審議会は、労働政策に関する重要事項について、厚生労働大臣等に意見を述べることができる
1.は厚生労働大臣等が主体となって何かをするときの相談役のような役回りと言えます。
一方の2.は、逆に審議会が主体となって厚生労働大臣等に働きかけをするということですね。
労働政策審議会の構成
労働政策審議会は厚生労働大臣が任命する30名の委員で組織されます。
この30名の振り分けは「公益代表委員」が10名、「労働者代表委員」が10名、「使用者代表委員」が10名となっていて、労働者側にも使用者側にも偏りがない形での構成となっています。
このような構成となっているのは、 国際労働機関(ILO)の諸条約によって規定されている「公労使三者構成の原則」を守っているためです。
分科会・部会
分科会及び部会
さて、一口に「労働政策」といっても、その分野は多岐にわたります。
労働時間や有給など、労働者の「労働条件」に関わるものや、労働者の健康や安全に関わるもの、最低賃金や雇用保険などなど。
こうした細かい分野に対応するため、労働政策審議会の下には7の「分科会」、また分科会の下には16の「部会」が設置されています。
以下は、労働政策審議会全体の組織図となります。

それぞれの分科会の役割は以下のとおり。
労働条件分科会
賃金や労働時間など、労働者の労働条件に関わる政策について検討するのが労働条件分科会です。
記憶に新しいところでは働き方改革における「年5日の有給取得義務」や「時間外労働の上限規制」などで中心的な役割を果たしました。
労働条件分科会の部会
労働条件分科会の部会は以下の3つです。
労働条件分科会労災保険部会
名前の通りですね、労災に関する政策を検討する会です。
また、労働保険料によって行われている社会復帰促進等事業についてもこちらで話し合われます。
労働条件分科会最低賃金部会
こちらも名前の通り、最低賃金に関する部会ですが、最近ではほとんど開催されていません。
というのも、最低賃金に関しては、この労働条件分科会最低賃金部会の他に「中央最低賃金審議会」があり、最低賃金のことは主にそちらで話し合われることが多いからです。
労働条件分科会有期雇用特別部会
有期雇用労働者に関する部会です。
こちらは「特別」という名前があるとおり、「有期雇用労働者の5年での無期転換ルール」の制定のためにあったような部会のため、ルール制定以降はほぼ動きがありません。
有期雇用労働者と短時間労働者が、法律上ほぼ同じ扱いになったため、今後も開催されることはないかもしれません。
安全衛生分科会
労働者の健康及び安全について話し合われる会です。
労働安全衛生法全般に関することはこの会で決まると考えて良いでしょう。
安全衛生分科会には、「安全衛生分科会じん肺部会」という部会が1つあるだけです。
勤労者生活分科会
勤労者財産形成促進制度と呼ばれる、働く人の財産づくりを支援する制度について話し合われる会です。
勤労者財産形成促進制度(財形制度)(出典:厚生労働省)
勤労者生活分科会には、「勤労者生活分科会中小企業退職金共済部会」という部会が1つあります。名前の通り「中退共」に関する部会となります。
職業安定分科会
職業安定分科会は、雇用保険や労働者派遣、職業紹介など、労働者の雇用の安定に関連する政策をメインに検討する会です。
育児・介護休業や高年齢者の雇用なども扱う、かなり幅の広い分科会となっています。
職業安定分科会には6個の部会があります。
職業安定分科会雇用保険部会
名前の通りですが、雇用保険制度に関する部会となります。
今年は雇用保険料の変更があったため、年度末となる3月31日に会が開かれるなど、かなりバタバタしていたようです。
職業安定分科会労働力需給制度部会
労働者派遣や職業紹介制度などについて話し合われる会です。
職業安定分科会地方連携部会
雇用に関する国と地方公共団体との連携状況等を確認する会で、概ね年1回開催となっています。
職業安定分科会雇用対策基本問題部会
高年齢者の雇用や外国人雇用といった、労働者の属性ごとの雇用対策、さらには建設業や介護事業といった業種ごとの雇用対策の検討が行われる会です。
職業安定分科会高年齢者有期雇用特別部会
「有期雇用労働者の5年での無期転換ルール」を、高年齢者に適用するといろいろまずいぞ、というのが無期転換ルール制定後に明らかになりました。
こちらはその対策のためにできたような部会なので、有期雇用特別措置法制定後は特に動きはありません。
職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会
こちらは同一労働同一賃金に関する部会です。
職業安定分科会と、後で紹介する「雇用環境・均等分科会」の2つの分科会の下の部会という扱いのため、名称が上記のようになっています。
働き方改革関連法施行後は特に動きはありません。
障害者雇用分科会
障がい者の雇用促進や、そのための制度について検討する会です。
直近だと、障害者雇用納付金制度に関する見直しが話し合われています。
人材開発分科会
人材開発、ということで職業訓練のほか、企業内や学校での学び直しといった政策を検討する会となっています。
人材開発分科会の下には「人材開発分科会監理団体審査部会」という部会が1つありますが、「審査」という性質上、部会での話し合い内容は原則非公開となっています。
雇用環境・均等分科会
主に女性の働き方や、次世代の若者の働き方についての政策を検討する会となっています。
その性質上、育児介護休業法や女性活躍推進法、次世代法に関する検討が主となっています。
雇用環境・均等分科会には2つの部会があります。
雇用環境・均等分科会家内労働部会
家内労働とは、いわゆる「内職」のこと。
つまり、この部会は主に内職についての検討が行われる回となります。
職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会
職業安定分科会のところでも説明したとおり、同一労働同一賃金部会は、雇用環境・均等分科会の部会でもあるので、改めてここに掲載。
その他
上記の他、労働政策基本部会、労働政策基本方針部会という、上に分科会を置かない部会があります。
まとめ
以上を大雑把にまとめると、以下のとおりです。
- 労働基準法関連のことが知りたかったら労働条件分科会
- 安全衛生法関連ことを知りたかったら安全衛生分科会
- 労災関連のことが知りたかったら労働条件分科会労災保険部会
- 雇用保険法関連のことが知りたかったら職業安定分科会
委員会
分科会及び部会の他に、「専門委員会」などが置かれる場合もあります。
こちらは分科会や部会でも対応できないようなさらに細かい専門分野への対応を主目的に置かれるものとなります。
ちなみに、分科会や部会が「法令に基づく行政組織」である一方、専門委員会については設置に際し、そうした法的な根拠はありません。
審議会・分科会・部会の議論内容
議論内容は原則ネットで公開
審議会・分科会・部会の議論内容は基本的に厚生労働省のHPにて公開されています。
ただ、議事録の公開は、会の開催後、しばらく経ってからしか公開されません(文字起こしの時間がかかるためでしょう)。
資料は開催後すぐに確認可能
一方で、審議会で使用された資料は会の開催後、すぐに見られます。
どんな会議もだいたいそうですが、だいたいの会議の内容は資料を見ればわかります。
労働政策審議会のものも例外ではなく、これらの資料を見れば今後のだいたいの政策の方向性や、法改正・省令改正の内容がわかるわけです。
なので、時代を先取りしたい方は、こちらをじっくり読んでみるのも良いでしょう。
まあ、普通の人は、法改正後に厚生労働省が発行するリーフレットやパンフレットで十分だとは思いますが。

