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労務問題

現代の身分制度を考える -なぜ非正規労働者は正社員になれないか-

2016/04/20

現在の日本の雇用情勢は、現代の身分制度とはよく言ったものだと思います。

なにせ、一度どこかの身分に収まってしまうと、そこからなかなか抜け出せないわけですから。

では、なぜ抜け出せないのか、というのを今回はちょっと解説していきたいと思います。

 

4つの身分

現在の日本の雇用形態では大きく分けて以下の4つの身分が存在しています。

① 正社員
② 有期契約社員 
③ 無期契約社員 
④ 派遣社員

上記の4つの中でみなさんが最も馴染みがないのは③の無期契約社員でしょう。

これは昨年4月の労働契約法の改正により一般化した身分です。有期契約社員の期間が通算で5年以上となると、労働者は会社に対して無期契約を申し込むことができるとしたこの改正ですが、多くの会社は有期契約社員を正社員化するのではなく、あくまで有期契約社員時代の労働条件を維持したまま契約期間だけを無期にすることを望んだため、多くの会社の就業規則にその名を刻むことになりました。

ただ、名前だけを聞くと新しい概念に聞こえますが、昔からパートやアルバイトで特に契約期間等を定めずに、正社員とは異なる労働条件で学生やフリーターを雇うといことはよくあったので、労働市場上で新しい・珍しいという契約形態でもありません。

これを序列順に並べると以下のようになります。

正社員>無期契約社員>有期契約社員>派遣社員

 

契約社員が正社員になれない理由

前述の労働契約法の法改正により、有期契約社員から無期契約社員からのステップアップへの道が法的に整備されたわけですが、現実には法整備以前より有期から無期への移行は難しくなりました。

法整備以前は、労使間の暗黙の了解のような形で有期契約であってもほぼ無期に近い形で契約を結んでいたのですが、こうした法整備によって、5年で無期化しなければならないなら、その前に契約を切ってしまおうと企業側は考えたからです。無期とほぼ変わらない形で働いていた有期契約社員にとってはこれは大きな痛手であったのは言うまでもありません。

結果、有期契約社員と無期契約社員の身分差はより明確になったわけですが、有期であれ無期であれ、法律や司法の力によって正社員になることが難しいのは変わりありません。

契約社員に関する裁判例とは過去に幾つもあります。しかし、正社員と職務等が変わらないので正社員と同様になるよう考慮せよ(丸子警報機事件(平成8年 長野地裁上田支部判決))といった判決は有りますが、契約社員を正社員にしろ、という判例はありません。

これは民法の「私的自治の原則」および、それを具体化する「契約自由の原則」から導き出されるもので、法律および公序良俗に反しない限り、会社と労働者がどのような契約を結んでも良いからです。

丸子警報器事件では業務内容が同一にもかかわらず、契約社員の賃金額が正社員のそれの8割以下となっていたことを理由に公序良俗に反すると判断しましたが、正社員にせよ、とは言ってません。そこまでやってしまうと、「私的自治の原則」を誰あろう裁判所が侵すことになるからでしょう。

 

派遣社員が派遣先で正社員になるのは夢物語?!

派遣社員は基本的に派遣元となる会社で②もしくは③の契約を結んでいます。なので派遣社員というのは④でありつつ②or③の身分を同時に有しているわけです。その意味で、派遣社員が派遣元で正社員になれない理由は契約社員がそうなれない理由と同じです。

しかし、派遣社員が業務を行うのは基本的に派遣元ではなく派遣先です。なので、派遣期間が短い登録型の場合はともかく、長い期間一定の場所に派遣される派遣社員からしてみれば派遣先で正社員になりたいと考えるのが普通でしょう。

しかし、これははっきり言って夢物語といわざるをえません。これを端的に示すのがいよぎんスタッフサービス事件です。

いよぎんスタッフサービス事件では、長期にわたって派遣されていた派遣社員と派遣先には事実上の雇用関係が存在する、という労働者側の主張を退けています。

派遣法の目的には派遣社員の保護と別に、派遣社員を常用労働者的に扱うという常用代替を防止することにあるとされています。つまり、派遣先は派遣社員を派遣先の常用労働者扱いをしてはいけないというわけです。派遣社員が派遣先で雇用契約を結ぶ、というのは究極的な常用代替と言えなくもない。

そのため、いよぎんスタッフサービス事件の判決では派遣社員と派遣先の黙示の雇用契約が成立するには、「派遣労働者が派遣先の指揮命令のもとに派遣先に労務を供給する意思を有している」こと、および、「派遣先がその対価として派遣労働者に賃金を支払う意思が推認」されなければ」、派遣労働者と派遣先に雇用関係があるとはいえない、としました。

前者は、派遣社員側が常に望んでいることなのでべつにいいでしょう。しかし、後者はどうでしょうか。

派遣先が支払うのは派遣元への派遣料であり、派遣社員に対する賃金ではありません。ですが、この判例では、派遣先が派遣元への派遣料ではなく、派遣社員に賃金を支払う意思が推認されないといけないとしたのです。そんな意思を表す派遣先の会社なんて普通はあるはずもありません。というわけで、派遣社員が派遣先で社員になるのは、正社員どころか契約社員になるのも不可能に近いというわけです。

 

特権階級に就きたいか、競争原理に身を置きたいか

現在の日本の身分制度は、司法のお墨付きもあって、特に正社員の位置は非常に強固なものとなっています。

一方、国としては、契約社員や派遣社員といった非正規雇用労働者をどうにかして正規雇用化しようとしていますが、昨年の改正労働契約法にしろ、一昨年の労働者派遣法にしろ上手くいっていません。そもそも、うまくいく方策があるとも思えません。今の日本経済に非正規雇用をすべて正社員化するだけの許容量がないからです。

また、歴史上を見ても、身分制度の根本的な問題は、一部の身分の者が他に比べて非常に大きな権益を得る点に有ります。それは正規と非正規という身分制度にしても同様です。正社員の既得権益というのは、手当等の待遇が非正規に比べて高過ぎる点や、よっぽどのことがない限り解雇されない(できない)といった点です。彼らのこうした権益を守るために非正規労働者は犠牲になっていると言っていい。

特に正社員の解雇されない特権は強力で、非常に出来の悪い正社員も会社が解雇できないため、その代わりに優秀な非正規労働者を雇用する、ということが難しい。そのため、正規と非正規のあいだに上手く競争原理が働かず、企業活動が停滞を招いている。

逆を言えば、これらの点が解消されるのなら、別にすべての非正規を正規化する必要もありません。しかし、それは正社員の既得権益を奪うだけでなく、望む望まざるを問わず非正規労働者たちも他の身分との競争を勝ち抜かなければ自分の待遇が良くなることはないということでもあります。

これまでどおり、正社員をヒエラルキーの一番上において、何かのきっかけで一番上の階級に行けることを願うか、それとも他との競争を勝ち抜いて自分の力で高待遇を勝ち取るか。

どちらを選択するかは日本人の民意次第、と言いたいところですが、グローバル化の進む世界経済の中、中国や東南アジアとの競争下でそんな悠長なことを言ってられる余裕が今の日本にあるか、大いに疑問です。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。