労務相談を受けたり、就業規則・労働契約の作成等を行っていると、「裁判になったときに勝てるのか」みたいなことをしきりに気にされる経営者や人事労務担当者の方がいます。
もちろん、社会保険労務士が労務相談を受けたり、就業規則や労働契約を作成する際、その辺りのことをケアしないということはあり得ません。
ただ、あまり気にしてもしょうがない、というのもまた事実。
なぜなら、日本ではそもそも、労務トラブルが裁判に発展すること自体がまれだからです。
この記事の目次
1. データで見る日本の労働関連訴訟
実際、労務トラブルが裁判に発展するケースがどれくらいあるかというと以下のとおり。
2019年の新規の労働関連訴訟は、裁判と労働審判合わせて約7300件。
統計の年数がバラバラで申し訳ありませんが、全規模(大企業と中小企業・小規模事業者の合計)の事業者の数は2016年時点で358.9万者(会社ではない個人事業も含めているため社、ではなく者)。
また、2021年の雇用者数は5677万人です。
会社・個人事業が358.9万者(事業者の数は年々減少傾向なので、今はもっと少ないはずですが)ある中で、年7300件程度しか訴訟に発展してないと考えると、日本では労務トラブルが裁判に発展することはまれと考えて問題ないかと思います。
2. なぜ、裁判が起きる会社と起きない会社があるのか
ただ、「裁判に発展することはまれ」といっても、発展する場合があることもまた事実です。
では、どうしてそういうことが起きるかというと、一つには労働者側の特性があります。要するに、訴えてきた人が「そういう人だった」ということです。
一方で、会社側に原因がある、という場合ももちろんあります。
わかりやすいところでいうと、法律を守っていない場合がそれです。が、不思議なことに、法律を守っていなくても訴えられないところって訴えられないんですよね。
また、法律上問題ないかどうかを断定しづらい会社側の行為もあります。
例えば、解雇や賃金の引下げというのは、それが正当なものであるかどうかは、過去の判例からある程度予想はできても、最終的には裁判をしてみるまでわかりません。
ただ、これらについても、同じような事例であっても、訴えられる会社と訴えられない会社があります。
3. フェラーリに乗る社長に「経営が苦しいから給与を下げる」といわれて納得できるか
会社が法律を守っていない、あるいはそれが法律上問題ないかどうか曖昧な場合に、労働者が訴えてくる場合と、訴えてこない場合があるのはなぜでしょうか。
これには、既に述べたように、労働者側の特性が関わってくるのは確かですが、それ以外にも要因があります。
それは、会社側の行為に、労働者側が納得しているかどうか。
人間は他人が法律に違反していると思うから誰かを訴えるわけじゃない、自分が損してる、納得いかない、と思うから訴えるのです。
例えば、会社の経営が苦しいから賃金を下げる、と言ってる経営者がフェラーリで出勤していたら、賃金を下げられた労働者は納得できるでしょうか。
経営が苦しいからって社長がフェラーリに乗っちゃいけないと言ってるわけではありません。
また、フェラーリに乗ってるかどうかで、賃金を引き下げることの合理性が失われるかというとそういうことはないと思いますが、労働者側が納得できない気持ちは増します。端的に言えば「会社の経営が苦しいなら、そのフェラーリ売れよ」って思うわけです。
そこまで極端じゃなくても、会社の経営が苦しいといってもどれくらい苦しいのかは労働者側からはわからないので、その辺りの説明がないと、やはり納得しづらいという労働者は多いと思います。
4. 納得できる解雇、納得いかない解雇
一方、会社から金を横領して懲戒解雇された場合に、それに納得がいかないといって訴えるという人はあまりいません(やる人もいますが、だいたい負けてます)。
これは自分がやったことの罪と、与えられた罰に労働者側が納得しているからでしょう。
逆に、能力不足で解雇された場合などで、労働者側が訴えてくる場合というのは、そういった会社の評価に労働者側が納得してないからです。
会社から見たら明らかに能力不足だと感じても、本人からしたら一生懸命やっていると思っているかもしれませんし、周りだってできてない人がいると思っているかもしれません。あるいは、仕事ができないのは会社のサポートがないからだと思っていたりすると、能力不足で解雇、といわれても納得できないわけです。
5. 納得性があれば裁判でも有利に
そして、もっと言ってしまうと、客観的に見て、これは労働者側が事情を汲んで納得するしかないよね、ってくらい会社がきちんとしてる場合、会社が裁判で有利になることが多いです。
例えば、賃金の引下げに当たって経過措置を置いたり、代わりに労働時間を減らしたり、あるいは労働組合等と十分な話し合いをしたかなどは、裁判の際に、賃金の引下げの正当性の要件として問われるものですが、やっていればやっているほど、労働者側の納得を得やすいという性質のものでもあります。
能力不足の解雇の例についても、本人が能力不足を自覚してない場合はそれをいかに自覚させるかで、能力不足という会社の見方に納得性を持たせることができます。
6. まとめ
冒頭で述べたとおり、社会保険労務士が労務相談を受けたり、就業規則や労働契約書を作成する際に裁判になった場合のことを考えない、ということはあり得ません。
その一方で、そうなる前にやれることはあるし、そうなる前で留められる方が会社にとっても労働者にとってもプラスであることを心に留めておいてほしいと思っています。
逆にいうと、そうなってしまうのは日頃の労務管理の問題の可能性が高いと思った方が良いでしょう。
今日のあとがき
今日のあとがきというか、最近は今日の源氏物語、みたいになっておりますこのあとがき。
むしろ、今日の源氏物語を書きたくて、ブログの記事を書いてるまである(言い過ぎだけど)。
にしても、あれですね。光源氏ってやつはド畜生ですね。
今だったらフェミニスト大激怒、連日、不倫だ何だとワイドショーを騒がせること間違いなし。
そのド畜生ぶりが54帖あるうちの2帖でその片鱗、というかほぼ全貌が現れているってのもまた笑ってしまいますが。
与謝野晶子現代語訳の源氏物語は青空文庫で読めるので是非!