雇用保険制度

起業に失敗しても失業保険がもらえるかも!? 受給期間の特例を解説

2022年4月7日

雇用保険上、起業した場合というのは、基本的に職に就いたとみなされます。

そのため、離職後に起業すると、雇用保険の基本手当(失業保険)をもらう権利を持っていたとしても、基本手当を受給することができなくなっていました。

この点について、今年の7月からの法改正では、特例が設けられます。

具体的には、仮に起業に失敗しても失業保険がもらえる、というのがその要旨なのですが、今回はもう少し詳しくこの特例を解説。

 

基本手当の基本の基本

まず、特例について解説する前に基本手当の、本当に基本的な部分だけを簡単に解説しておきましょう。

 

被保険者期間と受給権

雇用保険の基本手当は、原則、離職前の2年間に12か月以上の被保険者期間がある場合、受給権が発生します。

 

失業1日分の給付額と所定給付日数日数

基本手当として受給できる額については、まず、離職前の給与を基準に失業1日分の日額を決定します。

そして、離職前の被保険者期間の長さや離職理由によって受給できる日数(所定給付日数)を決定するのですが、基本は90日分です。

 

受給期間

また、基本手当がもらえる期間は、原則、離職した日の翌日から1年間です。基本手当の日数が残っていたとしても、この期間を超える場合は基本手当をもらうことができません。

これを受給期間といいます。

受給期間の延長

この受給期間は、病気やケガ、出産や育児などにより引き続き30日以上職業に就くことができない期間がある場合、その分の日数を受給期間に加えることができます。

つまり、特定の理由がある場合、受給期間を延長することができるわけです。(延長時の受給期間の最大は4年)

 

 

事業を開始した受給資格者等に係る受給期間の特例

さて、ここからは、今回の本題である「起業に失敗しても失業保険がもらえる」特例について。

事業を開始すると、所定給付日数や受給期間が残っていたとしても、そこで基本手当の支給が止まってしまいます(※)。

とはいえ、起業というのは常にリスクのあるもの。

上手くいくと思って始めてみたけれど、あえなく短命に終わってしまうこともしばしば。

今回の法改正では、こうした短命に終わった起業の起業者の生活を保護するため、起業に関しても「受給期間の延長」の要件とされました。

※「当該事業により自立することができる」とハローワークが判断した場合に限る

出典:雇用保険法施行規則等の一部を改正する省令案概要(リンク先PDF 第178回労働政策審議会職業安定分科会資料

 

特例を受けるための手続き

この受給期間の延長の特例を受けるためには、以下の手続きを行う必要があります。

① 申請者は、受給期間延長等申請書に、登記事項証明書等(開業届や事業許可証等)を添付して、管轄公共職業安定所の長に提出しなければならないこと。

② 申請手続きは、事業開始日の翌日から2か月以内にしなければならないこと(※ 天災その他やむを得ない理由がある場合を除く)。

③ 受給期間特例の手続後、当該事業を廃止又は休止した場合等においては、その旨を速やかに管轄公共職業安定所の長に届け出なければならないこと。

 

②の事業開始日の翌日から2か月以内に申請手続きが必要というのが、一番の注意事項ですかね。

事業に失敗した後では遅いわけです。

 

特例の対象者

この特例の対象者は、基本的に「離職日後に事業を開始した者」が該当しますが、それ以外にも、以下の人たちについては特例の対象となります。

原則は「離職日後に事業を開始した者」が対象。ただし、次の場合も特例の対象となる。

① 離職日以前に事業を開始し、離職日後に当該事業に専念する者

② その他事業を開始した者に準ずるものと管轄公共職業安定所の長が認めた者

 

 

対象事業

起こした(けど、失敗した)事業についても、以下のように要件があります。

① 事業開始日から受給期間終了日(原則として離職日の1年後)までの期間が30日未満であるもの

② 受給資格者がその事業の開始に際して、所定給付日数の残日数について一定の手当(再就職手当又は就業手当)の支給を受けたもの

③ その事業により当該事業を実施する受給資格者が自立することができないと管轄公共職業安定所の長が認めたもの

 

一番、わかりづらいのが①ですが、こちらは受給期間のギリギリに事業を開始した場合は延長の対象にはならない、ということですね。

 

 

再就職手当との関係

さて、この起業者に対する受給期間の延長の特例とは別に、起業者が受けられる可能性のある雇用保険の給付があります。

それは、再就職手当。

この再就職手当は、基本手当を全て受給しきる前に、再就職を決めた者に支給される給付となります。

世の中には、もらえるものはもらう、基本手当を全部もらうまで就職をするのはいいや、という人もいるので、そういう人をなるべく減らすための給付となっています。

 

再就職手当の額は、基本手当の日数をどれだけ残しているかによって決まる

この再就職手当なのですが、その受給額は、基本手当をどの程度もらったかによって、以下のようにもらえる額が変わってきます。

  1. 所定給付日数の3分の2以上の日数を残して早期に再就職した場合・・・基本手当の支給残日数の60%の額
  2. 所定給付日数を3分の1以上の日数を残して早期に再就職した場合・・・基本手当の支給残日数の50%の額

 

再就職手当は起業者でももらえる

そして、すでに述べたように、再就職手当は起業した場合、「当該事業により自立することができる」とハローワークが判断すれば、起業者でももらえることができます。

一方で、一度、再就職手当をもらうと、以降、基本手当をもらうことはできません。

つまり、起業時に、再就職手当をもらうか、基本手当の受給期間を延長するかは二者択一となるわけです。

 

 

失敗前提で起業する人はいないが・・・

通常、失敗を前提に起業する人はいません。

一方で、起業時は何かとお金が入り用な上、収入も安定していないことがほとんどです。

なので、基本手当の受給期間の延長よりも、再就職手当の受給を選ぶ、という人が多いのでは、と個人的には思ってしまいます。

とはいえ、選択肢が増えること自体は悪いことではないと思いますけどね。

 

資料:雇用保険法施行規則等の一部を改正する省令案要網(リンク先PDF 第178回労働政策審議会職業安定分科会資料

 

今日のあとがき

名古屋といえばコメダのお膝、である上、あの洒落た感じがどうにも肌に合わなかったので、わたしはこれまで滅多にスタバに行くことがありませんでした。

しかし、最近、たまたま「スターバックス成功物語」を読んだ結果、あっさり宗旨替え。カフェのファーストチョイスをスタバに変更しました(ゆえに、値上げはちょっと痛い。しょうがないけど。 )。

スターバックスを世界的大会社にした立役者ハワード・シュルツ氏のコーヒーへの熱意が文面から香ってくる名著です。

ちなみに、スターバックスの経営戦略の代名詞のように使われる「第三の場所」という言葉が、本書では一切出てこないのも興味深いところだったりします。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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