労務管理

軽すぎ? 罰せられるのは誰? 労働基準法の「罰則」の基本の話

2019年3月25日

労働基準法に違反した場合、罰則がありますが、今日はこの罰則の基本を解説したいと思います。

 

労働基準法の罰則の種類

最も重い罰則は「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」

労働基準法の罰則は良く軽すぎる、と言われます。

実際のところはどうでしょうか。

社労士試験でも問題としてでることがありますが、労働基準法で一番重い罰則は労働基準法5条「強制労働の禁止」違反で「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」です。

そして、この労働基準法5条違反の罰則の重さは他と比べて突出しています。

 

代表的な労働基準法の罰則

実際、他の労働法の罰則の代表的なものを以下にまとめてみましたが、比べると一目瞭然です。

罰則 代表的なもの
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 6条(中間搾取の排除)、56条(最低年齢)等
6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金 32条(労働時間)、34条(休憩)、35条(休日)、65条(産前産後)等
30万円以下の罰金 14条(契約期間等)、24条(賃金の支払)、25条(非常時払)、26条(休業手当)等

こうしてみると、ニュースなどでよく見る刑事事件のそれと比べると、確かに刑罰は軽いといえるでしょう。

 

労働基準法には併合罪が適用される

ただし、刑法の併合罪が、労働基準法の罰則にも適用される点には注意が必要です。

労働者1人当たりに対する罪(違反)が併合されると、例えば、「30万円以下の罰金」に値する違反を労働者3人に対して行っていたとすると、「30万円以下の罰金×3」となります。

直近では、2019年4月1日からの年次有給休暇の年5日の取得義務についても、5日の取得をさせていない1人当たりにつき「30万円以下の罰金」となるため注意が必要です。

 

誰を罰するのか

労働基準法違反の罰則対象は「この法律の違反行為をした者」

労働基準法違反の場合、その罰則の対象者は誰になるのでしょう。

法律の条文には「この法律の違反行為をした者」となっています。

よって、誰にでもその可能性はあるといえます。

とはいえ、労働基準法の条文の多くは「使用者」が主語となっているので、基本的には「使用者(※)」側に属する人たちが対象となります(数は少ないですが、労働者や労働基準監督官を対象とするものもあります)。

例えば、労働基準法32条は

第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

とあり、使用者に対して法定労働時間を超えて働かせることを禁止しています。

よって、それを超えて働かせた場合、それに従った労働者ではなく、命令を出した使用者が罰則の対象となります。

 

※ 使用者とは「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」をいい、平たくいうと会社側の人を指します。

 

両罰規定

また、労働基準法の条文のうち「労働者に関する事項」については、違反者が「事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者」に当たる場合、「事業主」もまた罰金刑の対象となります。これを両罰規定といいます。

ここでいう「事業主」とは、法人の場合はその「法人」、個人の場合は「個人事業主」となります。

ただし、これだと会社員の誰かが、会社の意図に反して法律に違反し、会社に損害を与えることもできてしまいます。

例えば、会社は残業削減に力を入れているのに、ある部署の責任者は部下に必要以上に残業させていた場合などがそれです。

よって、事業主が違反の防止に必要な措置をしている場合については、両罰規定(罰金刑)の対象にはならないとされています。

 

電通事件にみる両罰規定

両罰規定のわかりやすい実例として悪名高い電通の過労死事件です。

本件では、過労死した女性社員の元上司は「起訴猶予」、会社自体には「罰金50万円」という処分が行われています。

元上司は「起訴猶予」となっていますが、ここでは罰則を与えられたかどうかではなく、罪に問われたこと自体が重要なので、例として挙げました。

 

逮捕・送検より恐ろしいこと

逮捕・送検の前段階「是正勧告・指導」

当然ですが、罰則が軽いなら法に違反してもいい、ということにはなりません。

それはモラルや規範の話ではなく、極めて実利的な理由です。

法違反を犯している状態で、監督署の調査が入れば是正勧告や指導の対象となります。これは受けてみないとわからないかもしれませんが、実際、この対応にはかなりの会社のリソースを奪われます。

 

メディアで報道されれば罰則以上の損害に

加えて、法違反がメディアで報じられれば企業ブランドを傷つけることにもなります。

企業規模や法違反の内容的に、メディアで報じられるほどではない場合であっても、今の時代、ネットの口コミで悪評が立つこともあります。そうなると、人手不足の現代では、求人が困難になりますし、法違反が常態化している会社に残る社員、というのも今のご時世少ないでしょう。

また、法違反を端緒とする過重労働による過労死やメンタルヘルスについては、損害賠償請求額が莫大となることが多く、法律上の罰金とは比べものになりません。

要するに罰則だけを唯一のリスクと考えると、その何倍、何十倍、何百倍もの損害を受ける可能性があるわけです。

 

以上です。

そうはいっても、今の労働基準法が厳しすぎる部分があるのも確かです。

ですが、厳しいから守らなくてもいい、と初めから考えていては、上で挙げたようなリスクもあり、残念ながらその会社の未来は危ういと思います。

しかし、今は守れてないところもあるけれど必ず守れるよう企業努力する、という会社であれば、それが原動力となり、きっと大きな成長が望めるのではないでしょうか。わたし個人としてもそうした会社については積極的に応援したいと思っています。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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