労務管理

台風や大雪による「帰宅命令・帰宅指示」と休業手当の関係を解説

2017年8月8日

名古屋は昨日の深夜くらいまでが雨のピークでしたが、これを書いている現在ではまだまだ台風の影響の大きい地域も多いようです(このときはちょうど平成29年台風第5号が日本に上陸していました)。

そして、台風が日本列島に上陸する中、昨日のTwitterで話題になっていたのが「帰宅指示」あるいは「帰宅命令」が会社から出たかどうか。

ようするに、Twitter民たちは「台風が来ていて危ないから今日はもう帰りなさい」と会社から帰宅の指示や命令が出たか出てないかで、自分の会社が「ブラック」かどうか格付けし合ってたわけです。

まあ、呟きを見てると、悪天候の中「(帰宅命令で)会社からほっぽり出される方がブラック」と捉える人もいたりいなかったりでしたが。

今回はこうした自然災害、台風に限らず、大雨や大雪時に会社が労働者に対して出す帰宅指示や帰宅命令についてです。

 

業務の途中での帰宅命令・帰宅指示で会社が注意すべきこと

業務の途中で帰宅指示や帰宅命令を出す場合というのは、基本的にはその日の所定労働時間をすべて消化してないと考えられます。

例えば、午前9時出社、午後18時退社(休憩は正午から1時間)の会社で、午後の2時に帰宅を指示した場合、所定労働時間を4時間残すことになります。

日本の法律はわずかな例外を除き労働時間に賃金が紐付いているので、この4時間分の賃金が問題となります。

 

休業手当と天災事変

会社都合の範囲は思っているより大きい

労働基準法では会社の都合で休業する場合、休業手当として平均賃金の6割以上を支払うことを義務として定めています。

この休業手当については、休業に関しても丸一日休業の場合でなくても、半日休業の場合のように1日の賃金が平均賃金の6割を超えないと考えられる場合は、働いた分の賃金と6割に達する分のその差額を支払う必要があります。

また、ここでいう「会社都合」というのは、実はかなり範囲が大きく、例えば、会社の取引先の都合によりその日の仕事がなくなった、という場合でも「他の仕事を与えられなかった会社が悪い」ということで会社都合となります。

逆に会社都合ではない、とされるには、難しい言葉を使うなら「外部起因性」と「防止不可能性」といった不可抗力が原因でないとダメとされています。

 

天変地変が原因なら全部会社都合じゃない?

この「外部起因性」と「防止不可能性」の2つがある不可抗力、というのが天災事変であり、天災事変によって業務を継続することが困難な場合の休業は会社都合とはなりません。

当然、台風は天災事変以外のなにものでもないのですが、台風が原因の休業は必ず会社都合とならず休業手当を払う必要もない、とは簡単にはいかないのが労働法の難しいところ。

問題は予報等を考慮して被害が出る前に帰宅を指示・命令する場合です。

 

その帰宅は「会社の命令」か「労働者の判断」か

実際に被害に遭っての休業なら天変地異

天変地変によって「実際に」会社が被害を受けて業務を行うことが困難という場合、会社が休業手当の支払い義務を免れることに疑いはありません。

 

天変地異が予想される場合の対応で休業手当支払い義務の有無は変わる

しかし、台風のように天気予報であらかじめ被害が予想される場合に帰宅を指示・命令する場合、その時点ではまだ会社や労働者に何の被害もない状態です。

何の被害もないので業務を継続することもできます。

で、結局、こうした場合に休業手当の支払い義務があるのか、というと、これはあるともないとも言えます。

というのも、会社の「命令」で労働者に帰宅を命令する場合、労働者側に決定権はなく「会社都合」で帰らせると考えられます。

繰り返しになりますが、その時点ではまだ会社や労働者に何の被害もない状態、そうした状態では天変地変による休業とは認められません。

つまり、予防的な「帰宅命令」の場合、会社には休業手当の支払い義務はあると言えます。

その一方で、命令ではなく「労働者に帰宅の判断を任せるような会社の指示」であれば、帰宅するかどうかは労働者の判断によるため、例え、労働者がその指示により帰ったとしても、休業手当の支払い義務はないと考えられます。

 

会社の安全配慮義務

さて、災害が迫っている場合、休業手当のことも気になりますが、一番はやはり労働者の安全です。

そして、労働者の安全を考えずに帰宅指示や帰宅命令を出さなかった場合、会社が安全配慮義務に問われる可能性もあることに注意が必要です。

 

まとめ

まとめると以下のようになります。

  • 天災地変によって実際に被害を受けたため休業→休業手当の支払い義務なし
  • 天災地変が予想されるので会社命令で帰宅を指示→休業手当の支払い義務あり
  • 天災地変が予想されるので労働者の判断に帰宅を委ねる→休業手当の支払い義務なし

 

以上です。

労働者に予防的な帰宅を命令・指示する場合は、労働者にどれだけの裁量があるかが判断のポイントとなります。

一方で、こうした災害級の悪天候で帰宅を命令・指示する場合については、休業手当ではなく、賃金を全額支払ってしまっても問題はありません。

むしろ、その方が労働者も帰りやすいでしょう。

いずれにせよ、台風のように悪天候やその他の天災時に関しては、休業手当のことは事後に考えてもいいと思うので、まずは労働者の安全を最優先に考えたいものです。

 

今日のあとがき

昨日は台風による天候の悪化と帰宅時間がどん被りして、一時は事務所に泊まることも考えましたが、強行軍で帰宅。

傘一本の尊い犠牲はあったものの、わたし自身は無事無傷で帰ることができました。

ただ、それよりも勘弁して欲しかったのが、真夜中に家の近所で鳴り響く自動車の防犯装置。

どういう理由でかは知りませんが、定期的にビービービービー、雨風の音よりよっぽどうるさいったらない。

台風じゃなかったら即110番してたところですが、さすがに昨日はおまわりさんに悪い気がして・・・、鳴ってる音が聞こえるってことは盗まれてないってことだし・・・。

おかげで今日は寝不足です。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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