労務管理

社労士が本当は教えたくないバイトドタキャンの真実

2014年8月26日

前回の記事の補足

人間は自由という刑に処せられている」とサルトルが言うとおり、学生アルバイトがバイトを辞めることができないなんてありえません。できないとすれば、その自由を行使することによって、何らかの不利益があり、それが意識に歯止めをかけているから。

しかし、例えば、学生アルバイトがバイト先に「辞めるな」と言われて、でも、その制止を振り切って辞めたとしても、実は学生アルバイトにはほとんど不利益がありません。今回はその解説。

ドタキャンバイトに損害賠償を請求できるか

バイトをドタキャンしてそのまま辞める、というのは労働契約違反に当たります。これは労働者側に非のある契約違反なので、会社は損害賠償を請求できる、・・・といえばできるのですが、バイトのドタキャンで発生する金銭的損害なんてたかが知れている上、バイトのドタキャンと会社の損害の因果関係を証明することも簡単なことではありません。

一応、労働者の退職による損害賠償の判例では、ケイズインターナショナル事件というものがあり、この事件では、労働者の退職で会社が受けた損害について、裁判所は労働者に70万円の支払いを命じています。ただ、これは、労働者の退職によって会社が新規に行うはずだった1000万円規模の取引をポシャらせたためであり、それでも、もともと会社と労働者が念書で取り決めていたという200万円という額からは3分の1まで減額されています。まあ、なんにせよ、学生アルバイトにそんな大きな仕事は回ってこないので関係のない話です。

なので、例えばドタキャン後に元のバイト先から損害賠償の請求が来たとしても、内容証明でもない限りは無視して構いません。会社の意図としては、請求して向こうが払ってくれれば御の字くらいで請求しているだけで、くたびれ損の骨折り儲けになることが目に見えている法廷闘争を積極的に行う気はないはずだからです。

適法な形でも簡単退職

ドタキャンでいきなり、ていうのはさすがに人として・・・、と思うなら、とりあえず口頭でも書面でもいいので(でも、できれば書面の方がいいかな)退職の意志をバイト先に伝えてみましょう。どうせバイト先が許可してくれない? いえいえ、バイト先の許可なんて関係ありません。 

なぜなら、民法第267条1で、以下のようになっているからです。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

つまり、雇用契約期間があらかじめ決まっていない形でバイト先と契約した場合、退職の申入れ後2週間が経過すれば、バイト先の意志に関係なく労働者は退職することが可能なのです。じゃあ、有期雇用でバイトしている場合はどうすればいいのか、といえば、契約を延長することなく雇用契約期間の満了をもって退職すればいいだけです。

悪用はやめましょう

損害賠償の面から見ても、退職の面から見ても、基本的に労働法も労働裁判も、労働者に有利になるようにできています。逆を言えば、バイトがドタキャンなどでいきなり辞められると、会社は泣き寝入りするしかないわけです。急に空いた穴を埋めないといけないし、OJTに使ったコストもパーになるし、損害賠償だってろくに取れないわけですから。よく、ブラック企業批判で労働者は泣き寝入りするな、なんて言いますが、会社だって結構な枕を濡らしているというわけです。

だから、企業の経営者や総務・人事の方とお仕事することの多い社労士としては、こんなことはあまりブログに書きたくなかったのですが、「バイトを辞めさせてくれない、辞めさせてくれない」って言ってる学生バイトがあまりにも阿呆すぎたので、前回に引き続きブログを書いてみました。

今回はこんなところです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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