労務管理

忘れられる権利と労務管理(リベンジポルノ編)

2016年8月10日

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最近良く聞くようになった権利に「忘れられる権利」というものがあります。

ネット上に拡散してしまった、個人情報やプライバシーを侵害する情報、誹謗中傷などを削除してもらう権利のことです。

この忘れられる権利で問題になりやすいのが、リベンジポルノと過去の犯罪歴です。

今回は主に前者について考えていきたいと思います。

 

リベンジポルノとは

リベンジポルノとは、ネット上に裸の画像や動画を流出させて、元交際相手等に対して嫌がらせをする行為を言います。

そもそもを言うと、忘れられる権利が初めて認められたのは、フランス人女性がGoogleに対して起こした「過去のヌード画像の消去」の請求がきっかけでした。

本件の問題になった画像は、撮影自体は本人の意志であり、リベンジポルノではありませんでしたが、後になって消したいと思ったわけです。

同意があっても消したい、忘れてもらいたい、と思うわけですから、本人の意志を無視したリベンジポルノの場合、大きなショックもあれば、消して欲しいと思うのは当然のことでしょう。

リベンジポルノのより詳しいことはこちらのサイトをどうぞ。

Q.「リベンジポルノ」とは何ですか?

 

プライベートな事には口出しできないが

言うまでもなく会社は仕事をするところです。

よって、業務内であれば、会社が口出しすることもできますが、社員のプライベートである恋愛や恋人同士の営み、夫婦生活に対して口出しすることは基本的にはできません。

業務に影響がないのであれば、社内不倫だって解雇理由にならない、というのが判例の立場です。

つまり、社員がヤることをヤったり、その場のノリでヤらないほうがいいことまでヤってしまうのはしょうがない、会社としては関与しようがないわけです。

ただ、その結果として、会社に舞い降りてくる火の粉で延焼するのは避けたいので、この手の火の粉は払えるようにしておく必要があるわけです。

 

リベンジポルノの加害者の場合

リベンジポルノで会社が影響を受ける場合、というのは、大きくて分けて2つ。

会社の社員にリベンジポルノの加害者が現れるか、被害者が現れるかです。

まず、会社の社員がリベンジポルノの加害者になった場合ですが、加害者となった労働者を懲戒処分できる規定が必要となるでしょう。

とはいえ、リベンジポルノ専用の規定を作成するというよりは、従来のSNS規定などで十分対応できるとはお思います。

こちらはうちで出してるSNS規定からの抜粋。

第◯条 業務外で掲示板への書き込みおよび、Facebook、Twitter、LINE、Google+、ブログその他ソーシャルメディアを利用する際は、以下の内容の書き込み、画像の掲載その他それに類する行為をしてはならない。

  • 他者への中傷、粗暴な発言等、公序良俗に反すること 著作権や肖像権などの第三者の権利を侵害するようなことその他、一般常識を逸脱した行為や言動

心配であれば「リベンジポルノ」という言葉を明記してもいいと思いますが、あまり書くと、就業規則自体がセクハラになる気がしないでもないので、迷うところです。余談ですが、女性の多い職場でセクハラ規定の周知とか結構恥ずかしかったりします…。

ただし、労働者のプライベートでの犯罪について、裁判所は寛容なところがあるので、例え、リベンジポルノで逮捕された社員がいたとしても、拙速な懲戒処分は避けたほうがいいかもしれません。

労働者の犯罪行為に対する懲戒処分について

 

リベンジポルノの被害者の場合

リベンジポルノによるセクハラ

一方、会社の社員でリベンジポルノの被害者が現れた場合はどうでしょうか。

当然、被害者を解雇する、というのは適切なことではありません。不当解雇で訴えられるのがオチ。

そもそも、リベンジポルノの被害にあった、というのは本人とって非常にセンシティブな問題であり、それに対して会社の人間が無遠慮に踏み込むのはただのセクハラ。それどころかセカンドレイプに当たる可能性すらあります。

よって、基本的にはリベンジポルノ被害対策は、セクハラ対策となります。

職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です(リンク先PDF 厚労省)

上記の指針に沿った対策がきちんと取れていれば、仮にリベンジポルノをダシにセクハラする人間が現れても、ある程度対処することはできるはずですが、リベンジポルノの特有の問題もあります。

 

リベンジポルノ特有の問題

というのも、リベンジポルノの被害者としては当然、そうした画像がネット上にばらまかれている事自体、同僚らに知られたくないわけです。

そうしたなかで、会社が「リベンジポルノのことは触れないであげよう」と他の社員に周知することは、間接的にビラ撒きしてるようなもの。逆効果なわけです。

よって、仮に被害者であることを知っても周りに言いふらすようなことがないような環境づくりや、共通理解が必要になります。

そのためにも日頃からのセクハラ対策の研修は重要ですし、例えば、ある社員が同僚がリベンジポルノの被害にあったことを知った時に、本人に言うのではなくセクハラ相談窓口に伝えて、その担当者が被害者に面談などして配慮する、といった方策が必要となるでしょう。

その結果、精神的に優れず業務に支障があると感じた場合は、上司などではなく、セクハラ相談窓口の担当者から心療内科の受診をすすめるなど、精神的なケアが必要になるかもしれません。

 

まとめ

以上です。

次回の「過去の犯罪歴編」でじっくり書く予定ですが、「忘れられる権利」はわたしたちに「忘れる義務」を押し付けるものではありません。

あくまで、本人にとって不本意で不適切な画像や動画、プライバシー情報を発信したり拡散するものに対して、そうした情報を消去させる権利です。

しかし、被害者にとっては非常にショッキングなことであることを踏まえれば、会社として「忘れてあげること」が非常に重要なのではないでしょうか。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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