リベンジポルノや過去の犯罪歴などの忘れられる権利と労務管理【2025最新】

※ 本記事は2025年12月現在の最新情報をもとに加筆修正しています。

もう何年も前から新たな権利として言われているものの中に「忘れられる権利」というものがあります。

ネット上に拡散してしまった、個人情報やプライバシーを侵害する情報、誹謗中傷などを削除してもらう権利のことです。

日本ではいまだに直接的にこの忘れられる権利を認める法律はありませんが、インターネットやSNS、さらにはAIの発達の中でその重要性はさらに増しているといえます。

この忘れられる権利で問題になりやすいのが、リベンジポルノと過去の犯罪歴です。

目次

忘れられる権利とは「消去権」

繰り返しになりますが、忘れられる権利とは、ネット上に拡散してしまった、個人情報やプライバシーを侵害する情報、誹謗中傷などを「削除」してもらう権利を言います。

わざわざ「削除」を強調したのは、この「削除」こそが忘れられる権利の肝だから。

「忘れられる」という言葉がそもそもの誤解のもとですが、忘れられる権利は、わたしたちが特定の誰かの行為を「忘れる」ことではありません。

あくまで、ネット上の情報を削除・消去してもらうことで、他の人に思い出させないようにしたり、そもそも過去のことを知らない人に知らせないようにするための権利なのです。

それもあり、忘れられる権利の発祥の地であるEUでは、現在、忘れられる権利は「消去権」という言葉を使うようになっています。

忘れられる権利とリベンジポルノ

リベンジポルノとは

以上の前提を踏まえ、まずはリベンジポルノについて見ていきます。

リベンジポルノとは、ネット上に裸の画像や動画を流出させて、元交際相手等に対して嫌がらせをする行為を言います。

そもそもを言うと、忘れられる権利が初めて認められたのは、フランス人女性がGoogleに対して起こした「過去のヌード画像の消去」の請求がきっかけでした。

本件の問題になった画像は、撮影自体は本人の意志であり、リベンジポルノではありませんでしたが、後になって消したいと思ったわけです。

同意があっても消したい、忘れてもらいたい、と思うわけですから、本人の意志を無視したリベンジポルノの場合、大きなショックもあれば、消して欲しいと思うのは当然のことでしょう。

あと言うまでもありませんが、リベンジポルノは犯罪です。警察庁でも以下のリンク先で解説をしていますので、もっと詳しく知りたい方太はどうぞ。。

リベンジポルノ等の被害を防止するために

プライベートな事には口出しできないが

言うまでもなく会社は仕事をするところです。

よって、業務内であれば、会社が口出しすることもできますが、社員のプライベートである恋愛や恋人同士の営み、夫婦生活に対して口出しすることは基本的にはできません。

業務に影響がないのであれば、社内不倫だって解雇理由にならない、というのが判例の立場です。

つまり、社員がヤることをヤったり、その場のノリでヤらないほうがいいことまでヤってしまうのはしょうがない、会社としては関与しようがないわけです。

ただ、その結果として、会社に舞い降りてくる火の粉で延焼するのは避けたいので、この手の火の粉は払えるようにしておく必要があるわけです。

リベンジポルノの加害者の場合

リベンジポルノで会社が影響を受ける場合、というのは、大きくて分けて2つ。

会社の社員にリベンジポルノの加害者が現れるか、被害者が現れるかです。

まず、会社の社員がリベンジポルノの加害者になった場合ですが、加害者となった労働者を懲戒処分できる規定が必要となるでしょう。

とはいえ、リベンジポルノ専用の規定を作成するというよりは、従来のSNS規定などで十分対応できるとはお思います。

こちらはうちで出してるSNS規定からの抜粋。

第◯条 業務外で掲示板への書き込みおよび、Facebook、Twitter、LINE、Google+、ブログその他ソーシャルメディアを利用する際は、以下の内容の書き込み、画像の掲載その他それに類する行為をしてはならない。

  • 他者への中傷、粗暴な発言等、公序良俗に反すること 著作権や肖像権などの第三者の権利を侵害するようなことその他、一般常識を逸脱した行為や言動

心配であれば「リベンジポルノ」という言葉を明記してもいいと思いますが、あまり書くと、就業規則自体がセクハラになる気がしないでもないので、迷うところです。余談ですが、女性の多い職場でセクハラ規定の周知とか結構恥ずかしかったりします…。

ただし、労働者のプライベートでの犯罪について、裁判所は寛容なところがあるので、例え、リベンジポルノで逮捕された社員がいたとしても、拙速な懲戒処分は避けたほうがいいかもしれません。

リベンジポルノの被害者の場合

リベンジポルノによるセクハラ

一方、会社の社員でリベンジポルノの被害者が現れた場合はどうでしょうか。

当然、被害者を解雇する、というのは適切なことではありません。不当解雇で訴えられるのがオチ。

そもそも、リベンジポルノの被害にあった、というのは本人とって非常にセンシティブな問題であり、それに対して会社の人間が無遠慮に踏み込むのはただのセクハラ。それどころかセカンドレイプに当たる可能性すらあります。

よって、基本的にはリベンジポルノ被害対策は、セクハラ対策となります。

職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です(リンク先PDF 厚労省)

上記の指針に沿った対策がきちんと取れていれば、仮にリベンジポルノをダシにセクハラする人間が現れても、ある程度対処することはできるはずですが、リベンジポルノの特有の問題もあります。

リベンジポルノ特有の問題

というのも、リベンジポルノの被害者としては当然、そうした画像がネット上にばらまかれている事自体、同僚らに知られたくないわけです。

そうしたなかで、会社が「リベンジポルノのことは触れないであげよう」と他の社員に周知することは、間接的にビラ撒きしてるようなもの。逆効果なわけです。

よって、仮に被害者であることを知っても周りに言いふらすようなことがないような環境づくりや、共通理解が必要になります。

そのためにも日頃からのセクハラ対策の研修は重要ですし、例えば、ある社員が同僚がリベンジポルノの被害にあったことを知った時に、本人に言うのではなくセクハラ相談窓口に伝えて、その担当者が被害者に面談などして配慮する、といった方策が必要となるでしょう。

その結果、精神的に優れず業務に支障があると感じた場合は、上司などではなく、セクハラ相談窓口の担当者から心療内科の受診をすすめるなど、精神的なケアが必要になるかもしれません。

忘れられる権利と過去の犯罪歴

リベンジポルノと過去の犯罪歴の違い

次に、過去の犯罪歴と忘れられる権利について見ていきますが、その前に、リベンジポルノと過去の犯罪歴の違いについて見ておきましょう。

忘れられる権利において過去の犯罪歴とリベンジポルノとの大きな違いは「知る権利」との衝突です。

リベンジポルノで「その画像を見る権利は(関係ない)俺達にもある」という主張は、常識的に考えて100%認められません。ていうか、バカだろそいつ、おまえが牢屋にいけ。

しかし、過去の犯罪歴となると、例えば、労働者を雇い入れる際には会社としては知っておきたい情報であることは間違いありません。

過去に横領の犯罪歴があるものを経理として雇ったり、窃盗の犯罪歴があるものを小売店で雇ったりしたくないのは、会社として当然の心理です。

忘れる義務があるわけではない

そして、冒頭で述べた通り、「忘れられる権利」は、わたしたちに「忘れてあげる義務」があるのではなく、本人にとって望ましくない過去の情報を「消す権利」と考えられています。

つまり、その権利を行使されるのは、情報を発信しているサイトや、そうしたサイトを検索結果で表示するGoogleやYahoo!ということになります。

よって、会社としては、すでに消去権が行使されて消されている情報を知ろうとする、というのはあまり良いことではないかと思いますが、まだ、消されていない情報を知ることについてはそれほど問題とはならないのでは、というのがわたしの見解です。

「忘れられる権利」や「消去権」自体がまだまだ新しい、概念なので、今後、意味が変わっていく可能性はありますが現状、わたしはそう考えています。

前科のある労働者への対処方法

さて、これまでのことを非常に乱暴にまとめると

「忘れられる権利だなんだろうが、会社としては知ってしまったのものはしょうがない」

ということになります。

では、「知ってしまった」前科などの情報を用いて、雇入れを拒否したり、すでに在籍している従業員を解雇することはできるのでしょうか。

雇入れの拒否

まず、雇入れの段階では、会社の採用の自由が広く認められる傾向があるため、拒否しても問題とはなりにくいです。

もちろん、雇入れの拒否の理由として「あなたには前科があるから」と直接伝えるのはNG。そもそも、会社には雇入れの拒否の理由を公表する義務がないので、そうしたことをする必要もなく、面接の結果、とか、書類選考の結果、ということにしておけばいいでしょう。

すでに在籍している従業員の解雇

一方、すでに在籍している従業員については慎重な対応が必要です。

入社の後に過去の犯罪歴を知る、ということは、その社員は入社時に過去の犯罪歴を隠していたことになり経歴詐称といえます。

しかし、経歴詐称で労働者を解雇できるのはそれが「重大な経歴詐称」である場合に限られます。

経理として入った人が横領の前科があるのにそれを隠していた場合は、重大といえるかもしれませんが、交通違反などの罰金刑を隠していたことが「重大な経歴詐称」とすることには無理があります。

また、すでに入社してある程度年月が経ち、業務もきちんと行えているとなると、過去の犯罪と業務の遂行には関連性がないと考えられ、解雇することは難しくなります。

まとめ

以上です。

まとめると、「忘れられる権利」はわたしたちに「忘れる義務」を押し付けるものではありません。

あくまで、本人にとって不本意で不適切な画像や動画、プライバシー情報を発信したり拡散するものに対して、そうした情報を消去させる権利です。

しかし、リベンジポルノのような被害者にとっては非常にショッキングなことであることを踏まえれば、会社として「忘れてあげること」が非常に重要なのではないでしょうか。

一方、全かに関することについての会社として忘れられる権利の考え方は、

  1. 前科を気にするのであれば、採用前が大前提。
  2. この時点で、労働者が忘れられる権利を行使しているのであれば、深追いすべきではない

ということになります。

また、人手不足ということもあり、応募即採用、という会社も少なくないかもしれませんが、採用時ほど会社の自由が利く場もないので、ある程度は慎重になるべきでしょう。

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この記事を書いた人

社会保険労務士川嶋事務所の代表。
「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。
就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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