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高年齢雇用継続給付の廃止は今の現役世代にとって有利な話だ

政府は2025年以降、段階的に高年齢雇用継続給付の廃止していく方針のようです。

高齢雇用給付金 段階廃止へ 60歳以上の賃金減穴埋め 25年度に半減

 

高年齢雇用継続給付とは

高年齢雇用継続給付とは、60歳前と比較して、60歳以降に大きく賃金が下がった場合に、その一部を雇用保険の給付で補填する制度です。

日本の雇用慣行では60歳で一度定年退職とし、その後、労働契約を結び直して継続雇用をする、ということが一般的に行われています。

そして、この労働契約の再締結の際、賃金が大きく下がることが普通なのですが、これが高齢者の就労意欲を低下させ、ひいては高齢者の離職を招いている、との理由から、高年齢雇用継続給付というものが、これまで支給されていました。

 

高年齢雇用継続給付廃止の理由

高年齢雇用継続給付の廃止される理由として、2025年3月31日までで高年齢者雇用確保措置の継続雇用に関する経過措置が終了し、2025年4月以降は65歳までの継続雇用がすべての企業で義務化される、という背景があります。

もともと高年齢雇用継続給付には、高齢者の離職を防止するための補助金的性質があったので、65歳までの雇用が完全義務化されると、確かにその存在意義はなくなります。

ちなみに、高年齢雇用継続給付の廃止に関しては、2025年度から2029年度までは現在の給付水準の半額を支給し、2030年度以降は完全に廃止するとしています。

 

高年齢雇用継続給付廃止に関する意外な反発

個人的にはついに、あるいはやっと、という感じでこの高年齢雇用継続給付の廃止のニュースを見ていたのですが、意外にもこの高年齢雇用継続給付の廃止に反発する声もあります。

企業側が反発するのはわかりますが、実際に多いのは、労働者側とおぼしき人たちの「高年齢雇用継続給付を廃止するな」といった声です。

仕方のないことですが、本制度への理解があまり進んでいないのだと感じます。

なぜなら、実際には、高年齢雇用継続給付の廃止は今の現役世代にとって、とてもありがたい話だからです。

そこで今回は高年齢雇用継続給付という制度を解説しつつ、どうして高年齢雇用継続給付の廃止は現役世代に利益があるのか、ということを解説していきたいと思います。

 

昔と今で変わった60歳以降の賃金事情

高年齢雇用継続給付は60歳で老齢厚生年金がもらえていた頃の名残り

まず、踏まえておかないといけないのは、どうして日本の雇用慣行では、60歳で定年・再雇用した際に、賃金を大きく引き下げるということがこれまで続いてきたのか、ということです。

理由は簡単で、昔は60歳から老齢厚生年金が支給されていたからです。

60歳で年金が支給されても、在職老齢年金の関係で、給与が多すぎると年金額が下がってしまいます。

それを避けるために、60歳で定年・再雇用となった際に、賃金を大きく下げていたわけです。

一方で、60歳で年金がもらえる場合、年金がもらえるから60歳で会社を辞めてもいいか、と思う人もいました。

ただ、それだと税収面でも年金財政(保険料・給付の両面)面でもマイナスなので、そういう人の離職を避けるために高年齢雇用継続給付は支給されていたわけです。

また、会社側に対して、高年齢雇用継続給付で給与の一部を補填するから、60歳以降の高齢者を雇用を促す、という目的もありました。

 

年金の支給年齢が上がったことによって60歳以降の賃金状況は激変

しかし、現在では年金の支給開始年齢が徐々に上がっており、60歳から年金がもらえることは原則ありません。

高齢者が希望する場合、原則65歳まで当該高齢労働者を雇用する義務の会社にはあります。

にもかかわらず、60歳で定年・再雇用した際に、賃金を大きく下げる、という雇用慣行は継続されています。

結果、年金が支給されるまでの定年後再雇用者は、60歳で大きく引き下げられた給与にわずかばかりの高年齢雇用継続給付が補填される、という状況になっています。

62歳から老齢厚生年金をもらえる人の例

 

高年齢雇用継続給付は同一労働同一賃金の阻害要因

問題は高年齢雇用継続給付がなくなることではなく、60歳で賃金が大きく下げられること

上の図を見てしまうと確かに、年金の支給が遅くなっているのに、さらに高年齢雇用継続給付までもらえなくなるのか、と思う人もいるかもしれません。

しかし、それはそもそも順番がおかしいのです。

なぜなら、60歳で賃金を大きく引き下げられることがなければ、高年齢雇用継続給付は不要だからです。

 

高年齢雇用継続給付を多くもらうには給与を61%以下にしなければならない

会社が60歳で賃金を大きく引き下げる理由は、すでに述べたとおり、老齢厚生年金の存在が大きいわけですが、実際には高年齢雇用継続給付の存在も理由の一つとなっています。

高年齢雇用継続給付は60歳前(60歳到達時)の賃金と比較して、最低でも75%未満にならないと支給は行われません。

さらにいうと、高年齢雇用継続給付を最大限もらうためには賃金を60歳到達時の61%以下にする必要があります。

この高年齢雇用継続給付の給付条件を踏まえれば、「国が60歳を超えたら60歳前の61%まで引き下げても問題ないとお墨付きを与えている」と取らえられても、国としては言い訳のしようがないでしょう。

(実際、60歳以降の賃金は60歳前の60%前後とすることが多い)

 

賃金を40%引き下げられてでも9%の給付がほしいか?

しかも、61%まで減らしても、もらえる給付額の最大は「引き下げられた賃金の15%」。

つまり、実質的には60歳前の「15%×61%=9.15%」しか補填されないわけです。

正直、40%近く賃金を減らして9%の給付では、給与の穴埋めになっていません。

高年齢雇用継続給付の廃止に怒っている人たちは、賃金を40%引き下げられてでも9%の給付がほしいのですか? という話です。

 

同一労働同一賃金とかみ合わない老齢厚生年金

また、60歳で賃金を大きく引き下げるという雇用慣行は、政府が進めようとしている同一労働同一賃金とも矛盾します。

同一労働同一賃金であるならば、仮に60歳前と60歳以降で同一の労働を行っているのであれば、60歳前と60歳以降で賃金が変わることはおかしく、ましてや大きく引き下げられるというのはありえないことだからです。

しかし、最新の判例では、特に老齢厚生年金の存在によって、そうした60歳での定年再雇用を理由とする賃金の引き下げは肯定されています(長澤運輸事件最高裁判決)。

つまり、政府は自分たちが推し進めようとしている政策が、自分たちの作った制度によって制限されるという自縄自縛の状態にあるわけです。

 

高年齢雇用継続給付も同一労働同一賃金とはかみ合わない

ただ、60歳での定年再雇用による賃金の引き下げが認められる根拠となっている老齢厚生年金については、そう遠くない将来(男性は2026年4月2日以降、女性は2031年4月以降)、支給開始が一律65歳になります(特例を除く)。

なので、将来的には、老齢厚生年金の支給を理由に、60歳での定年再雇用の際に、賃金を大きく引き下げることは難しくなるでしょう。

そうなると、高齢者の同一労働同一賃金を考える上で、次にその縛りとなり得るのが高年齢雇用継続給付です。

すでに述べたように、高年齢雇用継続給付は給与の補填という役割をほとんど果たしていないにもかかわらず、その支給条件から、国が60歳以降は賃金を引き下げても良いとお墨付きを与える、という制度と化しています。

つまり、高年齢雇用継続給付は政府と労働者にとって、害しかない制度となっているわけです。

 

高年齢雇用継続給付は廃止は今の現役世代にとって有利

逆に、老齢厚生年金の支給が一律で65歳となり、高年齢雇用継続給付がなくなればどうでしょうか。

同一労働同一賃金の考えにより、60歳前と60歳以降で大きく賃金を引き下げることはできなくなると考えられます。

となれば、会社側が明確な理由なく40%近い賃金の引き下げを行うことはできなくなります。

つまり、高年齢雇用継続給付がない代わりに、会社からもらえる賃金は60歳前と大きく変わらないか、少し下がる程度に落ち着く可能性が高いわけです。

こうしたことから、高年齢雇用継続給付は廃止は今の現役世代にとってかなり有利であると考えられます。

 

会社側から見た高年齢雇用継続給付の廃止

一方、これまで高年齢雇用継続給付を利用してきた会社からすると、高年齢雇用継続給付の廃止の影響は非常に大きいと言えます。

なにせ、60歳到達を理由に40%近い賃金の引き下げが可能だったわけですからね。

もちろん、高年齢雇用継続給付が廃止されたとしても、職責や役職、労働時間等が定年前と変わる場合、定年後の再雇用の際に賃金引き下げることは十分可能であると考えられます。

また、別の観点から見ると労働人口の減少が続く日本の雇用情勢で高齢労働者を活用するというのは避けられません。

その際に、法律で雇用が義務づけられているからと賃金を引き下げて雇用するのがいいのか、それとも戦力とみなしてきちんと働く人にはそれに見合う給与を支払うのがいいのか、ということは考えていかないといけない点だと思います。