就業規則

同一労働同一賃金でより重要性が高まりそうな「パートタイマー就業規則」について

2017年1月18日

労務問題が当たり前のようにニュースで取り上げられる昨今ですが、これを踏まえ昨年末に官邸が出した同一労働同一賃金ガイドライン案を出しています。

同一労働同一賃金ガイドライン案(PDF 参照:働き方改革実現会議

同一労働同一賃金とは、文字通り、同じ仕事をしているなら同じだけの賃金を支払いなさい、というものです。

ただ、「同じ仕事」というのがなかなかにくせ者で、単に同一の仕事をしているだけでなく、職務に対して与えられている責任や権限、人事異動の有無といったものも含めて総合的に判断されます。

よって、例えば、週休二日&所定労働時間8時間で働いている2人の労働者がいるが、方や契約上は正社員、方やアルバイト。でも、やってることは同じだし、人事異動もなければ、かかる責任も両者で大きく変わらない。にもかかわらず、賃金が全然違う、というのはいけませんよ、というのが同一労働同一賃金です。

しかし、上記のような場合でも、正社員は残業しないといけないけどアルバイトはしなくていい、とか、正社員は転勤があるけどアルバイトは転勤がない、といったように、直接的な業務以外で両者に違いがある場合には、同一労働同一賃金といえども相応の差は設けていいわけです。

このあたりについては、下記の記事でも詳しく解説しています。

 

パートタイマー就業規則の重要度が増す

上記のような感じなので、労働契約を工夫すれば、言い方は悪いですが有名無実化される可能性も結構高そう、というのがわたしなりの日本型同一労働同一賃金の見方です。

ただ、厚生労働省ではなく官邸が力を入れようとしている部分なので、これまで以上に取り締まりが厳しくなったり、法規制の強化で、労使間で争いになってあっせんや労働裁判といったことになると、会社が不利になる場面が多くなりそう。

で、そういったことを避けるために重要性が増しそうなのが「パートタイマー就業規則」だと考えています。

パートタイマー就業規則とは、その名の通りパートタイマー向けの就業規則です。

実はこのパートタイマー就業規則、パートタイマーの有無にかかわらず、作成自体は義務ではありません。

法令上、パートタイマー向けの規定を就業規則に入れておく必要はあるのでそうした規定は必要ですが、それもパートタイマー就業規則ではなく、就業規則本体にパートタイマー向けの規定を入れることで事足ります。

 

パートタイマー就業規則を作成すべき理由

ただ、パートタイマー向けの規定を正社員向けの就業規則に入れ込んでしまうと、わかりづらかったり、漏れがあったりすることがあり得ます。

また、「パートタイマーに関しては別途定める」みたいな規定があるのに、実際にはそうした別規程がなかったりすると、最悪、パートタイマーにも正社員向けの就業規則が適用される可能性があります。

こうした場合に大きな問題となりやすいのはやはりお金、賃金なので、賃金体系や昇給、賞与や退職金についてはパートタイマー就業規則で別途きちんと定めておいた方が良いわけです。

なんとなく慣例的に、パートだから時給で昇給はないし、賞与や退職金もないとしていると、いざ争いになったときに困るので「ないならない」とはっきり記載しておくことが重要なわけです。

つまり、パートタイマー就業規則とはパートタイマー(を含む非正規)と正社員で異なる部分を強調し区別する、というのが大きな役割となります(逆に言うと、違いのない部分は同じで構わない)。

 

パートタイマー就業規則と同一労働同一賃金

そして、同一労働同一賃金が本格化するとより重要となるのが「どうして正社員とパートで扱いが違うのか」という点の理由付けです。

単に契約が違うから、という理由だけで両者を区別して賃金などの労働条件に不合理な差を付けることは、今でもNGですが、今後はよりNGになるでしょう。

では、どうすれば良いかと言えば、職務内容の違いや責任の違い、人事異動等に違いがあると「同一労働」とはみなされなくなる、というのはすでに述べたとおりです。

それ以外にも、パートの場合、どうしても労働時間や所定労働日数が短くなるので、そうした部分を元に違いを付けていくことは可能です。

そして、職務内容や責任の違いはともかく、人事異動等の有無や労働時間や所定労働日数による違いというのは就業規則で定められる部分なので、そうしたところをパートタイマー就業規則で明確化していくと、政府の考える同一労働同一賃金と齟齬なく、労使問題の抑制につながることでしょう。

 

パートタイマー就業規則と同一労働同一賃金の関係についてのまとめ

  • パートタイマー就業規則の作成目的は、正社員とパートの違いを明確化にするため
  • よって、明確化したい部分に注目して作成すべき
  • ただし、「違い」を付けるためには合理的な理由が必要

 

 

今日のあとがき

同一労働同一賃金に関しては、非正規雇用の不利益取扱の禁止という形で、労働契約法やパートタイム労働法などですでに法定化されていて、ここから政府がどのように踏み込んでくるのか、というのは気になるところ。

政府が打ち出している同一労働同一賃金はあくまで企業内での格差是正であり、同一産業内での格差是正ではないので、同一労働であればどの会社に行っても給与が同じなので転職が容易になる、ということもなさそうですし。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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