就業規則の「年次有給休暇の時季指定(年5日取得)」条文の作成のポイントと規定例

年次有給休暇の年5日の取得義務については対応に苦慮している会社も多いことでしょう。

しかも、この年5日の取得義務については違反すると罰則があるので、規定をきちんと定めた上で、運用に関しても不備がないよう気をつける必要があります。

特に、入社日にかかわらず年次有給休暇を同一の日に付与している場合(斉一的付与)、ダブルトラックという状態が発生し、思いがけず年5日の取得義務がきちんと果たされない状態が生まれることがあるので注意しなければなりません。

目次

条文の必要性

「休暇」に関することは就業規則の絶対的必要記載事項に当たります。

年次有給休暇は「休暇」ですので、例え、会社内のルールが法律上の内容そのままであったとしても、就業規則にその定めをしなければなりません。

そして、平成31年より始まった年次有給休暇の年5日の取得義務に関しては、違反すると会社に罰則もあるので、これにきちんと対応できるよう規則に定めておく必要があります。

条文作成のポイント

1年以内に5日を限度として

規定例では1項に「1年以内に5日を限度として」年次有給休暇を取得させるとしています。

この年次有給休暇の年5日の取得義務は、労働者が自分の意思で自主的に5日以上取得した場合も、会社の義務は果たされます。

一方で、なかなか取得しようとしてくれない労働者に対して、会社がこの時季(日)に取得をすることを指定することもあります。

「5日を限度として」としているのは、上記のどちらにも対応できるようにしているためです。

これが、例えば「付与日から1年以内に5日、時期を指定して年次有給休暇を取得させる」としてしまうと、すでに自主的に5日以上取得をしている労働者にも年次有給休暇を取得させなければならなくなってします。

会社の時季指定後~取得予定日のあいだに、労働者が時季指定した場合

なかなか年次有給休暇を取得しようとしない労働者に対し、この日に年次有給休暇を取得してほしい、会社が時季を指定した後に、業務の都合によって別日に変えたいとなることは起こり得ます。

また、会社の時季指定後に労働者が自主的に年次有給休暇を取得した結果、年5日の取得義務を果たすということも起こり得ます。

規定例の6項および7項は、これらのようなことが起こった場合の対処規定となるので、基本的には定めておいて損はありません。

計画的付与

前項をみてわかるとおり、会社による年次有給休暇の時季指定は、必ずしも会社が取得してほしい時季に取得させられるわけではありません。

一方、計画的付与という方法を取る場合、労使協定で定めた取得日が優先されるため、労働者の自主的な取得によってスケジュールを変更するといった必要はなくなります。

ただし、計画的付与ができる年次有給休暇の日数は、労働者に付与される年次有給休暇のうち5日を超える部分となります。

つまり、最低でも5日間は労働者の好きな時季に年次有給休暇を取得できるようにしておかなければならないわけです。

また、計画的付与を行うに当たっては労使協定の締結だけでなく、就業規則にそうした規定を定める必要があります。

就業規則「年次有給休暇の時季指定」の規定例

第○条(年次有給休暇の時季指定)

  1. 会社は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員に対し、付与日から1年以内に5日を限度として、時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。
  2. 前項により取得させることができる年次有給休暇の単位は1日または半日とする。
  3. 会社は年次有給休暇の時季を指定するに当たって、当該従業員の意見を聞き、その意見を尊重するよう努めるものとする。
  4. 前項の意見聴取は、付与日から6か月を経過し、かつ年次有給休暇の取得日数が5日に満たない者に対して行うものとし、その方法は個別面談または書類の提出を持って行うものとする。
  5. 1項による時季を指定した後、やむを得ない事由が生じた場合、会社は指定した時季を変更することができる。
  6. 1項による時季を指定した後、従業員が自ら時季を指定して年次有給休暇を取得した場合、会社はその分の日数の時季指定を取り消すことができる。

規定の変更例

第○条(年次有給休暇の時季指定)

  1. 会社は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の従業員に対し、付与日から1年以内に5日を限度として、時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。
  2. 前項にかかわらず、付与日から次の付与日までの期間が1年未満の場合、付与日から、次の付与日を基準に1年を経過する日までの期間(この期間を、履行期間という)に、履行期間の月数に応じた次の表の日数を限度として、会社は時期を指定して年次有給休暇を取得させることができる。なお、履行期間に端数が生じる場合はこれを1か月に切り上げるものとする。
    13か月 14か月 15か月 16か月 17か月 18か月 19か月 20か月 21か月 22か月 23か月
    5.5日 6日 6.5日 7日 7.5日 7.5日 8日 8.5日 9日 9.5日 10日
  3. 1項および2項により取得させることができる年次有給休暇の単位は1日または半日とする。
  4.   会社は年次有給休暇の時季を指定するに当たって、当該従業員の意見を聞き、その意見を尊重するよう努めるものとする。
  5.  前項の意見聴取は、付与日から6か月を経過し、かつ年次有給休暇の取得日数が5日(2項に該当する場合については、履行期間に応じた日数)に満たない者に対して行うものとし、その方法は個別面談または書類の提出を持って行うものとする。
  6.  1項および2項による時季を指定した後、やむを得ない事由が生じた場合、会社は指定した時季を変更することができる。
  7. 1項および2項による時季を指定した後、従業員が自ら時季を指定して年次有給休暇を取得した場合、会社はその分の日数の時季指定を取り消すことができる。

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