非正規労働者の雇用

正社員やアルバイトなど、世間一般と法律でズレのある労働者の契約区分の話

2016年11月22日

正社員やアルバイト、パート、派遣、最近では限定正社員などという言葉も出てきましたが、労働者を表す言葉は多様化しています。

その多くは契約形態の違いにより区別されていますが、法律上の定義が存在するものとしないものが混在していて、いざ、コンプライアンスのため就業規則や労働契約を見直そうとすると、いろいろと判断に困ることがあります。

例えば、嘱託社員というのは法律上の定義が存在する言葉ではありませんが、一般的には定年後再雇用された高齢労働者を指します。

それだけなら、契約自由の原則に基づき両者の合意による契約を結べばいいだけですが、他より労働時間が短いのであればパートタイマーとして、パートタイム労働法のことも考えないといけないし、有期雇用なのであれば労働契約法18条も考慮しないといけません。60歳以上であれば高年齢者雇用安定法についても考えないといけません。

このように、契約形態によって一般的に使用される労働者の名称と、法律上の定義や規制対象にはズレがあります。

今回はこれらのどこがズレてて、何を気をつけないといけないか、について解説していきたいと思います。

 

多すぎ!? 労働者の契約上の名称

まずは現在、世間に流通している労働者の名称を書き出してみましょう。

  • 正社員
  • 限定正社員
  • アルバイト
  • パート
  • 契約社員
  • 無期契約社員
  • 派遣社員
  • 嘱託社員
  • 日雇労働者  .etc

こんなところでしょうか。

ちょっと聞き慣れないのが、無期契約社員ですが、こちらは有期契約5年以上で無期になった労働者のことを指します。

ちなみに、上記の項目は以下のように、大きく「正規」と「非正規」に分けることができます。

  • 正規:正社員、限定正社員
  • 非正規:アルバイト、パート、契約社員、無期契約社員、派遣社員、嘱託社員、日雇労働者

嘱託社員については正規からの転換がほとんどなので、実質正規雇用の気もしますが、統計などを見ると非正規側に入れられていることが多いの、非正規の方に入れました。

 

法律上、重要なのは契約期間と労動時間

では、法律に照らし合わせて、上記の項目を見ていくとどうなるでしょうか。

まず、法律上は上記のような名称による項目分けはもちろんのこと、「正規」や「非正規」といった分け方もしていません。

区分の方法は、主に「契約期間の有無」と「所定労働時間」。

前者は主に労働基準法と労働契約法で、後者は主にパートタイム労働法で規制が行われています。

この法律上の区分を表にすると以下のようになります。

通常の労働者の所定労働時間通常の労働者よりも所定労働時間が短い
無期の雇用契約 
有期の雇用契約 

※ なにげに以下の文章で上記の番号を使用するので覚えておいてください。

 

区分け…?

では、上記の労働者の名称をこの表に当てはめるとどうなるかというと、こうなります。

※ 文字色:青が正規、赤が非正規

通常の労働者の所定労働時間通常の労働者よりも所定労働時間が短い
無期の雇用契約正社員
限定正社員
アルバイト
無期契約社員
嘱託社員
限定正社員
アルバイト
パート
無期契約社員
嘱託社員
有期の雇用契約限定正社員
アルバイト
契約社員
嘱託社員
限定正社員
アルバイト
パート
契約社員
嘱託社員

除外:派遣社員、日雇労働者

なんだか「こうなります」というよりは「こうなってしまいます」、の方が正しい表になってしまいましたね。

 

区分けの理由

上記の区分について簡単に説明すると、

  • 正社員:いわゆる通常の労働者のため所定労働時間が他より短いということはない。また終身雇用であることが一般的なため①
  • アルバイト:法律上明確な定義がないため、契約によっては全てに当てはまる可能性がある
  • パート:通常の労働者の所定労働時間よりも短いことがその定義のため②か④
  • 契約社員:一般に有期の契約を結ぶ場合に用いる名称のため③か④
  • 無期契約社員:労働契約が無期であることがその定義のため①か②
  • 嘱託社員:法律上明確な定義がないため、契約によっては全てに当てはまる可能性がある。ただし、①であることはほとんどない

日雇は契約の特殊性から除外。また、派遣社員についても、派遣先から見た場合、上記のどれにも当てはまらないことから除外しました(派遣元での立場は派遣社員と言えど、上記のどれかに当てはまる)。

 

名称にかかわらず法律の対象

上記の表を見てわかるのは、世間一般の労働者の名称の区分を、法律に照らし合わせると事実上区分できていないも同然だということです。

当然、名称にかかわらず②④に当てはまる労働者はパートタイム労働法の、③④に当てはまる労働者は労働基準法や第14条や労働契約法18条などの対象になります。

 

定義が不明確だと労使トラブルも

また、「うちの会社は正社員とアルバイトは違うから」と言っても、両者の契約が労働時間も同じで契約も無期となると、客観的に見たら何が違うの? という話になりかねません。

もちろん、両者には労働時間や契約期間以外にも、職務や負っている責任の違い等があるはずですが、そのあたりすら曖昧だと、ハマキョウレックス事件長澤運輸事件のような労使トラブルへの発展も考えられます。

アルバイトやパート、契約社員といった言葉は、世間で普及している言葉なので、これらの言葉を使うのをやめて「有期契約社員」「無期契約社員」「短時間労働者」みたいな堅い言葉を使え、とまでは言いません。

ただ、トラブルを避けるためにも最低限「正社員とそれ以外」といった形で両者を区分できるよう、その定義は明確化し、その定義に沿って個別の契約や就業規則の制定を行うべきでしょう。

なぜ「正社員とそれ以外」で分ける必要があるかと言えば、多くの場合、正社員には退職金を支払うけれど、それ以外には支払わない、という会社が多いからです。退職金は額も大きいので、トラブルになると経営に大きなダメージを与える可能性があります。

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「定義」に合う画像がなかったので、苦し紛れに「定規」の画像で本日はさようなら

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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