労務管理

労務管理でトレードオフ関係にあるものまとめ

2021年10月6日

トレードオフとは「何かを得ると、別の何かを失う」ことをいいます。

要するに、あっちを立てるとこっちが立たない、ということです

例えば、ものの値段と品質は基本的にトレードオフの関係にあり、安いものは悪い、高いものは良いのが普通です。

労務管理にもあるトレードオフ

さて、このトレードオフ、実は労務管理においても存在します。

こうした労務管理におけるトレードオフを把握しておくと、いろいろと気づけることがあると思ったので、今回は、労務管理におけるトレードオフをまとめて見ていきます。

 

「労働時間」と「余暇」

これは非常にわかりやすいところですね。

時間には限りがあるので、労働時間が増えると余暇の時間は減るし、余暇が増えれば労働時間が減る。

そして、日本の労働法では「賃金と労働時間」は密接に関連しているので、余暇を増やすことと、賃金を上げることもトレードオフの関係にあることが多いです

 

「昇給」と「降給」

日本では、過去の様々な判例から、賃金を下げることに非常に難しくなっています。

賃金を下げることが難しいということは、会社の目線からすると、不用意に労働者の賃金を上げてしまうと、後からそれを下げることができなくて人件費の高騰に苦しむ可能性がるということです。

そのため、賃金を下げられないなら、なるべく上げない、ということになるわけです。

逆に、降給が簡単なら、昇給もしやすくなります。上げすぎた、と思えば、下げればいいわけですから。

しかし、人間には「損失回避性」という性質があるため、昇給はともかく、降給はなかなか受け入れられづらいというのが労務管理での厄介なところだったりします。

 

「異動・配置転換」と「解雇」

日本では労働者を正当に解雇することが非常に難しいとされています。

一方で、異動や配置転換については、会社側の裁量がかなり認められています。

これは要するに、解雇する代わりに異動や配置転換によって、他の場所で働かせろ、ということです。

それと比べて海外の場合(ここでは、特に欧州のことを指す)、こうした異動・配置転換の裁量は会社に認められていない一方で、会社の経営上の理由による整理解雇については日本よりも容易とされています。

ちなみに、よくある誤解ですが、能力不足などの個別の解雇については海外でも厳しいところの方が多く、日本がことさら厳しいわけではありません。

この辺の配置転換と解雇に関する海外と日本の違いは、以下の本を読むと、より理解が深まるのでよろしかったらどうぞ。

「採用」と「解雇」

採用と解雇もトレードオフの関係にあります。

解雇が簡単なら、ダメな人を取ってしまったとしてもすぐに解雇できるので、採用も多くできるわけです。

逆に、解雇が難しい場合、ダメな人を取ってしまうと、その人がずっと会社にいることになってしまいます。

そのため、過去の日本の大企業は、新卒一括採用のときなどに、新卒者の身辺調査等をしていたわけです。

現在はそうした身辺調査について、法律レベルで禁止するものはないものの、厚生労働省はそうしたことをするのは就職差別に繋がるおそれがあるとしています。

 

「裁量」と「責任」

これは労務管理というか、世間一般の常識かもしれませんね。

要するに、労働者の裁量で働くということは、その労働者が担当する仕事への責任が発生するということです。

逆にいうと、責任を取る必要のない仕事や立場で労働者側に裁量がある方がおかしいし、そんな仕事や立場で裁量が与えられるわけもない。

勝手にやられて、勝手に責任押し付けられた会社だってたまったものじゃないですからね。

ちなみに、組織化がなかなか進まない中小企業においては、経営者が労働者に「責任を伴う裁量」を与えていないケースが目に付きますね。

 

「正規」と「非正規」

日本ではかなり以前から「正規と非正規の格差是正」が言われていて、最近では働き方改革により「同一労働同一賃金」も言われるようになりました。

それくらい正規と非正規の間には待遇の格差が存在するわけです。

しかし、ここにもトレードオフがあります。

なぜなら、日本の会社で正規の待遇が良いのは、非正規の待遇が低いから、というのがあるからです。

では、これを同一労働同一賃金の名の下、平らにしようとすると、正規の待遇は変わらず、非正規の待遇だけ良くなるかといったらそんなことはありません。

会社の人件費には限りがある以上、非正規の待遇を良くするのであれば、正規の待遇をある程度下げる必要があります。

実際、日本郵便では同一労働同一賃金に対応するためいち早く、正規の待遇を引き下げる対応を取っています。

 

「ワーク」と「ライフ」

冒頭の「労働時間」と「余暇」にも通じますが、ワークを優先するとライフが疎かになるし、ライフを優先するとワークの面で不利となる、という状態が日本の労働環境にはあります。

ワークライフバランスというのは、このトレードオフ関係にあるワークとライフの割合を変えること、例えば、今まで「ワーク90:ライフ10」だったのを「ワーク60:ライフ40」に見直すこと、と一般には考えられています。

ただ、それは間違ってはいないけれど、正しくもないでしょう。

これだと、「労働時間」と「余暇」のところでも見たように、ライフの割合を増やすと賃金が減ってしまいます。

そのため、実際に求められているワークライフバランスは、今まで「ワーク90:ライフ10」でやってたことを「ワーク60:ライフ40」でもできるよう業務を効率化し、賃金も生産性も下げることなく、ライフも充実させるということでしょう。まあ、口で言うのは簡単ですが。

 

まとめ

以上が、日本の労務管理における代表的なトレードオフ関係にあるものです。

ただ、ときにちょっとしたアイディアや技術革新によって「安くて良いもの」が生まれるように、労務管理を見直し工夫すればトレードオフ関係にある2つのものを両立できる可能性もあるので、人事労務の専門家としては、そういったところにチャレンジできるアイディアを探していきたいところです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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