監督署の臨検調査

5.労働基準監督官の権限の限界

2016年6月7日

警察や税務署をはじめとする行政機関には、市民の身柄を拘束する権限や、憲法で認められている財産権を制限し租税する権限といった、絶大な権力が与えられています。

そうした絶大な権力を制限するため、憲法では法に基づく適正手続(デュー・プロセス)を義務付けています。

憲法第31条

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

しかし、権力を扱うのは人であり、権力は人を惑わします。そのため権力は常に暴走するリスクを内包しており、ひとたびその権力が暴走を始めると、袴田事件のように市民の権利を著しく侵害し、人の一生を根こそぎ奪いかねないような事態に陥る可能性があるわけです。

 

監督官に未払賃金の支払いを命令する権限はない

警察や検察の冤罪と比較して、ほとんど話題にはなりませんが労働基準監督署はそうした公権力の濫用を常習的に行ってきた行政機関の一つです。

時間外労働などの残業手当の未払いに関して、労働基準監督署は是正を行うよう勧告を行ったり、事業主を逮捕・送検する権限を持っていますが、未払い分の賃金の額を確定したり、その未払賃金の支払を命令することはできません。

なぜなら、未払い分の賃金の額を確定したり支払を命令するといった行為は、司法の仕事だからです。

また、労働基準法101条では

(労働基準監督官の権限)
第百一条  労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。

と上記のように、監督官の権限を定めていますが、では、会社は臨検や書類の提出を絶対に拒めないかといえば、そういうわけではありません。

刑事ドラマを思い浮かべてください。がさ入れしたり証拠の押収をする際は、裁判所の令状が必要です。

監督署の臨検はあくまで行政指導の一環で、相手の任意の協力があって成り立つものです。明らかに、警察の強制捜査等に比べ、力は弱い。にもかかわらず、令状等なく、臨検や書類提出の要求を強制できるか、といえば、法律同士のバランスを考えても考えづらいわけです。

労働基準監督署や労働基準監督官といえど、その権限は無限ではないのです。

 

会社が知っておきたい労働基準監督署の臨検調査の真実
1.労働基準監督署の調査への心構え
2.労働基準監督署調査の流れ
3.是正勧告と指導の違い
4.労働基準監督官とは何者なのか
5.労働基準監督官の権限の限界
6.「違法な調査?」と思ったら

監督署の調査で社労士ができること

  1. 調査への立ち会い(予告がある場合のみ、だけでなく、場合によっては予告がない場合でも立ち会いできることがあります)
  2. 労働法違反に対する是正のアドバイス
  3. 是正報告書の作成及び提出の代行
  4. (監督署の是正勧告が不当と思われる場合のみ)、監督署への上申書の作成及び提出の代行

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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