外国人雇用

日本とベトナムとのあいだで「技能実習における協力覚書」の合意が行われました(おまけで外国人技能実習制度も解説)

厚生労働省のウェブサイトによると、日本の法務省・外務省・厚生労働省とベトナムの労働・傷病兵・社会問題省との間で「技能実習に関する協力覚書」の署名が行われたそうです。

覚書を結ぶことにより、今や、日本の技能実習制度における技能実習制生最大の送出国となっているベトナムと、円滑な技能の移転を行い国際協力を推進することを目的としています。

以下、厚生労働省のサイトから覚書のポイントを引用。

【日本の省の約束】
・ 技能実習法(※)の基準に基づき、監理団体の許可事務・技能実習計画の認定事務を適切に行う。
・ 監理団体の許可取消や技能実習計画の認定取消等の行政処分を行った場合は、ベトナム側に情報を提供する。
・ ベトナム側から不適切な監理団体・実習実施者の情報が提供された場合は、調査を行い適切に対処する。また、その結果をベトナム側に通知する。
(※)「 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」

【ベトナムの省の約束】
・ 今回の覚書の基準に基づき、送出機関の認定事務を適切に行う。
・ 送出機関の認定取消等の処分について、日本側に情報を提供する。
・ 日本側から不適切な送出機関についての情報が提供された場合は、調査を行い適切に対処する。また、その結果を日本側に通知する。

【共通の事項】
・ 技能実習制度の運用について、定期的な意見交換を行う。
・ この覚書は、2017年11月1日から発効する。

参照:厚生労働省

要するに、情報交換と、お互いの国で技能実習に関わる団体に対する認定や取り締まりをきちんとしていきましょう、という内容。

覚書全体の日本語訳はこちら。

(別添)「技能実習に関する協力覚書(仮訳:日本語)」(PDF:202KB)(リンク先PDF 参照:厚生労働省

 

技能実習制度って何?

そもそも技能実習制度とは何かというと、日本の会社に外国人研修生を迎え入れ、そこで一定期間働くことで学んだ技術を母国(多くの場合発展途上国)で活かしていく、というもの。

技能実習制度は大きく分けると2つの「型」があります。

1つは、企業単独で行う「企業単独型」。現地に現地法人や合弁企業を持つ日本の会社が、そこで働く労働者を日本に連れてきて、そこで一定期間働かせて、また現地法人や合弁企業で働いてもらうというもの。

海外展開する会社の日本人が海外法人に人事異動するような感じ、と考えてもらえばわかりやすいかもしれません。

しかし、海外にコネクションを持っている会社というのは非常に少数です。

ただ、そうした会社にも発展途上国の人からすると学ぶべきことはたくさんあるだろうということで創設されているのが「団体管理型」。

「団体管理型」では、国から許可を受けた事業協同組合や商工会議等が、技能実習生の管理団体となり、技能実習生を雇いたいと考える会社の橋渡しとする方法が取られています。

 

技能実習制度の問題点

実はこの技能実習制度、特に「団体管理型」は、諸外国では非常に評判が悪く「奴隷制」や「人身売買」と呼ぶ声すらあります。

というのも、まず、技能実習生には「在留資格」の問題があるため、実質的に「職業選択の自由」がありません。

そのため、研修先となった会社の労働条件が最低賃金未満で働かせるとか、超長時間労働を強いるなど劣悪だったとしても、退職したり転職したりする、というのが非常に困難となっています。

また、ベトナムから日本を技能研修生を送出する送出団体では、日本に来たいという労働者に対して多額の保証金を要求し、払えない場合は借金として日本での稼ぎを持って返済させるなどの不正も横行しています。

とてつもなく酷い事業所での労働を強いられ、本国に帰ろうにも借金があるので帰れない、結果、行方不明となる技能実習生が後を絶たない状態にあります。

加えて、研修制度を行う8割近くの事業所が規模50人未満の中小企業ということで、研修目的といいつつ、実態としては人件費の削減や労働力不足の解消のための制度と化しているのが現状です。

現状、技能実習制度を行える職種には制限がありますが、発展途上国ではとても需要のなさそうでありながら、人手不足が叫ばれる介護職種の追加が今年の11月に予定されているところをみると、もう本音と建て前を使い分ける気もなさそう。

 

翻って、今回の覚書の内容ですが、上記のような問題を解決するために日本では「団体管理型」の技能実習生を管理する管理団体への取り締まりを強め、ベトナムでは日本に労働者を送る送出機関を取り締まりを強め、その結果等を両国で情報交換していきますよ、ということになっています。

ただ、日本語訳の覚書本体をざっと読みましたが、少なくともこの覚書によって技能実習法を改正する、といった内容は含まれてはおらず、この覚書によって法改正が行われる、制度自体に変更が行われる、ということはなさそうです。

今日のあとがき

今回の覚書の内容自体は正直当たり障りのない感じですが、こういうものが出てくるということは今後も技能実習制度をやめる気はない、という意思表示とも取れます。

外国人労働者の受入れを制限しつつ、外国人労働者を受け入れたいという非常に手前勝手な制度を堂々と拡大できる政府の面の皮の厚さに驚きですが、外国人を日本に受け入れたくないという民意が一部であるのもまた事実ということを考えると、こうした制度は様々な意味での落としどころであり、実習生はその犠牲になっているということなのでしょう。

まあ、そんなことが続けられるのは日本にお金があるうちだけだとは思いますけどね。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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