労働契約

ベネッセの容疑者の肩書が派遣社員から委託社員に変わったことの意味

2014年7月18日

ベネッセの個人情報流出の件で気になったことがあったので1つだけ。

容疑者の肩書を委託社員に訂正 ベネッセ情報流出で警視庁

警視庁が今回の件の容疑者の肩書をこれまでの派遣社員から委託社員に変える、という、一般の人から見たらどうでもよくね、と思われるかもしれないことですが、これがどうして、なかなかに気になるのが社労士の宿命でしょうか。正直、個人情報流出の件よりもわたしは気になりました。

簡単に説明しておくと、委託社員というのは要は請負のことです。個人請負として、会社と労働契約ではなく請負もしくは委託契約を結ぶとう形態。この場合、委託契約のため社会保険料や雇用保険料を支払わなくても良い一方、労働契約ではないため、基本的に会社は業務の遂行方法を委託者に任せなければならず、業務命令等はできません。まあ、このへんはほじくり始めると長くなるのでここらでやめておきます。

わたしが気になったのは、なぜベネッセやその他マスコミはこうした委託社員を派遣社員と誤認していたかという点です。

委託社員と派遣社員の共通点は「ベネッセと雇用契約を結んでいない」くらいしかありません。前述したように、委託社員の場合、ベネッセと委託社員が結ぶのは委託契約だし、派遣社員の場合は、派遣元である派遣会社と雇用契約を結ぶため、ベネッセと派遣社員の間に契約がそもそもありあません。

ここからはわたしの予想ですが、もしかしたらベネッセはどこか別の会社から自社の委託社員となってくれる相手をどこか別の会社から派遣してもらっていたのではないでしょうか。つまり、ベネッセの関連会社には個人請負を派遣する会社が存在するのでは、ということです。

これだと、委託社員が別会社から派遣されているので、委託社員を派遣社員と誤認してもおかしくはない。おかしくはないのですが、派遣元が労動者などと雇用契約を結ぶことなく労動者を派遣することは労働者供給事業として職業安定法第44条で禁止されているので、それがわたしには非常に気になったわけです。

繰り返しますが、これはあくまでわたしの予想であり、実際のところはどうなのかわかりませんが、もしかしたら、思わぬところで今後、ベネッセの労務管理の脇の甘さが露呈することになるかもしれません。

追記:この記事では「委託社員=個人請負」を前提に書きました(この解釈のほうが一般的だからです)が、事件を詳しく追ってみたところ、今回の件で言う「委託社員」とは単に外部委託先の社員ということもありえそうですね。ただ、その場合でも広い意味での偽装請負の可能性はありそうですが。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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