労働時間

契約内容と乖離した労働時間は、どこまでが所定外でどこまでが実態なのか

2016年8月31日

労務管理の現場では、契約書や就業規則の内容がどうなっていようと、実態がそれとかけ離れている場合は、実態を見る、というのが普通というか常識です。

とはいえ、仕事の都合や繁忙期などにより、契約書の内容から一時的に実態からかけ離れてしまうこともあります。

特に影響が大きいのは労働時間で、忙しくなれば労働時間は当然増えます。

短時間労働者の場合、労働時間が増えると、雇用保険や社会保険の加入要件を満たす場合がありえます。

こうした一時的な、臨時的な労働条件の乖離についてどのように会社は考えていけばいいのでしょうか。

 

所定外労動時間の考え方

雇用保険や社会保険の加入に関する労動時間の条件ついては、基本的に契約書を基本に考えて問題ありません。

例えば、労働時間が週20時間未満の契約なのに、シフトなどの都合で25時間になったとしても、オーバーした5時間ちょっとは「所定外時間外労働」と扱うからです。

所定外労働時間は、あくまで契約上の所定労働時間を超えただけなので、1日8時間1週40時間の枠内に収まっているのであれば、時間外手当は発生しません。

ただ、所定外であろうと法定外であろうと、時間外労働は一時的、臨時的なものと基本的に考えるのは同じ。

しかし、臨時的な働き方が常態化している、実態としては時間外労働も含めた時間がその人の所定労働時間なのではないか、と考えられる場合はその範疇ではありません。

では、臨時的な働き方が常態化していると考えられる基準はどこにあるのでしょうか。

現状、最も有力な考え方は、それが「直近2カ月」で続いた場合です。

 

短時間労働者への社会保険の適用拡大の通達から読み解く

実は、今年の10月より短時間労働者への社会保険の適用拡大されるにあたって、厚労省から健保組合向けに、どのような短時間労働者を社会保険に加入させるかなどについて記した通達が出されています。

そのなかで、以下のように

所定労働時間又は所定労働日数は4分の3基準を満たさないものの、事業主等に対する事情の聴取やタイムカード等の書類の確認を行った結果、残業等を除いた基本となる実際の労働時間又は労働日数が直近2月において4分の3基準を満たしている場合で、今後も同様の状態が続くことが見込まれるときは、当該所定労働時間又は当該所定労働日数は4分の3基準を満たしているものとして取り扱うこととする。

 

所定労働時間は週20 時間未満であるものの、事業主等に対する事情の聴取やタイムカード等の書類の確認を行った結果、残業等を除いた基本となる実際の労働時間が直近2月において週20 時間以上である場合で、今後も同様の状態が続くことが見込まれるときは、当該所定労働時間は週20 時間以上であることとして取り扱うこととする。

参照:短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大に係る事務の取扱いについて(保発0513第2号)(リンク先PDF)

上は従来通り4分の3ルールが適用される事業所について、下は新たに今回の適用拡大が適用される事業所に向けたものですが、いずれの場合も直近2カ月で週20時間以上あり、それが今後も続く場合は、週20時間以上であると扱うとしています。

気になるのはどちらにも書かれている「残業等を除いた」の残業が何を指すかですが、今のところ定かではありません。

ただ、所定外労動時間まで含めると、これらの文章全体がなんのための一文かわからなくなるので、基本的には法定外時間外労働のことを言うのではないかと予想。20時間の方はともかく、4分の3基準の場合、1日の縛りがなくなったこともあり、そちらの法定時間は案外簡単に超える可能性もありますし。

少なくとも所定労働時間が「基本となる労動時間」でないことを証明できないと言い逃れは難しいのではないでしょうか。

 

もちろん、この通達はあくまで、10月からの社会保険の法改正向けのものであり、他の全てに当てはまるとは言い切れませんが、1つの基準となるのは間違いありません。

常識的に考えても直近2カ月の業務が本来の契約内容と乖離していて、今後もそれが続きそうだとなれば、それが実態と言われても仕方ないのではないでしょうか。

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夏休みも今日でおしまい、と思ったら、最近は9月1日始業式でない学校も多いらしいですね

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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