代休は法律に定めのない制度ではあるものの、多くの企業で導入され、活用されています。
しかし、その一方で、法令上問題のある運用をしている会社も少なくありません。
法令に関する知識が不足したまま代休制度を運用していると、未払い賃金が発生したり、労働基準監督署の調査で是正勧告を受ける可能性がありますので、代休を導入・運用している会社は今一度、本記事を参考に会社での現状を確認してみるといいでしょう。
- 代休と振替休日の違い
- 代休取得と割増賃金の関係性
- 代休を有給休暇のように使う場合のリスク
「代休」とは
代休とは、休日労働をさせた「後に」代わりの休日を与える制度
代休とは、休日に労働を行わせた後に、代わりの休日を他の労働日に与える制度です。
例えば、土曜日に休日出勤させた後に、その代わりの休みを翌週の水曜日に与える場合がこれに当たります。
休日労働を行う「前に」振り替えるのが振替休日
代休とよく似た制度に振替休日というものがあります。
しかし、両者は全く違う制度なので区別する必要があります。
振替休日は実際に休日労働を行う前に、休日と労働日を振り替えるものをいいます。
すでに述べたように、代休は休日労働を行った後に代わりの休日を取らせる制度なので、両者には振り替えるタイミングが、休日労働の事前か事後という違いがあるわけです。
「代休」と「振替休日」と割増賃金
代休は法令に定めのある制度ではありません。しかし、運用を誤ると法令に違反する可能性が高い制度です。
なぜなら、代休は休日労働や時間外手当や休日手当と密接な関係があるからです。
「代休」と「振替休日」と割増賃金
代休と時間外・休日手当
代休は、休日労働を行った後に、別の労働日に代わりとなる休日を与える制度です。つまり、代休が発生する場合は、必ずその代休前に休日労働を行っているはずです。
この休日労働が、所定休日労働であれば時間外手当(※)、法定休日労働であれば休日手当を支払う必要があります。
この時間外手当もしくは休日手当の支払義務は、労働者に代休を取得させたとしても免除されることはありません。
※ 所定休日労働によって、週の労働時間が法定労働時間を超えない場合は除く
振替休日と時間外手当・休日手当
一方、類似の制度である振替休日の場合、事前に労働日と休日を振り替えている、つまり、もともと休日だったその日は振替後は労働日に変わっているため、その日の労働は休日労働とは考えません。
つまり、休日労働をしていないので、時間外手当や休日手当を支払い義務が発生しないわけです(振替休日を行った結果、週40時間を超える場合は除きます)。これは「代休=休日労働の発生」である代休との大きな違いです。
以下は振替休日の例ですが、第一週の日曜日を労働日に振り替えたことで、第1週の労働時間が増えているものの、週40時間以内の枠に収まるので時間外手当は発生しません。
そして、振替後の日曜日は法定休日という扱いではもうないので(ここでの法定休日は振り返られた第2週の火曜日と第2週の日曜日)、休日労働手当も発生しません。
なお、法定休日と労働日を振り替えた結果、その週の1週間の労働時間が法定労働時間を超える場合は時間外手当が発生します(上記の例でいうと、水曜日が祝日でない場合にこのようなことが起こりえます)。
「代休」「振替休日」の取得単位
代休の取得単位に定めはなし
代休の取得単位に制限はありません。
法定休日・所定休日を問わず、1日単位や半日単位、時間単位での取得、いずれであっても就業規則にその定めがあれば可能です。
振替休日の半日単位・時間単位取得は所定休日を振り替える場合のみ可能
一方、振替休日を半日単位や時間単位で取得については、所定休日を振り替える場合は可能、法定休日を振り替える場合は不可能となっています。
なぜなら、法定休日というのは原則として1暦日、つまり、午前0時から午後24時までの24時間を指すからです。
よって、振り替えられた後の休日が半日や時間単位だと、休日と認められないわけです。
代休と振替休日の違いまとめ
代休と振替休日の違いをまとめると以下のようになります。
| 代休 | 振替休日 |
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代休の運用上の注意点
会社が日時を指定するか、労働者が指定するか
代休の運用に関しては大きく「会社が代休日を指定する場合」と「労働者が代休日を指定する場合」があります。
また、労働者が代休日を指定する場合、「代休を有給のように累積」できるようにしている会社もあります。
どういった方法とするかは会社の裁量ですが、いずれの場合も、以下で解説する賃金の支払い方法に注意する必要があります。
代休と発生した割増賃金の相殺
代休の取得はイコール割増賃金発生を意味します。
この割増賃金ですが、休日労働した日を基準に支払う場合と、代休を取得した日を基準とする場合があります。
前者の場合は給与計算上、特に問題はありません。休日労働した日に割増賃金を付けて、代休を取った日を欠勤控除すればいいわけです。
ただ、実務上は、代休を取得した日を基準にして、以下のように基礎賃金の相殺を行われている場合が少なくありません。

代休の取得時期と賃金全額払いの原則
この相殺を行うにあたっては、賃金の全額払いの原則に気を付けなければなりません。
賃金の全額払いの原則とは、一賃金支払期(賃金締め日の翌日から次の賃金締め日)までに発生した賃金は、分割することなく、賃金の全額をその期の支払日に賃金を支払わなければならないというものです。
ただ、休日労働分の割増賃金と代休を相殺するという場合、休日労働を行った月と代休を取得する月が異なる、ということが起こりえます。この場合、全額払の原則に違反してしまいます。
例えば、1月に休日労働をした場合、基本的にはその休日労働分は1月の給与に入っていないといけません。
一方で、1月の休日労働によって権利の発生した代休の取得が2月になってしまうと、1月に休日労働した分の給与は2月に支払われることになってしまいます。
つまり、代休取得時に賃金を支払う場合、休日労働と代休は同じ賃金支払期にする必要があるわけです。
代休を有給のような形で運用する場合の賃金
会社が代休の取得日を指定するのであれば、全額払いの原則違反はある程度避けられるでしょう。
一方、労働者が指定する場合、代休を取得するかどうかは労働者側に委ねられます。
加えて、代休の累積を可能としている倍、未消化の代休が累積していくと、法令に違反する可能性がどんどん高まります。代休の取得が行われない限り、賃金が支払われないということだからです。
代休の取得期限や強制取得も検討すべき
以上のことから、「代休の取得を労働者にゆだねる」運用自体は違法ではないものの、完全に労働者任せにするのはリスクが高いことがわかります。
そのため、「代休を年次有給休暇のような形」で運用する場合、代休に取得期限を設けたり、会社の命令で強制取得できるようにしておくことも検討すべきでしょう。
また、そもそもの話として休日労働のルールは、休日労働をさせた分の賃金はそのときにきちんと支払うことです。
よって、休日労働をさせた分の賃金はそのときにきちんと支払い、代休取得の際は無給とする運用方法にすることも考慮に入れるべきでしょう。
就業規則への記載方法
また、代休について制度を導入する場合、就業規則への記載が必須となっていますが、代休の規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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