労務管理において「その時間が労働時間に当たるかどうか」は非常に重要です。
なぜなら、時間外手当や最低賃金をみればわかるとおり、日本の労働法では基本的に給与は時間と紐付いているからです。
また、近年では労働者の健康管理という面も非常にクローズアップされており、労働時間はそうした労働者の健康管理の指標にもされ、会社にその把握が求められています。
こうした労働時間の重要性を踏まえ、この記事では、労働時間の基本について解説していきます。
労働時間の基本的な考え方
労働時間の定義
さて、労働時間とは具体的にはどういった時間のことを指すのでしょうか。
厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間を以下のように定義しています。
労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
つまり、労働時間というのはあくまで会社からの指揮命令がある時間のことをいい、使用者の指示なく労働者が勝手に働いた時間については労働時間とはいわないわけです。
ただし、直接的な指示はなくても、上記の定義にもあるとおり「黙示」、つまり、暗黙の指示があって働いている時間は労働時間となります。
労働時間の把握義務
この労働時間ですが、労働安全衛生法にて、事業者に対して労働者の労働時間を把握することを義務として定めています。
労働基準法ではなく労働安全衛生法? と思った方もいるかもしれませんが、これは健康管理のための把握を目的としているからです。
労働安全衛生法 第六十六条の八の三
事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働時間の把握義務の対象となるのは特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の対象労働者以外のすべての労働者です。
労働基準法では労働時間等の条文の適用除外とされている農水産業従事者、監視・断続的労働従事者、宿日直勤務者などについても、会社は労働時間の把握が必要です。
また、デザイナーやクリエイターなどのように労働時間と成果が比例しない業務に就くものであってもこれは同じで、仮に裁量労働制を採用していたとしても、そもそも裁量労働制自体が労働時間把握義務を免除するものではないので、やはり労働時間把握は必要となります。
法定労働時間と法定休憩時間
労働時間および休憩時間に関しては、法律上にそのルールが厳密に定められています。そのため、法律への理解なくこれらの規定を定めてしまうと、法違反となる可能性が非常に高まります。
法定労働時間
法定労働時間とは、この時間を超えて労働者を働かせることは原則できないとされている時間です。
この法定労働時間ですが、労働基準法にて、1週40時間、1日8時間と定められています。(なぜ、1週40時間、1日8時間労働なのかの歴史が気になる人はこちらの記事を)
ただし、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で規模が常時10 人未満の事業場については、週の法定労働時間は44 時間が限度となります。
1週の起算日
法定労働時間における1週の起算日は、特に定めがない場合は日曜日とされますが、規定に定めることで他の曜日を起算日とすることも可能です。
法定休憩時間
| 労働時間 | 必要な休憩時間 |
| 6時間を超え、8時間以内 | 45分以上 |
| 8時間を超える場合 | 1時間分以上 |
休憩時間に関する詳細は、以下の記事をご覧ください。

法定労働時間を超えて働かせる場合
法定労働時間を超えて働かせること、法定休憩時間を取らせずに働かせることは法違反となり罰則の対象となります。
ただし、36協定の締結し、就業規則にてその定めをすることで、法定労働時間を超えて働かせることは可能です。
詳細は以下の記事を。

法定労働時間と所定労働時間の関係
法定労働時間とは別に所定労働時間という言葉もよく聞きます。
所定労働時間とは
所定労働時間とは、契約上、労働者が働くことになっている時間です。
例えば、「1日の労働時間は7時間」という契約の場合、所定労働時間は7時間となります。
この所定労働時間の長さは法定労働時間内に収める必要があります。つまり、法定労働時間より長くすることは出来ませんが、短くすることは可能なわけです。
法定内所定外労働時間(法定内残業)
所定労働時間を法定労働時間よりも短くする場合、所定労働時間は超えているものの法定労働時間は超えていないという、法定内所定外労働時間(法定内残業)が発生することがあります。
注意が必要なのは、会社によってはこうした法定内残業が発生しているにもかかわらず、その時間の賃金の扱いがきちんと決まっていない場合があることです。
このように、法定内所定外労働時間の扱いが曖昧となっていると、場合によっては未払い賃金が発生していることもあるので、所定労働時間を法定労働時間を短くする場合は、法定内残業の賃金の扱いについてもきちんと決めておく必要があります。
(ここでいう未払い賃金とは法定外時間外労働をした場合に法律上必ず支給しなければならない「0.25」の部分ではなく、通常の労働をした分の「1」の部分です。法定内残業は法定労働時間を超えているわけではないので、2割5分以上の割増率の割増賃金を支払う義務はありませんが、労働はしているのでその労働時間分の賃金は支払う必要があります)
法定労働時間の例外的なルール
法定労働時間については1日8時間、1週40時間という原則的なルールの他に、様々な例外的なルールが存在します。
以下で紹介するものは、原則的なルールよりも自由度が高い一方、相応に扱いが難しく法令違反のリスクもあるため、導入の際は専門家に相談するなどした方が無難です。
変形労働時間制
変形労働時間制とは、1か月や1年など特定の期間に関して、その期間を平均して週40時間に収まるよう労働時間を変形する制度です。
裁量労働制
裁量労働制とは、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた1日の労働時間働いたとみなす制度です。
例えば、裁量労働制として定めた1日の労働時間が8時間の場合、その日の労働時間が7時間でも9時間でも8時間とみなします。
高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度とは、一定のプロフェッショナルに対して、そもそも労働時間を適用しない制度となります。
労働時間に当たるかどうか
以上のように、賃金計算や時間外労働、安全衛生など様々な理由から把握が必要とされるのが労働時間です。
しかし、実務上は、労働時間の定義である「労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」に該当するかどうか、判断に迷うものも少なくありません。
こちらについては、以下の記事にて、休憩時間や通勤時間、社員良好の時間等、様々な事例を挙げて解説を行っているので、参考にしていただければと思います。

労働契約・就業規則への記載
始業・終業時刻は何時から何時までなのか、労働時間は何時間なのか、時間外労働はあるのか、というのは、労働者にとって非常に重要な労働条件となります。
そのため、これらは労働契約書(労働条件通知書)や、就業規則への記載が必須となっています。
詳しくは以下の記事を参考にしていたければと思います。


