午前中に病院に行きたい。午後から子どもの授業参観がある。
そういった需要に応えるために設けられている制度が時間単位年休です。
ただ、こういった場合、時間単位年休ではなく、年次有給休暇の半日単位取得を利用する会社も多いでしょう。
確かに、半日単位年休と比べると時間単位年休は制度が複雑です。でも、その分、労働者側の自由度も高い制度。
そんな時間単位年休について、制度の解説や就業規則作成時のポイントについて解説していきます。
- 時間単位年休の制度概要と、半日単位年休との違い
- 時間単位年休を導入する際に必要となる就業規則の定めと労使協定の位置づけ
- 対象者の範囲、取得できる日数・時間単位など、条文作成時の具体的な検討ポイント
- 就業規則に定める「時間単位年休」条文の基本的な規定例と、対象外を設ける場合の考え方
「時間単位年休」とは
時間単位年休とは、労働者が年次有給休暇を時間単位で取得できる制度です。
本来、年次有給休暇は1日単位の取得が原則です。
しかし、治療や通院、子どもの学校行事への参加など、仕事とプライベートのバランスを考えたときに、丸1日ではなく、1時間や数時間など、時間単位で取得できた方が便利な場面も少なくありません。
そのため、労働基準法では、労使間で協定を結ぶ場合、時間単位での年次有給休暇の取得を例外的に認めています。
「時間単位年休」条文の必要性
時間単位年休を導入するには労使協定の締結が必要です。
一方、労使協定には、就業規則のように労働者を拘束する効力はありません。
そのため、時間単位年休を導入する際は、労使協定の締結と併せて、就業規則に定める必要があります。
「時間単位年休」条文作成のポイント
時間単位年休の対象者
すべての労働者を対象とするか
過去の通達では、時間単位年休の対象者は、「事業の正常な運営の妨げ」になるかどうかという観点から選ぶべきとされています。
しかし、こちらについては、そもそも法律上に定めのあることではありません。そのため、あくまで時間単位年休の対象者の選定は労使自治の範囲であり、そういった観点で決定する必要ないとの見方もあるようです。
いずれにせよ、必ずしもすべての労働者を対象とする必要がないことだけは確かでしょう。
時間単位年休になじまない者
なお、裁量労働制が適用される労働者や管理監督者については、時間単位年休を適用できないと法律で定められているわけではありません。ただ、こういった人たちは労働時間を自分の裁量で決められる以上、制度に馴染まないといえます。
そのため、こうした労働者については、対象外として定めておいた方がいいでしょう。
時間単位年休の取得について
時間単位で取得できる限度を、年間5日より増やすことはできないが減らすことは可能
法律上、時間単位年休を取得できるのは年間で5日分までとされています。
ただ、これはあくまで上限なので、3日や4日とすることは問題ありません。
時間単位年休の単位の変更
時間単位年休の原則の単位は1時間です。
会社の意向や、労使協定によって、この時間を1時間よりも短くすることはできません。一方で、1日の所定労働時間よりも長くならない限り、これを2時間や4時間のように長くすることは可能です。
ただ、そうはいっても、一番運用がしやすいのは1時間でしょう。
時間単位年休1日の時間数
時間単位年休1日の時間数とは、何時間分の時間単位年休を取得したら、年次有給休暇1日と数えるか、ということです。
これについては、基本的には、1日の所定労働時間が基準となります。
例えば、1日の所定労働時間が8時間の労働者の場合、8時間分、時間単位年休を取得したら1日と数えるわけです。
では、1日の所定労働時間が7時間半などのように端数がある場合はどうすればいいのでしょうか。子の場合、端数は必ず切り上げる必要があります。つまり、1日の所定労働時間が7時間半の場合は8時間、6時間10分の場合は7時間とする必要があります。
また、日によって1日の所定労働時間が異なる場合は、1日あたりの平均所定労働時間をもとにします。
年次有給休暇の賃金の計算方法が平均賃金の場合
年次有給休暇取得時の賃金については「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」としている場合がほとんどです。ただ、法律上はこれを平均賃金で支払ったり、労使協定を締結すれば標準報酬日額で支払うこともできます。
そして、この年次有給休暇取得時の賃金については、1日単位の年次有給休暇と時間単位年休とで同じである必要があります。つまり1日の年次有給休暇取得時の賃金を「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」以外にしている場合、時間単位年休についても合わせる必要があるわけです。
時間単位年休には労使協定が必要
時間単位年休を利用する場合、就業規則に定めるだけでなく、労使協定を締結する必要があるので、制度を導入する場合は必ずこれを締結するようにしてください。
この労使協定には最低限、以下のことを定める必要があります。
- 時間単位年休の対象労働者の範囲
- 時間単位年休の日数
- 時間単位年休1日の時間数
- 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
なお、時間単位年休の労使協定については、締結した労使協定を監督署に提出することまでは義務づけられていません。
就業規則「時間単位年休」の規定例
第○条(時間単位年休)
- 従業員は、労使協定に基づき、第20条で付与された年次有給休暇の日数のうち、前年度の繰越しを含めて、1年度に5日以内を限度として、時間単位での年次有給休暇(以下「時間単位年休」という)を請求することができる。
- 前項における1年度とは、年次有給休暇の付与日から次の付与日の前日までの期間をいう。
- 時間単位年休を請求できる対象者は、すべての従業員とする。
- 時間単位年休を取得する場合の1日分の年次有給休暇は、当該従業員の1日の所定労働時間とし、1時間未満の端数がある場合はこれを切り上げる。
- 前項にかかわらず、日によって所定労働時間が異なる従業員については、1年度における1日の平均所定労働時間とする。
- 時間単位年休は、1時間単位で付与するものとし、1時間未満での取得の請求はできないものとする。
- 時間単位年休を取得した時間については、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間あたりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額を支払う。
規定の変更例
時間単位年休の対象外となる者がいる場合
第○条(時間単位年休)
- 従業員は、労使協定に基づき、第20条で付与された年次有給休暇の日数のうち、前年度の繰越しを含めて、1年度に5日以内を限度として、時間単位での年次有給休暇(以下「時間単位年休」という)を請求することができる。
- 前項における1年度とは、年次有給休暇の付与日から次の付与日の前日までの期間をいう。
- 時間単位年休を請求できる対象者は、すべての従業員とする。ただし、次の者についてはその対象外とする。
① ○○課に所属する従業員
② 裁量労働制が適用される従業員
③ 管理監督者に該当する従業員 - 時間単位年休を取得する場合の1日分の年次有給休暇は、当該従業員の1日の所定労働時間とし、1時間未満の端数がある場合はこれを切り上げる。
- 前項にかかわらず、日によって所定労働時間が異なる従業員については、1年度における1日の平均所定労働時間とする。
- 時間単位年休は、1時間単位で付与するものとし、1時間未満での取得の請求はできないものとする。
- 時間単位年休を取得した時間については、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間あたりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額を支払う。
▶ 就業規則の作成・見直しサービスを見る(名古屋の社労士が対応)
社会保険労務士川嶋事務所では、名古屋市および周辺地域の中小企業を中心に、就業規則の作成・改定を行っています。川嶋事務所では、この記事で見た条文を含め、
・会社の実態に合った規程設計
・法改正を見据えたルール作り
・将来のトラブルを防ぐ条文設計
を重視し、あなたの会社に合った就業規則を作成します。
