割増賃金は、残業や休日労働、深夜労働をさせた場合に、会社が必ず支払わなければならない賃金です。
制度自体はよく知られている一方で、計算方法や割増率、算定基礎となる賃金の考え方の理解が不十分な会社も少なくありません。
特に、住宅手当の扱いや深夜手当の書き方、変形労働時間制との関係は、就業規則上のミスが起こりやすいポイントです。
この記事では、割増賃金の基本的な考え方から、実務でつまずきやすい計算方法・割増率の整理について、社労士の視点で解説します。
- 割増賃金と労働時間、36協定との関係
- 割増賃金の計算に含める賃金・含めなくてよい賃金
- 時給換算の考え方と割増賃金率の整理
- 深夜労働や休日労働で割増率が合算されるケース
- 変形労働時間制における割増賃金計算の注意点
割増賃金とは
割増賃金とは、会社が労働者を法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日や深夜に働かせたりした場合に支給しなければならない賃金となります。
法定労働時間を超えて働かせる場合の割増賃金については、時間外手当や残業代とも呼ばれます。同様に、法定休日に働かせた場合の手当は休日手当、深夜に働かせた場合の割増賃金は深夜手当とも呼ばれます。
これらの割増賃金は、法律上、会社に義務付けられた賃金であるため、要件を満たしているにも関わらず、この支給を行わない場合、労働基準法違反となります。
割増賃金と労働時間
36協定との関係
法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせたりする場合、上記の割増賃金さえ支払っていれば問題ない、ということはありません。
必ず、労使間で時間外休日労働に関する協定、いわゆる「36協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。

労働時間の正確な把握
割増賃金の額を決定するに当たっては、労働時間をきちんと把握しないと、そもそも何時間の時間外労働や休日労働、深夜労働があったのかがわかりません。
労働時間の考え方や、この時間は労働時間かどうかの判断については、以下の記事で解説していますので、こちらをご覧いただければと思います。
割増賃金の計算方法
割増賃金の計算に含める必要のある賃金
労働基準法では時間外手当・休日手当、深夜手当の算定する際の単価に、以下の手当を含める必要はないと定められています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われる賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記のものは例示ではなく、限定列挙となります。
つまり、上記以外の手当はすべて時間外手当を算定する際には算入しなければいけません。
住宅手当の要件に注意
5の住宅手当は、「住宅に要する費用に応じて手当の額が変動するもの」を指します。
例えば、「住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもの」や「住宅に要する費用を段階的に区分し、費用が増えるに従って額を多く支給するもの」がこれに当たります。
一方、持ち家や賃貸のように「住宅の形態ごとに一律定額で支給されるもの」やそれ以外の要素に応じて定率または定額で支給するものは、ここでいう住宅手当には当てはまりません。
時給換算
割増賃金は原則、1分単位で計算しなければなりません。
そのため、日給制や月給制の場合、あるいは時給制であっても月単位で払われる手当がある場合、これを時給に換算する必要があります。
給与形態ごとの算定基礎となる賃金の計算方法は以下のとおりです。
- 時給:「時給の金額」+「月単位の手当がある場合はこれを時給に換算したもの」
- 日給:「日給の金額 ÷ 1日の所定労働時間数」+「月単位の手当がある場合はこれを時給に換算したもの」
- 週給、月給:「月給(週給) ÷ 週もしくは月の所定労働時間数」+「月単位の手当がある場合はこれを時給に換算したもの」
割増賃金率
次に、事由ごとの割増賃金率です。こちらは以下のようになります。
(法定)時間外労働 : 2割5分以上(月60時間を超えた時間外労働分は5割以上)
(法定)休日労働 : 3割5分以上
深夜労働 : 2割5分以上
なお、休日労働に関しては、法定休日に労働する場合のみ割増率は3割5分以上となります。それ以外の所定休日に関しては法定時間外労働と同じ扱いとなるため、割増率は2割5分もしくは5割となります。
また、よくある就業規則のミスとして、時間外手当や休日手当を時給の125%や135%で支払う関係から、深夜手当についても125%と就業規則等に記載してしまうケースがあります。
しかし、そのように定めてしまうと、例えば、時間外労働と深夜労働が重なった場合、賃金の額が250%というとんでもないことになってしまうので、深夜手当についてはきちんと0.25倍や25%としておく必要があります。

法定内所定外労働時間の扱い
所定労働時間が8時間より短い場合、所定労働時間外だけど、法定労働時間は超えていないという時間外労働が発生することがあります。
これを法定内所定外労働時間といいます。
この法定内所定外労働時間については、賃金を支払う必要はあるものの、割増賃金を支払う必要まではありません。
もちろん、会社の裁量で割増賃金を支払うことも可能です。
割増率が合算される場合
時間外労働および休日労働が、深夜に及んだ場合、以下のとおり、割増率は合算されます。
- 時間外が深夜に及んだ場合 : 2割5分+2割5分=5割以上
- 月60時間超えで時間が深夜に及んだ場合 : 5割+2割5分=7割5分以上
- 休日労働が深夜に及んだ場合 : 3割5分+2割5部=6割以上
なお、割増率の合算を行うのはあくまで深夜労働とそれ以外に限られます。
例えば、法定休日に8時間を超えて働いた場合も、法定休日労働は1日すべて休日労働している扱いになるので、休日労働と時間外労働が合算されることはありません。
割増賃金の算出
割増賃金は、時給換算した算定基礎賃金に、時間外労働等をした時間と割増率をかけて計算します。
例えば、時給換算した算定基礎賃金が2,000円の場合で、法定時間外労働を15時間30分した場合、割増賃金は38,750円(=2000×15.5×1.25)となります。
変形労働時間制の割増賃金の計算
1年単位や1か月単位などの変形労働時間制の割増賃金のうち、時間外労働の割増賃金に関しては注意が必要です。
なぜなら、こうした変形労働時間制は一定の期間を区切って、平均で週40時間となることを条件に労働時間を変形しているわけですが、実際の労働時間が平均週40時間を超える場合、当然、割増賃金が発生するからです。
各変形労働時間制の残業代の計算方法については、以下の記事で解説しています。




なお、休日手当と深夜手当については、通常の労働時間の割増賃金と考え方が変わることはありません。
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割増賃金のミスは、就業規則より運用で露呈します。とはいえ、就業規則の定めにミスがあれば、当然、それもリスクとなります。
そのため、制度理解だけでなく、自社に合った条文設計や運用まで落とし込むことが重要です。
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