緊急災害時等の時間外・休日労働とはー36協定不要の時間外労働を解説

地震や台風などの自然災害、突発的な設備トラブルやシステム障害――。

こうした非常事態が発生した場合、会社は通常とは異なる形で、労働者に時間外労働や休日労働を行わせることが認められています。

これを緊急災害時等の時間外・休日労働といいますが、こちらの制度は、会社の業務の都合による通常の時間外・休日労働とは扱いが大きく異なり、36協定が不要となる一方で、労働基準監督署の許可が必要になるなど、独自のルールが設けられています。

本記事では、緊急災害時等の時間外・休日労働について、通常の時間外・休日労働との違いを整理しながら、法令上のポイントを解説します。

この記事でわかること
  • 「緊急災害時等の時間外・休日労働」とは何か
  • 通常の時間外・休日労働との違い
  • 36協定が不要となる代わりに必要となる、労働基準監督署の許可・届出のルール
  • 上限規制・割増賃金・年少者・妊産婦への適用など、実務で誤解しやすいポイント

なお、会社の都合で行わせる時間外・休日労働については、以下の記事で解説しています。この記事では、通常の時間外・休日労働との比較で説明する箇所も多いので、よろしければこちら内容もご確認ください

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目次

「緊急災害時等の時間外・休日労働」とは

「緊急災害時等の時間外・休日労働」とは、その名の通り、緊急災害時等が起こった場合に、会社は労働者に対し時間外労働や休日労働を行わせることができるというものです。

この「緊急災害時等の時間外・休日労働」は、会社の業務の都合により行わせる時間外労働や休日労働とは区別され、以下で述べるように様々な違いがあります。

法令から見た「緊急災害時等の時間外・休日労働」のポイント

36協定は不要。ただし、事前に労働基準監督署の許可が必要

「緊急災害時等の時間外・休日労働」を行わせる場合、会社の業務の都合により時間外労働や休日労働を行わせる場合と違い、36協定は不要です。

その代わり、時間外労働や休日労働を行わる前に、労働基準監督署の許可を得なければなりません。

なお、事前に許可を得るための時間がないなど、やむを得ない事情により事前に得ることができない場合は、事後、遅滞なく届け出る必要があります。

「緊急災害時の時間外および休日労働」の時間は、時間外労働の上限規制の対象外

労働基準監督署の許可を受けた「緊急災害時の時間外および休日労働」は、時間外労働の上限規制の対象とはなりません。

一方、労働基準監督署の許可がない場合、その労働が実際に「緊急災害」を理由とするものであっても、上限規制の対象となる通常の労働時間となります。

「緊急災害時の時間外および休日労働」であっても割増賃金の適用はある

時間外労働の上限規制の対象外の時間であることから勘違いしがちですが、「緊急災害時の時間外および休日労働」であってもそれが法定時間外や法定休日に行われる場合、割増賃金の適用はあります。

18歳未満の年少者に行わせることも可能

18歳未満の年少者については会社の業務の都合による時間外・休日労働を行わせることはできません。

しかし、緊急災害時等の時間外・休日労働については18歳未満の年少者であっても行わせることができます。

その一方で、妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過していない女性)からの請求がある場合は、会社都合の時間外労働や休日労働と同じく、例え、緊急災害時等の時間外・休日労働であっても行わせることはできません。

「緊急災害時等」の範囲

労働基準法33条1項における緊急災害時等とはどういったものを指すかというと「災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合」がこれに当たります。

よって、以下のように、地震や津波といった天災の他、突発的な機械の故障や設備の不具合への対処などもこれに当たります。

災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準

(1)単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと。
(2)地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること。例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコール対応は含まれること。
(3)事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれること。
(4)上記(2)及び(3)の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認めること。

上記許可基準の解釈に当たっての留意点

1 新許可基準による許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれること。具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれること。

2 新許可基準(2)の「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合が該当すること。具体的には、例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことにより通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行うこととした契約等に基づき除雪作業を行う場合や、人命への危険がある場合に住宅等の除雪を行う場合のほか、降雪により交通等の社会生活への重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合も含まれるものであること。

3 新許可基準(2)の「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれること。

4 新許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合」となることもあり得ること。例えば、新許可基準(4)においては、「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について規定しているところであるが、これは、国や地方公共団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため、例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者へ物資を緊急輸送する業務は対象となるものであること。

出典:災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準

就業規則への記載方法

緊急災害時等の時間外・休日労働の規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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この記事を書いた人

社会保険労務士川嶋事務所の代表。
「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。
就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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