1年単位の変形労働時間制は、導入そのものよりも「残業代の計算」でミスや勘違いをしてしまうケースが少なくありません。
加えて、変形期間の途中での入退社や、うるう年の扱いなど、実務上の注意点も多い制度です。
この記事では、1年単位の変形労働時間制における残業代計算の基本ルールから、途中入社・退社時の精算方法、うるう年の影響、残業単価の考え方まで、実務で迷いやすいポイントを整理して解説します。
- 1年単位の変形労働時間制における残業代計算の基本的な流れ
- 変形期間の途中入社・退社があった場合の精算方法
- うるう年が残業単価や総労働時間に与える影響
- 月平均所定労働時間数と残業単価の関係
1年単位の変形労働時間制の残業代計算方法
1年単位の変形労働時間制の残業代については、1日、1週、対象期間の順に時間外労働した時間数を見て、計算をしていきます。
1日の法定時間外労働
労使協定で、1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間。
例えば、1日10時間の労働日は10時間を超えた時間から、1日6時間の労働日の日は8時間を超えた時間から時間外手当が発生します。
1週の法定時間外労働
労使協定で、1週40時間を超える時間定めた週はその時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(1日単位で時間外労働となった時間を除く)。
例えば、土曜日が出勤日で1週48時間の週は48時間を超えた時間から、祝日などで32時間しかない週は40時間を超えた時間から時間外労働手当が発生します。
対象期間の法定労働時間外労働
労使協定で定めた対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の歴日数÷7日)を超えて労働した時間。(1日単位または1週単位で時間外労働となる時間を除く)。
例えば、対象期間が1年の場合(うるう年を除く)法定労働時間の総枠は約2085時間となります。
よって、1日、1週以外で2085時間を超えた時間から、時間外手当が発生します。
1年単位の変形労働時間制の期間の途中で新入社員が入ってきた場合の精算
1年単位の変形労働時間制の場合、入社時期によって不公平が発生します。
例えば、4月から9月は比較的暇だけど、10月から翌年の3月まではかなり忙しい、という事業所があったとします。
そして、その事業所は4月1日を起算日とした1年単位の変形労働時間制を利用して、閑散期は労動時間少なめに、繁忙期は労働時間が多めになるよう変形させています。
このような事業所に新入社員が10月に入社した場合、入社した10月から翌年の3月までずっと繁忙期の中で働くことになってしまいます。
不公平の解消のため、時間外手当の精算が必要
上記の例の新入社員の場合、閑散期に業務を行っていないこともあり、入社した10月から翌年の3月までの期間の週の労働時間を平均すると40時間を超えることが考えられます。
これは期間の途中で会社を辞める従業員も同じことが起こり得ます。繁忙期だけ働いて閑散期に働かずに会社を辞めると、対象期間単位で見ると週平均40時間を超えている場合があるわけです。
このような対象期間中の入退社に関して、会社は週平均40時間を超えている分について、時間外手当等を支払い精算しないといけません。
例えば、変形期間の途中で入社した労働者の週平均の所定労働時間が42時間あった場合、この2時間分を時間外手当として支払う必要があるわけです。
1年単位の変形労働時間制における時間外手当の精算の具体例
具体的な計算方法は以下のとおりです。
精算の際に割増賃金を支払う時間=実労働期間における実労働時間-実労働時間における総労働時間の総枠ー実労働期間における1日8時間(※)及び1週40時間(※)を超える時間外労働
※ 1日8時間、1週40時間を超える時間が定められている日、週においてはその時間
具体例
- 変形期間:4月~翌年の3月まで
- 退職日:11月30日(入社日は4月1日以前)
- 実労働時間:1410時間
- 法定労働時間の総枠=244日÷7日×40時間≒1394.2時間
精算の際に割増賃金を支払う時間=1410時間-1394.2時間=15.8時間
なお、こちらは、過去にさかのぼって時間外手当の計算をやり直すわけではなく、足りない分の時間外手当を後で支払う仕組みになっている点にご注意ください。
うるう年と1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制の時間外手当を計算する場合、うるう年にも注意する必要があります。
なぜなら、うるう年の場合、総労働時間の枠が増えるからです。
1年単位の変形労働時間制の総労働時間の枠が増える
1年単位の変形労働時間制の場合、総労働時間の総枠は以下の計算式のように、歴日数で見ます。
40時間(週の法定労働時間)×変形期間の歴日数÷7
よって、うるう年でない通常の年は「40×365÷7≒2085(時間)」が、1年の総労働時間となります。労働時間を変形させる場合はこの2085時間の枠に収まるよう変形ささせる必要があります。
一方のうるう年の場合、歴日数が1日増えるため、「40×366÷7≒2091(時間)」となり総労働時間の総枠が6時間増えます。
1日増えた分を労働日とするか休日とするかで残業単価が変わってくる可能性
これは1年単位の変形労働時間制に限りませんが、うるう年に合わせてその年の所定労働時間の総労働時間を増やす場合、残業単価が変わってきます。
例えば、うるう年とそうでない年で労働日数を1日増やす場合がこれにあたります。
逆に、増えた分の日数を休日に当てる場合は、残業単価のことを考える必要はありません。
残業単価の計算
残業単価とは、割増賃金を計算するために、日給制や月給制の給与(割増賃金に含めない給与を除く)を時給に直したものをいいます。
そのため、月給制の場合、残業単価を計算するには、1か月の給与を月の所定労働時間で割る必要があるのですが、ただ、月の所定労働時間は、曜日や休日の関係で月ごとにバラつきがあるのが普通です。
そこで、給与計算においては毎月の所定労働時間の平均、すなわち月平均所定労働時間数を用いて、残業単価を算定します。
この月平均所定労働時間数は「年間平均の 1 カ月あたりの所定労働時間数」で求められ、例えば、年間の所定労働時間の総労働時間数が2076時間の場合、「2076÷12=173(時間)」が、月平均所定労働時間数となります。
うるう年は年間の総労働時間が増える一方で単価も減る
うるう年に労働日数を増やす場合、当然、月平均所定労働時間が変わってくるため残業単価も変わってきます。
ただ、変わるといっても月平均所定労働時間数の増加は残業単価計算の分母の増加となるため、結果、給与や労働時間の条件が同じなら残業単価は下がります。
そのため、うるう年以外の基準でうるう年も時間外手当を支払っている場合、(賃金計算の正確さはともかく)賃金未払いの心配はまずありません(本来支払うべき額よりも多く支払っていることになるため)。
一方、うるう年はうるう年で残業単価をきちんと調整する(変更する)という会社は、うるう年とうるう年以外で残業単価の計算を間違えないよう気をつけないといけません。
労働日数
1年単位の変形労働時間制では、1年あたりの所定労働日数の限度を280日と定めています。
うるう年の場合もこの定めに変更はないので、1日の所定労働時間が短めだけど、多くの日数働かせる、という労働条件の会社は注意が必要です。
その他、1年単位の変形労働時間制について
1年単位の変形労働時間制導入のメリット・デメリットについては、以下の記事で解説しています。

また、1年単位の変形労働時間制入にあたって流れや手続きについてはこちらの記事をどうぞ。

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