年次有給休暇とはー付与・取得の基本から年5日取得義務まで社労士が解説

年次有給休暇は、どこの会社でも当たり前に運用されている制度である一方、出勤率8割の考え方や付与日数、年5日の取得義務など、法律上のルールは意外と複雑です。

この年次有給休暇ですが、「会社が休暇を「付与」し、労働者がそれを「取得」する」という、2つの視点で整理すると、制度の全体像が見えやすくなります。

本記事では、年次有給休暇の基本的なルールを「付与」と「取得」に分けて解説します。

この記事でわかること
  • 年次有給休暇とはどのような制度なのか(制度の全体像)
  • 年次有給休暇の「付与」に関する基本ルール(勤続年数・出勤率・付与日数・時効)
  • 年次有給休暇の「取得」に関する基本ルール(時季指定権・時季変更権・取得単位)
  • 会社が必ず対応しなければならない「年5日取得義務」の考え方
目次

「年次有給休暇」とは

年次有給休暇とは

年次有給休暇とは、その名称の通り「有給」で休むことができる休暇です。

本来、賃金の原則はノーワーク・ノーペイですが、労働者が年次有給休暇を取得する場合、賃金が減額されることなく休暇を取ることが可能です。

年次有給休暇の付与と取得

年次有給休暇には法律上の様々な決まり事があります。そのため、制度全体で見ると非常に複雑な制度のように思えます。

しかし、実のところ、年次有給休暇というのは、会社が労働者に年次有給休暇を「付与」して、それを労働者が「取得(使う)」するだけのシンプルな制度です。

ただ、この「付与」と「取得」に関して様々なルールがあるので複雑に見えるわけです。

勤続年数に応じた付与日数や出勤率、年5日の取得義務などがそれです。

年次有給休暇について難しい、と感じた場合は、まずそれが「付与」に関することなのか、「取得」に関することなのかに立ち戻ってみると良いでしょう。

年次有給休暇の「付与」に関わるルール

年次有給休暇の「付与」と「取得」のうち、「付与」については、以下のようなルールがあります。

  • 一定の条件を満たす労働者に対して、会社は必ず年次有給休暇を付与しなければならない(付与の条件)
  • 年次有給休暇は、法律で定められた日数以上を必ずしなければならない(付与日数)
  • 付与した年次有給休暇には時効がある(時効)

付与の条件(勤続年数と出勤率)

会社は勤続年数が6か月を超えるものに対して、年次有給休暇を付与しなければなりません。

また、最初の6か月以降は、勤続年数が1年経過するごとに年次有給休暇を付与する必要があります。

一方で、勤続年数の条件を満たす労働者であっても、付与日の直前1年間(初回の付与については6か月間)における所定労働日の出勤率が8割以上ないものに対しては、年次有給休暇を付与する必要はありません。

ただし、出勤率8割以上という要件を満たさない労働者への付与が禁止されているわけではないので、会社の裁量で付与すること自体は可能です。

出勤率については、以下の記事で詳しく解説しています。

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付与日数と付与日

付与日数は勤続年数に応じて、以下のように変化します。

勤続年数6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か6年6か月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

入社から6か月が経過した日、とは

最初の年次有給休暇が付与されるのは、入社から6か月が経過した日となります。

この6か月が経過した日というのは、入社からちょうど6か月が経った日ではなく、入社からちょうど6か月となる日の翌日が付与日となります。

つまり、例えば、4月1日入社の人の場合、入社からちょうど6か月となる9月30日ではなく、その翌日となる10月1日が付与日となるので間違えないように気をつけましょう。

なお、所定労働日数が通常の労働者よりも少ない者については、所定労働日数に応じた比例付与が認められています。

付与日を統一する場合(斉一的付与)

年次有給休暇の付与日の原則は上記の通りで、これよりも遅くすることはできません。

逆にいうと、原則の付与日よりも早く年次有給休暇を取得させることは問題ありません。

そのため、労働者の年次有給休暇の付与日を統一する場合(斉一的付与)、必ず原則の付与日よりも早く付与日が来るよう制度設計する必要があります。

斉一的付与の場合の規定例については、以下の記事で紹介しています。

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年次有給休暇の時効

労働者に付与した年次有給休暇は、付与日から2年を超えても取得がなされない場合、取得の権利が消滅します。

年次有給休暇の「取得」に関わるルール

次に年次有給休暇の取得に関するルールですが、こちらも、大きく分けると以下のようになります。

  • 年次有給休暇の取得タイミング(時季指定権と時季変更権)
  • 年次有給休暇を取得しないといけない日数
  • 取得時の年次有給休暇の単位
  • 年次有給休暇取得時の賃金額

時季指定権と時季変更権

年次有給休暇は労働者から取得の申し出請求があったら絶対に取らせないといけない、とよく言われますが、必ずしもそうではありません。

確かに、会社には労働者の年次有給休暇の取得請求を拒否する権利はありません。

しかし、労働者には年次有給休暇の取得時季を指定する「時季指定権」がある一方、会社には「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、年次有給休暇の時季指定を変更してもらう「時季変更権」があるからです。

こうした時季指定権と時季変更権を就業規則で明示しておくことは、労使間の争いを未然に防ぐことに繋がります。

時季変更権が行使可能な「事業の正常な運営を妨げる場合」とは

とはいえ、時季変更権を行使することは簡単ではありません。

上記の「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、単に仕事が忙しい、あるいはその人が抜けると仕事が成り立たないというだけでは足りないからです。

どうして足りないかといえば、単に仕事が忙しい、というだけだと「そのような状況にしている会社が悪い」と判断されてしまうからです。

また、特定の人が抜けると成り立たない、というのも、結局、その人頼みになってる状況を改善しなさい、と判断される可能性があります。

そのため、時季変更権の行使できるような「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、年休取得者が殺到し代替要員の確保が難しいなど場合に限られます。

相談ベースでの取得日の変更は自由

なお、実際に、上記の時季変更権によって取得の時季を変更する場合、書面でこれを命令したり、代わりに「○月○日」に取得してほしい、などと特定の日を指定することまでは求められていません。

そのため、実務上は「ちょっとこの日はやめてほしいんだけど・・・」といった相談ベースで、年次有給休暇の取得時季を決めることが多いかと思います。

こうした、命令ではなく相談や話合いベースで、お互いに同意の下、取得日を融通すること自体は法律上禁止はされていません。

もちろん、話合いが破談になった場合に、年休を取らせないなどの不利益な取扱いをすることはできません。

年次有給休暇を取得しないといけない日数

労働者が取得できる年次有給休暇の日数の限界は、当然、会社から付与された日数となります。

この付与された日数をどう使うかは、基本的に労働者の自由ですが、一方で、会社には労働者に対して最低、年次有給休暇を年5日取得させないといけない、という義務があります。

この年5日の取得義務については、以下の記事で詳しく解説しています。

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年次有給休暇の取得単位

年次有給休暇の取得単位は原則1日となります。

半日単位での取得や、時間単位での取得も可能です。

半日単位、時間単位での年次有給休暇の取得については、以下の記事で詳しく解説しています。

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年次有給休暇取得時の賃金

有給、なので、年次有給休暇取得時は当然、会社は労働者に対してその日の賃金をし腹割らなければなりません。

労働基準法上認められている、年次有給休暇取得時の賃金の計算方法は、以下の3つです。

  1. 平均賃金
  2. 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
  3. 標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1)

ただし、ほとんどの会社では「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」としています。

平均賃金をいちいち計算するのは正直面倒ですし、標準報酬日額で支払う場合、労使協定の締結が必要だからです。

よって、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」以外を選択している会社は少数かと思いますが、そのように支給している場合は規定も実態に沿う必要があります。

その他、年次有給休暇に関するルール

年次有給休暇の買上は原則禁止

年次有給休暇の買上とは、年次有給休暇を取得させる代わりに、その分の賃金の支払って、年次有給休暇を取得させたことにすることをいいます。

この年次有給休暇の買上については、法律で禁止されています。

ただし、例外的に可能となる場面もあり、そちらについては以下の記事で解説しています。

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就業規則への記載方法

年次有給休暇については就業規則への定めが必須です。しかも、年次有給休暇の場合、注意すべき点が多岐にわたるため就業規則への記載も、必然的に複雑となります。

年次有給休暇の規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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こちらの制度は、就業規則にどう定めるかでリスクが変わります。

制度理解だけでなく、自社に合った条文設計や運用まで落とし込むことが重要です。

「不安がある」「何していいかわからない」という方はぜひこちらを!

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