監督署の臨検調査

下請けイジメが労働条件悪化の原因?労働基準監督署と公正取引委員会がタッグを組むそうです

2016年6月8日

公正取引委員会

6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」にて、

「長時間労働の背景として、親事業者の下請代金法・独占禁止法違反が疑われる場合に、中小企業庁や公正取引委員会に通報する制度を構築し、下請などの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する」

とされました。

つまり、内閣は長時間労働の背景の1つには「大企業の下請けいじめがある」と言っているわけです。

確かに、名古屋で仕事なんかしていると、中小企業さんのとある世界一の会社さんの愚痴は、わたしなんかの末端社労士にも聞こえてきますし、それ以外にもテレビ局と制作会社の関係は有名です。このあいだ鴻海に買収されたシャープなんかも結構ひどかったらしいです。

で、この下請けイジメの対応と労働者の労働条件の改善の両方を達成すべく、監督署と公正取引委員会はタッグを組んで、下請けの労働条件の悪さが、大企業による下請けイジメに原因がある場合は、監督署が公正取引委員会と経済産業省に通報し、公正取引委員会と経済産業省が動くようになるらしいのです。

 

監督署が公正取引委員会に通報する条件

もちろん、中小企業の労働条件の悪さを何でもかんでも大企業のせいにする、という話ではありません。

具体的には以下の条件をどちらも満たしたときに、労働基準監督署は公正取引委員会等に通報するらしいです。

  1. 監督署の調査で労働基準法第23条、第24条、第32条、第35条、第37条または最低賃金法第4条違反が認められる(軽微な法違反を除く)。
  2. その違反の背景が大企業による下請法第4条違反、またはは特定荷主による物流特殊指定に該当する独占禁止法19条

 

労働基準法&最低賃金法

条文名だけ見ても、ちんぷんかんぷんですが、1つ1つ見ていきましょう。

まず、1の労働基準法と最低賃金法の方ですが、23条と24条が主に賃金、32条、35条、37条は労働時間と休日に関わる部分です。そして、最低賃金法第4条というのは、国が定める最低賃金以上を払えという条文です。

つまり、下請け会社が未払賃金や時間外労働等の違反がある場合や会社が最低賃金に満たない額しか支払ってない場合、というのが1つ目の条件です。

 

下請法&独占禁止法

次に2の方。

下請法第4条について、公正取引委員会のページから、表をそのまま引用させていただきます。

禁止事項 概要
受領拒否(第1項第1号) 注文した物品等の受領を拒むこと。
下請代金の支払遅延(第1項第2号) 下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。
下請代金の減額(第1項第3号) あらかじめ定めた下請代金を減額すること。
返品(第1項第4号) 受け取った物を返品すること。
買いたたき(第1項第5号) 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
購入・利用強制(第1項第6号) 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。
報復措置(第1項第7号) 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
有償支給原材料等の対価の早期決済(第2項第1号) 有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
割引困難な手形の交付(第2項第2号) 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
不当な経済上の利益の提供要請(第2項第3号) 下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第2項第4号) 費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること。

 

もう一つの「特定荷主による物流特殊指定に該当する独占禁止法19条」の方ですが「特定荷主」とは以下のページの条件を満たす会社のことで、

省エネ法における荷主に係る措置について

独占禁止法19条は「不公正な取引方法の禁止」というもの。

いずれにせよ、下請法第4条か、特定荷主による独禁法19条違反がある場合、というのがもう一つの条件となるわけです。

 

公正取引委員会が動けばマスコミも動く

まとめると

  1. 監督署の調査で労働基準法第23条、第24条、第32条、第35条、第37条または最低賃金法第4条違反が認められる(軽微な法違反を除く)。→未払賃金や長時間労働、最低賃金の違反
  2. その違反の背景が大企業による下請法第4条違反、またはは特定荷主による物流特殊指定に該当する独占禁止法19条→下請けイジメ

上の2つ、両方の条件に当てはまる場合に、監督署は公正取引委員会に通報するわけです。

 

おそらく今回の措置でより大きな影響を受けるのは、下請け側ではなく、仕事を発注する大企業の方でしょう。

下請けである中小企業が受ける調査内容というのは、未払賃金や労働時間のことなど別に今までと変わりません。

一方で、それらの違反が大企業の下請けイジメが関連している、と監督署の調査を受けた会社が労働基準監督官なんかに漏らした場合、それが公正取引委員会に通報されて、立入検査に入られる可能性があるわけです。

なので、下請けを多く使う大手企業なんかは下請法第4条についてはかなり気をつけておかないといけなさそうです。

公正取引委員会が動くとマスコミも動きますからね。

公正取引委員会が動くとマスコミが動くというか、公正取引委員会が入る件って、ほぼほぼ大企業が関わっているので、マスコミが報道しやすいだけなんですが。

 

参考:中小企業における労働条件の確保・改善に関する公正取引委員会・経済産業省との通報制度等について

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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