年次有給休暇の年5日取得義務とはーダブルトラック等の注意点を解説

年次有給休暇の「年5日取得義務」は、会社が労働者に対して、毎年最低5日は年次有給休暇を取得させなければならない制度です。

一見シンプルな制度に見えますが、実務では「誰が対象になるのか」「半日年休や時間単位年休は含まれるのか」「前倒し付与や一斉付与をしている場合はどう考えるのか」といった点で判断に迷ったり勘違いしているケースも少なくありません。

本記事では、年5日取得義務の基本的な考え方から、対象労働者、取得期間、例外的なケースの扱い、違反した場合の罰則など、実務に必要なポイントを整理して解説します。

この記事でわかること
  • 年次有給休暇の「年5日取得義務」の基本的な考え方と制度の全体像
  • 年5日の取得義務が 誰に・いつから・どの期間で 発生するのか
  • 半日年休・時間単位年休・繰越分が年5日に 含まれる/含まれない ケース
  • 前倒し付与・分割付与・ダブルトラックがある場合の実務上の考え方
目次

年次有給休暇の年5日取得義務とは

年次有給休暇の年5日取得義務とは、会社は労働者に対して、1年間で最低5日は年次有給休暇を、実際に取得させないといけないとする制度です。

労働者が自主的に5日以上取得してくれる場合、会社としては特にすることはありませんが、事情により年5日に満たない可能性がある場合は、会社がこれを取得させないといけません。

年次有給休暇の年5日取得義務に関する法制度上のポイント

年5日の取得させる必要のある対象労働者

年次有給休暇の年5日の取得義務を負うのは会社です。

会社は対象となる労働者に対して、年次有給休暇を年5日、必ず取得させなければなりません。

年5日取得させる必要があるのは、一度の年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者です。

なので、今年度の有給の付与日数は10日未満だけど、前年度の繰り越し分と合わせて10日を超える、という場合は対象となりません。

年5日に含めるもの・含めないもの

労働者が自主的に取得した分

労働者が自主的に取得したものであっても、会社が主体的に取得させたものであっても、年5日取得義務の年次有給休暇の日数に数えます。

なので、年に5日以上、年次有給休暇を取得するのが当たり前の会社では、こちらの義務について、特にすることはありません。

繰り越し分の扱い

前年度からの繰り越された年次有給休暇がある場合、繰り越し分から取得したとしても「年5日」に数えることができます。

なので、例えば、今年度の付与分が18日、前年度からの繰越し分が7日ある労働者の場合、前年度の7日をすべて消化してさらに5日取得しないといけない、ということはないわけです。

半日年休の扱い

半日年休については、意見聴取の際に労働者が希望する場合、会社が半日取得を許可することできます。

逆に、使用者の方から「半日単位で取得しろ」と言うことはできません。

この場合、年5日のうちの「0.5日」と数えることができます。

時間単位年休

時間単位年休については、取得時間が1日の所定労働時間に達したとしても「年5日」の中には数えません。

1日の所定労働時間が8時間の会社で、1時間の時間単位年休を8回取ったとしても「1日」という扱いにはならないわけです。

取得の期間

年次有給休暇が付与された日(基準日)から1年以内に取得させる必要があります。

なお、早期付与や斉一的付与などにより、付与日と付与日の間が1年未満となると、取得期間の1年が重複してしまいます。これをダブルトラックといいますが、こうした場合の取扱いについては次の項目の通りです。

前倒し付与や分割付与、ダブルトラック等が発生する場合の年5日の取得義務の扱い

付与日を前倒しする場合

有給の付与を6か月より前に前倒しする場合、前倒しで付与された日が基準日となります。

そして、そこから1年以内に5日以上の取得をする必要があります。

なので、例えば、4月1日入社の場合、前倒しをしない場合の最初の年次有給休暇の付与日は6か月後の10月1日で、以降は1年ごとに10月1日に年次有給休暇が付与されるため、この10月1日が基準日となります。

しかし、基準日を前倒しして入社日の4月1日に最初の付与を行う場合、この4月1日が基準日となるので、4月1日から1年のあいだに年次有給休暇を5日取得させる必要があります。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

付与日と付与日の1年未満となり期間の重複がある場合(ダブルトラックが発生する場合)

年次有給休暇の制度によっては、付与日と付与日のあいだが1年未満となる場合があります。

例えば、4月1日入社の労働者に対し1年目は法定通り10月1日に年次有給休暇を付与したものの、次年度からは規則変更により労働者全員を対象に、年次有給休暇を翌4月1日に一斉付与することになった場合です。

この場合、10月1日からの1年間と翌4月1日からの1年間の2つの年次有給休暇を5日取得期間が混在し、翌4月1日から9月30日までは期間が重なってしまいます。

これが期間の重複「ダブルトラック」が発生している状態です。

こうした場合、10月1日からの1年間と翌4月1日からの1年間のそれぞれで5日取得(つまり1年半の期間で10日取得)させてももちろん問題はありません。

一方で改正後の省令では「ダブルトラックの期間の月数を12で割った数に5をかけた日数」の取得でも足りるとしています。

つまり、上の例の場合、10月1日から翌々年の3月31日までの1年6か月を一つの期間と考え、そのあいだに「18÷12×5=7.5日」取得させれば足りるということです。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

なお、この場合の0.5日は、労働者が希望する場合は半日取得でも問題ありません。

一方で、労働者の希望がない場合は0.5日を1日に切り上げる必要があります。

③ 特例後の基準日

上で見た①や②の期間後の基準日については、①の場合は前倒しで与えた日(例では4月1日)から1年後を「みなし基準日」とするとしてます。

②についてもダブルトラックの後半の基準日(つまり、②の例では10月1日ではなく翌4月1日)から1年後を「みなし基準日」とします。

①の場合

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

②の場合

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

④ 年休を前倒しで分割付与する場合

入社間もない社員でも年次有給休暇が使えるよう、会社によっては、年次有給休暇の一部を前倒しで付与する場合があります。

例えば4月1日入社した労働者に対し、入社と同時に5日を付与、さらにその3か月後の7月1日に残りの5日を付与するといった方法です。

この場合、基準日は合計10日の付与が行われた日となります。

今回の例では7月1日が基準日となるので、法的義務を果たす上では、7月1日から1年間のあいだに5日以上の取得があれば問題ないことになります。

ただ、この場合、入社日に5日分を付与されているため、基準日の7月1日より前となる4月1日から6月30日のあいだに労働者がすでに何日か年次有給休暇を取得している可能性があります。

このように前倒しで分割付与する場合で基準日よりも前に年次有給休暇を何日か紹介している場合、その分も法定の5日分の一部を消化していると考えます。

例えば、今回の例でみると、7月1日より前にすでに3日年次有給休暇を取得しているという場合、7月1日からの1年間については、5日から3日を引いた2日を取得させれば、法的義務は果たすことになります。

出典:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について(案)(リンク先PDF 出典:厚生労働省)

罰則

本制度の対象となる労働者に年5日の取得をさせていない場合、会社には罰則があります。

罰則の内容は「30万円以下の罰金」です。

これは年5日の取得義務が果たせていない人、一人当たりの額なので、場合によってはとても大きな罰則となる可能性を秘めています。

就業規則への記載方法

年次有給休暇の年5日取得義務に関する規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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この記事を書いた人

社会保険労務士川嶋事務所の代表。
「会社の成長にとって、社員の幸せが正義」をモットーに、就業規則で会社の土台を作り、人事制度で会社を元気にしていく、社労士兼コンサルタント。
就業規則作成のスペシャリストとして豊富な人事労務の経験を持つ一方、共著・改訂版含めて7冊の著書、新聞や専門誌などでの寄稿実績100件以上あり。

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