定年とはー定年年齢の下限や高年齢者雇用確保措置などを社労士が解説

定年は解雇が難しい日本の雇用環境において、唯一、会社から労働者に会社を辞めてもらうことのできる制度です。

一方で、法律上、注意すべき点も多い制度な上に、退職に関わることなので、会社が誤った対応をすると揉めやすい制度でもあります。

そのため、この記事では定年と法令の関係について詳しく見ていきます。

この記事でわかること
  • 定年制度がどの労働者に適用され、どのような法令規制を受けるか
  • 定年年齢(60歳・65歳・70歳)に関する法律上のルールと誤解されやすいポイント
  • 高年齢者雇用確保措置・就業確保措置の内容と会社に求められる対応
  • 定年後の再雇用時に労働条件を変更する際の注意点(同一労働同一賃金)
目次

定年とは

定年とは、一般には定年退職のことを指します

そして、定年退職とは、一定の年齢に達した労働者を自動的に退職とする措置のことを言います。

なお、定年という言葉自体は、一定の年齢に達した際に何かしらの措置を行うことを指す言葉なので、例えば、役職定年(※)など別の措置に使われることもあります。

※ 一定の年齢に達した際に役職を外す制度

定年と法令との関係

無期雇用労働者にのみ適用

定年退職は無期雇用の労働者にのみ適用されるものです。

よくある勘違いとして、有期雇用労働者にも定年は適用されるというのがあります。

しかし、有期雇用労働者については、契約で定められた契約期間が優先されるため、定年は適用されません。

ただし、有期雇用労働者の契約更新を一定の年齢を限度とすることは可能で、この場合、定年の定めとは別に、有期雇用労働者の契約更新上限年齢を就業規則等に定めておく必要があります。

定年を定める場合は60歳を下回る年齢を設定することはできない

定年退職制度を定める場合、企業は60歳を下回る定年年齢を定めることはできません。

これは高年齢者雇用安定法にて定められているものです。

そのため、例えば、定年退職の年齢を55歳とすることは法違反となります。

定年を設けること自体は義務ではない

一方で、定年制度を定めることは、法律上の義務ではありません。

そのため、定年退職という制度そのものを設けないということは可能です。

65歳までの高年齢者雇用確保措置の義務

また、高年齢者雇用安定法では、高年齢者の雇用を確保するため、定年の引上げや廃止を含む以下のいずれかの措置を実施する義務を課しています(高年齢者雇用確保措置)。

  1. 65歳以上まで定年の引上げ
  2. 希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
  3. 当該定年の定めの廃止

継続雇用制度とは

上記の措置のうち「65歳以上まで定年の引上げ」「当該定年の定めの廃止」については、言葉の通りなので問題ないと思います。

一方で、2の「継続雇用制度」とは、定年後も継続して雇用することをいいますが、この継続雇用には大きく分けて2つあります。

一つは定年年齢に達した際に、一度退職扱いとした上で再雇用するもの(再雇用制度)

もう一つは定年年齢に達した際に退職扱いとせずに継続して雇用するものです(勤務延長制度)

一度退職扱いとする再雇用制度の場合、定年で一旦契約が終わる形となるので、再雇用の際に労働契約の内容を見直すのが普通です。

一方、退職扱いとしない勤務延長制度の場合、定年前の契約がそのまま続く形となるので、契約内容は定年前と同じになります。

絶対に65歳まで雇用しなければならない、わけではない

上記の措置が会社に義務づけられていることを指して「会社は65歳まで労働者を雇用しなければならない」と言われることがありますが、厳密にはそうではありません。

例えば、一度退職扱いとする継続雇用の際、定年後に結ぶ新たな契約内容が労使間で同意が得られなかった場合でも、労働者が希望する場合、会社がなにがなんでも65歳まで雇用しないといけないかといえばそんなことはないわけです。

法律が義務づけているのは、あくまで「継続雇用制度の導入」の措置を実施するところまでです。

なので、契約が合意に至らない場合まで、65歳まで必ず契約しなければならない、ということはないわけです。

70歳までの高年齢就業確保措置の努力義務

上記の高年齢者雇用確保措置に加え、令和2年の改正法施行により、会社には70歳までの高年齢者の就業を確保する措置の実施が努力義務として課せられています(高年齢者就業確保措置)。

  1. 当該定年の引上げ(70歳以上)
  2. 65歳以上継続雇用制度の導入(70歳以上)
  3. 当該定年の定めの廃止
  4. 創業支援等措置

上記のうち1.、2.、4.については高年齢者の70歳までの雇用または就業を確保するものである必要があります。

また、2.の65歳以上継続雇用制度については、65歳以降もその会社で継続雇用する制度以外に、65歳以降の高年齢者を、特殊関係事業主(グループ会社の事業主)以外の他の事業主が引き続いて雇用する制度も認められます。

4.の創業支援等措置とは、雇用という形ではなく、フリーランス化もしくは起業した高年齢者と委託契約等を結んだり、会社もしくはその他法人が実施する社会貢献事業に参加させたりことで、当該高年齢者の就業を確保する措置をいいます。

いずれにせよ、現行法ではあくまで努力措置ですので、会社のキャパシティでできる範囲での対応で問題ありません。

定年を機に労働条件を変更する場合

日本の雇用慣行では、定年を機に賃金を引き下げたり、役職を外すなどの労働条件の変更が行われるのが一般的です。

こちらについては「定年→再雇用」で労働契約が一旦リセットされているため、労働条件の不利益変更のリスクこそないものの、定年後再雇用者が有期雇用労働者や短時間労働者となる場合、同一労働同一賃金の対象となるため、その点は考慮する必要があります。

就業規則への記載方法

定年については、就業規則への記載が必須となります。この定年の規定例については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしていたければと思います。

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