退職していく労働者に対して、会社からすると思うところはいろいろあると思います。
一方で、そうした感情的話とは別に、退職時については、法的に守らないといけないことも少なくありません。
この記事では、退職の種類や退職時の法的な手続き等についてみていきます。
- 退職とは何か、合意退職・辞職・自然退職・解雇・定年などの違い
- 民法・労働基準法から見た退職時の基本ルールと会社側の注意点
- 退職時の証明書交付や金品返還など、会社が守るべき法的義務
退職とは
退職の種類
退職とは、会社と労働者のあいだで締結されている契約を終了することです。
ただ、一口に退職と言っても、以下のように様々な種類があります。
合意退職
合意退職とは、会社と労働者がお互い合意の上で、退職することをいいます。
実務上は、労働者側から退職の意思表示をし、会社側がそれに同意するのが普通です。
辞職
辞職とは労働者側の一方的な意思表示により、労働者が退職することをいいます。
合意退職と違い、労働者側から退職の意思表示があったにもかかわらず、会社がこれに同意しなかった場合や、会社の合意の有無を問わない形で労働者側が退職を申し出た場合がこれに当たります。
自然退職(当然退職)
自然退職(当然退職)とは、一定の事由が発生すると、会社もしくは労働者からの退職の意思表示がなくても、当然に労働契約が終了するものをいいます。
例えば、その労働者が死亡したときや役員に就任したときがこれに当たります。
一方で、休職期間が満了した場合や労働者が行方不明になったことを理由に自然退職とするには、就業規則にそうした定めが必要です。
契約期間満了
期間の定めのある労働契約を結ぶ労働者の契約期間が満了し、これを更新せず、退職する場合をいいます。
解雇
会社からの一方的な意思表示により、労働契約を打ち切り、労働者を退職させることをいいます。
なお、解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇など、様々な種類があります。
定年退職
一定の年齢に達したことを理由に、労働契約を終了することをいいます。
日本では、高年齢者雇用安定法により、定年年齢を定める場合、60歳を下回る年齢を定めることはできません。
法令から見た「退職」のポイント
民法との関係
労働者の退職については、労使間で合意がある場合(合意退職)の場合については、特に法律上の定めはなく、いつ辞めるかなど自由に決めることができます。
しかし、労使間で合意がない場合、つまり、解雇(会社からの一方的な意思表示)や辞職(労働者からの一方的な意思表示)については話が変わってきます。
というのも、民法には、以下のような定めがあるからです。
民法第627条第1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
ここでいう、当事者とは会社と労働者、双方のことを指します。
これにより、労働者からの退職の意思表示は、仮に会社側がこれに同意しなかったとしても、解約申し入れの日から2週間を経過することで、労働契約は終了になります。
一方、会社については労働基準法(第19条・第20条)や労働契約法(第16条)による制約があるため、仮に解約の申し入れをしたとしても、その正当性が問われることになります。
退職時等の証明(労基法22条)
労働基準法では、退職時のトラブルの予防するため、あるいは労働者の再就職活動に必要な証明書の発行を会社に義務づけるため、労働基準法22条にて「退職時等の証明」という定めをしています。
退職時の証明
退職の場合において、労働者が在職中の契約内容等について証明書の交付を会社に請求したときは、遅滞なく、会社はこれを交付しなければなりません。
証明書に記入する主な内容は以下の通りですが、以下のものであっても、労働者の記入を望まない事項については、記入してはいけません。
- 使用期間
- 業務の種類
- 当該事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
解雇予告期間中の証明
解雇予告をされた労働者は、解雇の理由について、会社に対しその証明書の交付を請求することができます。
会社は労働者から請求があった場合、これを拒むことはできません。
なお、あくまで解雇予告期間中の証明のため、即日解雇の場合、この規定は適用されません(労働者が退職時の証明を請求することは可能)。
ブラックリストの禁止・秘密の記号の記入の禁止
労働基準法では、会社が第三者と謀って、労働者の就業を妨げるような通信をすることを禁止しています。
要するに、会社同士でブラックリストを作ってこれを共有(通信)することを禁止しているわけです。
とはいえ、労働者の情報のすべてを共有することを禁止しているわけではありません。
労働基準法で「会社が第三者と謀って、労働者の就業を妨げるような通信」することが禁止されている項目は以下のものに限定されます。
- 国籍
- 信条
- 社会的身分
- 労働組合運動
また、同様の理由で、退職証明書等に会社が「秘密の記号」を記入することも禁止されています。
会社間でしかわからない秘密の記号を退職証明書等に記入することで、その労働者の就業を阻害することを禁止しているわけです。
こちらについては秘密の記号を記入すること自体が禁止されているため、その内容は問いません。
金品の返還(労基法23条)
労働基準法第23条にて、会社は、従業員が退職したとき、権利者(※)の請求があった場合、7日以内に賃金を支払う他、労働者の権利に属する金品を返還しなければならないとされています。
ここでいう労働者の権利に属する金品とは積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問いません。
また、権利者が請求する賃金や金品に関して、見解の不一致等の何かしらの争いがある場合については、お互いに異議のない部分を、7日以内に支払う、又は返還しなければならないとされています。
ただし、退職金については規定に支払日や支払方法を定めておけば、必ずしも「7日以内」ではなくても良いとされています。
なお、この金品の返還については、会社のみが守るべきものであるため、労働者の守るべきことを定める就業規則に必ずしも記載する必要はありません。
※ ここでいう権利者とは一般債務者は含まれず、死亡以外の退職の場合は労働者本人、死亡による退職の場合は相続人が権利者となる(昭22.9.13発基17号)
就業規則への記載方法
退職事由や退職申出の期限、退職時の手続きなどは、労使双方が納得して契約を解消する上で非常に重要です。
また、退職については、労働契約書(労働条件通知書)や、就業規則への記載が必須となっています。
退職の規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。
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