人生において働くということはとても大切なことですが、それでも命や健康に代えられるものではありません。
そのため、法律では労働により労働者の命や健康が害されることがないよう法律で、会社に対し様々な義務を課しています。
会社が実施する「健康診断」もその1つですが、案外、法律上の義務と知らない人も多いのではないでしょうか。
この記事ではそんな健康診断に関する、法律や運用上の注意点について見ていきます。
- 会社に課せられる健康診断の実施義務と、労働者に課せられる健康診断の受診義務
- 健康診断の対象者や実施頻度
- 健康診断の法定の診断項目
- 健康診断後に会社が実施する必要のあること
法令から見た「健康診断」のポイント
健康診断を受けさせるのは会社の義務
労働安全衛生法により、会社には労働者に健康診断を受けさせる義務があります。
この健康診断は、原則、「雇入れの際」および「1年以内ごとに1回、定期に」実施しなければなりません。
なお、雇入れの際の健康診断については、雇入れ3カ月前までに、その労働者が前の会社や学校、あるいは自主的に健康診断を受けている場合、その結果を持って代えることも可能です。
健康診断を受けるのは労働者の義務
健康診断に関しては、会社がそれを受けさせる義務がある一方で、労働者にはこれを受診する義務があります。そのため、労働者側が拒否する場合、懲戒処分の対象とすることができます。
一方、労働者には、「医師選択の自由」が認められています。
そのため、労働者が希望する場合、従業員の選択する医師による健康診断を受診することができます。
対象労働者
対象は常時使用する労働者
雇入れ時および定期の健康診断の対象者は「常時使用する労働者」です。
この常時使用する労働者とは、いわゆる正社員の他、正社員の4分の3以上の労働時間で働く短時間労働者も含めます。
また、有期雇用労働者については1年以上使用される予定のある者は対象となります。
育休中等の場合、実施しなくても問題なし
定期健康診断を1年以内ごとに1回定期に行われる関係上、実施する時期は会社によって自ずと決まってきます。
では、こうした定期健康診断の時期に、労働者が産休や育休、私傷病等による休職等をしている場合、どうしたらいいのでしょうか。このような場合、無理に実施しなくても差し支えありません。
ただし、休業等が終了した場合は、速やかに、受診させる必要があります。
法定の診断項目
法定の項目
法律で義務づけられている健康診断には、必ず受けさせないといけない項目(法定の項目)というのが決まっています。
この法定の項目は以下の通りです。なお、会社の健康診断の受託に慣れている病院であれば、検査項目が漏れることはまずないと思われます。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長(※)、体重、腹囲(※)、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査(※) 及び喀痰検査(※)
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)(※)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)(※)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)(※2)
- 血糖検査(※)
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査(※)
定期健康診断時に省略ができる場合
雇入れの際の健康診断については、上記の項目をすべて受診する必要があり、省略することはできません。
一方、定期の健康診断については、上記の項目で※が付いているものについては、医師が必要でないと認める場合に限り、その検査を省略することができます。
| 項目 | 医師が必要でないと認める時に左記の健康診断項目を省略できる者 |
| 身長 | 20歳以上の者 |
| 腹囲 |
|
| 胸部エックス線検査 | 40歳未満のうち、次のいずれにも該当しない者
|
| 喀痰検査 |
|
| 貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査 | 35歳未満の者及び36~39歳の者 |
参考資料:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)
業務によって診断項目や回数が追加
健康に有害な業務等を行う労働者については、上記に加え、多く健康診断を実施したり、法定の項目に追加されることがあります。
特定業務従事者の健康診断
「多量の高熱物体を取り扱う業務」「身体に著しい振動を与える業務」「強烈な騒音発する場所での業務」「坑内業務」「深夜業務」等の一定の業務を行う労働者に対しては、配置換え時および6か月以内ごとに1回、定期に健康診断を行う必要があります。なお、胸部エックス線検査および喀痰検査については1年以内ごとに1回で構いません。
頻度が違うだけで、受診時の項目については通常の労働者と同じです。
海外派遣労働者の健康診断
日本国外の地域に6か月以上派遣していた労働者を日本国内の業務に就かせる場合、健康診断が必要です。
また、日本国外に6か月以上派遣しようとするときも同様です。
給食従業員の検便
事業に付属する食堂や炊事場で給食の業務に従事する者に対しては、雇入れの際および当該業務への配置換えの際に、検便による健康診断を行なう必要があります。なお、こちらについては、定期的に行う必要まではありません。
一定の有害業務に就く者に対する特別の項目の健康診断(特殊健康診断)
屋内での有機溶剤を用いる業務や、石綿、じん肺、放射線など扱う一定の有害業務に従事する労働者に対しては、雇入れの際、当該業務への配置換えの際、および定期に、特別の項目の健康診断を行う必要があります。
歯科医師による健康診断(特殊健康診断)
塩酸や硫酸など、歯やその支持組織に有害な物質のガスや蒸気、または粉じんが発散する場所で業務を行うものに対し、雇入れの際、当該業務への配置換えの際、および6か月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断を行う必要があります。
健康診断後に会社が行う必要のある措置
健康診断の結果の記録
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、保存しておく必要があります。
保存期間はそれぞれの健康診断によって異なりますが、基本的には5年が多いです。
健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
会社は、健康診断が行われた日から3か月以内に、そのの結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞かなければなりません。
ただし、意見を聞く必要があるのは、異常の所見のある労働者に限られます。
なお、「常時労働者数50人未満」で、会社に産業医がいない場合、
地域産業保健センターにて、原則年2回まで無料でサービスを受けることができます。
地域産業保健センター(独立行政法人労働者健康安全機構 愛知産業保健総合支援センター)
健康診断実施後の措置
会社は、医師または歯科医師からの意見を勘案し、必要があると認めるときは就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な措置を講じる必要があります。
健康診断結果の労働者への通知
会社は、健康診断の結果を、労働者に遅滞なく通知しなければなりません。
健康診断の結果に基づく保健指導
会社は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師または保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。
健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
健康診断(定期のものに限る。)の結果は、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出する必要があります。
なお、こちらの様式ついては、こちらのサイトで作成が可能です。また、e-govアカウントをお持ちの場合はそのまま電子申請もできます。
労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス
健康診断と労働者のプライバシー
健康診断の結果に、労働者の様々な個人情報が含まれます。
こうした情報について、会社としてどう扱っていいのか迷う場合もあると思いますが、こちらについては、以下の記事で解説を行っていますので、よろしければどうぞ。

就業規則への記載方法
健康診断については、労働契約書(労働条件通知書)や、就業規則への記載が必須となっていますが、その規定例については、以下の記事を参考にしていたければと思います。

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