就業規則の「採用決定者の提出書類」条文の作成のポイントと規定例

2023年9月27日

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就業規則の「採用決定者の提出書類」条文の作成のポイントと規定例

 

採用決定者に提出を求める書類には、社会保険や雇用保険などで必要な書類と、誓約書および身元保証書のように会社の都合で提出を求める書類があります。

特に後者のタイプの書類提出を求める場合、就業規則への記載は必須となるため、自分の会社の就業規則の規定を確認しつつ、この記事を読んでいただければと思います。

 

就業規則における「採用決定者の提出書類」条文とは

就業規則に定める「採用決定者の提出書類」という条文では、社会保険や雇用保険など、入社後の手続きに必要となる書類の提出について定めます。

こうした法律上定めのある手続きに必要なものについては、必ずしも規定で明確化していなくても、会社は労働者に対して、提出を要求することが可能です。

とはいえ、規定に提出が必要なものをまとめ、その上で規定例のように、労働者側から提出がなかった場合の扱いをあらかじめ定めておいた方が、実務上はスムーズになるかと思われます。

一方、住民票記載事項証明書や誓約書、身元保証書のように手続き上の都合ではなく、会社の都合で提出を求めるものについては、就業規則にその根拠が必要となります。

 

 

法令からみた「採用決定者の提出書類」のポイント

住民票の写しの提出を求めるのはNG

入社してくる労働者の個人情報が間違っていないかを確認するため、採用決定者に対し、住民票記載事項証明書の提出を求めている会社は多いことでしょう。

一方で、住民票記載事項証明書ではなく「住民票の写し」ではダメなのか、と思う会社経営者・人事労務担当者の方もいらっしゃるかもしれません。

結論からいうと、これはNGです。

なぜなら、「住民票の写し」には氏名、住所、生年月日など、会社が確かめたい個人情報の他に、本籍地や引っ越し前の住所など情報が載っているからです。

本籍地や引っ越し前の住所がわかってしまうと、個人情報保護や出自等の差別に繋がるおそれがあります。

そのため、会社が提出を求める場合は住民票の写しではなく、住民票記載事項証明書を求める必要があります。

 

 

「採用決定者の提出書類」条文作成のポイント

誓約書および身元保証書の扱い

誓約書や身元保証書は手続き上の都合ではなく、会社の都合で提出させるためのものです。

そのため、どちらも提出を求める場合は就業規則にその根拠が必要となります。

一方で、他の書類と違い、誓約書と身元保証書は労務や税務、社会保険の手続きに不要なものであることや、身元保証による金銭賠償も絶対ではないことから、提出を求めない会社も少なくありません。

なお、身元保証を求める場合、「身元保証に関する法律」に従う必要がある点にも注意が必要です。

 

身元保証に関する法律の概要

身元保証については身元保証に関する法律によって、様々な制限があります。

まず、身元保証の期間を定めない場合、その効力は3年間、期間を定める場合も5年を超える期間を定めることはできません。

また、期間の自動更新は認められず、更新の際は必ず個別に同意を得る必要があります。

加えて、令和2年4月より賠償額の極度額をあらかじめ定めておかなければならなくなり、賠償額の極度額が定められていない身元保証書は無効とされるようになりました。

 

書類の提出期限

採用決定者に提出を求める書類はいずれも提出がないと、手続き上、あるいは、その人を信用する上で困るものばかりです。

しかも、日本の雇用慣行では雇用するのは簡単でも、解雇するのは非常に困難です。

そのため、提出書類については期限を曖昧にせず、提出がない場合には厳しい措置もやむを得ないと考えた方が、後々のことを考えるとリスクは小さくできるかと思われます。

そのため、下記の規定例では「初出社の日、または提出予定日までに提出がない場合、会社はその者の採用を取り消す」としています。

 

 

就業規則「採用決定者の提出書類」の規定例

第○条(採用決定者の提出書類)

  1. 従業員として採用された者は、初出社の日までに次の各号の書類を提出しなければならない。なお、初出社の日までに提出できない書類がある際は提出予定日を明らかにした上で、会社の許可を得る必要がある。初出社の日、または提出予定日までに提出がない場合、会社はその者の採用を取り消す。
    ① 住民票記載事項証明書
    ② マイナンバーカードの写し等、個人番号および身元確認のために会社が必要と認める書類
    ③ 年金手帳の写しおよび雇用保険被保険者証(前職がある場合)
    ④ 源泉徴収票(採用された年に他から給与所得を受けていた場合)
    ⑤ 給与所得者の扶養控除等申告書
    ⑥ 職務の遂行上必要とされる公的資格に関する証明書
    ⑦ その他会社が必要とする書類
  2. 前項各号の書類のうち、会社が必要としないときは、一部書類の提出を省略することがある。
  3. 在職中に1項各号の提出書類の記載事項に変更が生じたときは、その都度速やかに届け出なければならない。
  4. 会社は、1項各号で提出された書類を人事労務管理以外の目的で使用しない。

 

 

規程の変更例

誓約書および身元保証書の提出を求める場合

第○条(採用決定者の提出書類)

  1. 従業員として採用された者は、初出社の日までに次の各号の書類を提出しなければならない。なお、初出社の日までに提出できない書類がある際は提出予定日を明らかにした上で、会社の許可を得る必要がある。初出社の日、または提出予定日までに提出がない場合、会社はその者の採用を取り消す。
    ① 誓約書
    ② 身元保証書
    ③ 住民票記載事項証明書
    ④ マイナンバーカードの写し等、個人番号および身元確認のために会社が必要と認める書類
    ⑤ 年金手帳の写しおよび雇用保険被保険者証(前職がある場合)
    ⑥ 源泉徴収票(採用された年に他から給与所得を受けていた場合)
    ⑦ 給与所得者の扶養控除等申告書
    ⑧ 職務の遂行上必要とされる公的資格に関する証明書
    ⑨ その他会社が必要とする書類
  2. 前項各号の書類のうち、会社が必要としないときは、一部書類の提出を省略することがある。
  3. 在職中に1項各号の提出書類の記載事項に変更が生じたときは、その都度速やかに届け出なければならない。
  4. 会社は、1項各号で提出された書類を人事労務管理以外の目的で使用しない。

 

 

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社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 著書に「「働き方改革法」の実務」「定年後再雇用者の同一労働同一賃金と70歳雇用等への対応実務」「就業規則作成・書換のテクニック」(いずれも日本法令)のほか、「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

2023年9月27日