令和8年10月1日より企業対応が義務化されるカスタマーハラスメント(いわゆるカスハラ)。こちらについては、「どこからがカスハラに当たるのか」「企業は何をしなければならないのか」という点で悩まれるケースが少なくありません。
こちらの記事では、令和8年1月現在、厚生労働省の審議会で公表されているカスハラ指針案をもとに、カスタマーハラスメントの定義、具体例、そして企業が講ずべき雇用管理上の措置について整理します。
なお、カスハラ対応の特徴や、対応を怠った場合のリスクについては、別記事で解説していますので、併せてご覧ください。

カスタマーハラスメントその他の定義
まずはカスハラの定義について見ていきます。具体例、企業が実際に行う必要のある措置について見ていきます。
カスハラや用語の定義
カスハラ自体の定義
まず、カスハラの定義についてですが、こちらは以下のとおりです。
職場におけるカスタマーハラスメントは、職場において行われる
- 顧客等の言動であって、
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの要素を全て満たすもの
なお、実務上は、「要求の内容」と「言動の態様」を切り分けて考えることが重要となります。要求自体が正当でも、手段や態様が行き過ぎればカスハラに該当し得るからです。
カスハラにおける職場・労働者・顧客等の定義
また、カスハラにはそれが行われる場(職場)、カスハラを受ける労働者、カスハラを行う人(顧客等)がいるわけですが、これらについても以下のように定義づけが行われています。
「職場」:事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所。当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する。
「労働者」:いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等、いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいう。派遣労働者についても同様だが、カスハラ対応においては派遣元だけでなく、派遣先もその義務を負う。
「顧客等」:顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客も含む。)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者も含む。)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者。例えば、以下の者等が含まれる。
- 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者及びその家族
- 施設の近隣住民
カスハラの具体例(「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動)
次にカスハラの要件の1つとされる「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動について具体的に見ていきます。
重要となるのは、「社会通念上許容される範囲」を超えたかどうかをどう判断するかですが、こちらは指針案にて、以下のとおり、その典型例が広く例示されているため、こちらと照らし合わせて判断していくことが重要となります。
<言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの>
① そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
- 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること。
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
- 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること。
③ 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
- 契約金額の著しい減額の要求をすること。
④ 不当な損害賠償要求
- 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること。
<手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの>
① 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと。
- 物を投げつけること。
- わざとぶつかること。
- つばを吐きかけること。
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと。
- SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること。
- 労働者の人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む。
- 土下座を強要すること。
- 盗撮や無断での撮影をすること。
- 労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露すること又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること。
③ 威圧的な言動
- 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。
- 反社会的な言動を行うこと。
④ 継続的、執拗な言動
- 同様の質問を執拗に繰り返すこと。
- 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること。
- 同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること。
⑤ 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁))
- 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること。
労働者の就業環境が害される
最後に、「労働者の就業環境が害される」とは何かですが、指針案では以下の通りとしています 労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味すること。
なお、上記の判断に当たっては「平均的な労働者の感じ方」、すなわち「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当であるとしています。
また、カスハラとなる言動に関しては、その頻度や継続性について考慮する一方、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得るとしています。
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
ここからは、カスハラ指針案で示されている、会社側が実際に講ずる必要のある雇用管理上の措置についてみていきます。
指針では事業主が講ずべき雇用管理上の措置について、具体的に、以下のように記載が行われています。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
- ①から④までの措置と併せて講ずべき措置
上記の内容は、他のハラスメントの事業主が講ずべき雇用管理上の措置とほぼ同内容なので、見覚えのある方も多いでしょう。
一方で、④については、カスハラ特有のものとなっています。それぞれについて、以下で詳しく見ていきましょう。
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
まず、事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発についてですが、こちらはカスハラに対して毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針」および「カスハラの内容、カスハラへの対処方法」明確化し、それを、管理職を含む労働者に周知・啓発することが企業に求められます。
具体的な方法としては「社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報または啓発のための資料等に職場におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を記載し、配布等すること」や、「職場におけるカスタマーハラスメントへの対処の内容を(就業規則等に)定め、当該規定と併せて、職場におけるカスタマーハラスメントの内容を労働者に対して周知すること」などが指針では挙げられています。
相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談についてですが、こちらについては他のハラスメントの対策として、相談窓口を置いている会社も多いことでしょう。
カスハラ指針で定められている内容も、基本的には、他のハラスメントにおける相談対応と同じで、「相談窓口を設置」し、「相談に対する適切な対応」ができるよう、マニュアルの作成や担当者に対する研修等を行う必要があるとされています。
なお、設置する相談窓口については「他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられる」と、指針ではしています。
職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
こちらも、他のハラスメントの雇用管理上の措置にあるものとほぼ同内容で、実際にカスハラが起こってしまった場合や、そうした相談が労働者からあった場合に対応できるようにしておくことを企業に求めるものとなります。
流れとしては、事案の相談等があった場合に「事実関係の迅速かつ正確な確認」をし、事実が確認できた場合には「速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う」必要があります。そして、カスハラ被害があった事実に対して、あらためて方針を周知・啓発すると伴に「再発防止に向けた措置」を取る必要があります。
職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
こちらは、他のハラスメントの雇用管理上の措置にないカスハラ特有のものとなります。
カスハラはその行為者が会社外部の人間ということもあり、行為者に対し懲戒処分等を行うことはできません。
そのため、それをいいことに過度な要求を繰り返すなど、加害者の悪質な行為がエスカレートしていく可能性は十分にあります。こちらは、こういったことを抑止するための措置を会社に義務付けるもので、具体的な方法として、指針には以下のような例が記載されています。
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。
- 行為者に対して警告文を発出すること。
- 法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと。
- 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること。
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てること。
もっとも、これらの措置は無制限に行えるものではなく、実際に行う場合、法令や社会通念を踏まえた相当性が求められます。
①から④までの措置と併せて講ずべき措置
上記の①から④までの措置と併せて講ずべき措置とは、「相談者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知」および「不利益な取扱いをされない旨の周知・啓発」をいいます。これも他のハラスメントの雇用管理上の措置と同じです。
参考資料
今回、記事で取り上げた参考にしたカスタマーハラスメント指針案は以下から読むことができます。
また、今回の企業のカスハラ対応の義務化に先んじて、東京都ではカスハラ防止条例を定めた上でカスハラ防止指針をすでに公表しています。
国の指針案とは法的な位置づけは異なりますが、実務対応を検討する上での参考資料として有用ですので、併せて目を通しておくと良いでしょう。
1月20日発行の新刊ではいち早く就業規則の「カスハラ条文」を解説
カスハラ対応は「マニュアルを作れば終わり」ではありません。
・どこまでを許容し
・どこからをカスハラとし
・会社としてどう対応するのか
これらを会社の方針として文章化しておくことが重要になります。
そのため、今回の1月20日に日本法令より発行される「改訂版 就業規則作成・書換のテクニック」では、どこよりも早くカスハラ対応を前提とした就業規則条文例も盛り込みました。

