残念ながら就業規則は、「万能の道具」ではありません。
就業規則に書けば何でもできる、何でも許される、そう考えてしまうと、かえって大きな労務トラブルを招くおそれがあります。
本記事では、「就業規則ではできないこと」という視点から、法律を下回る規定が無効になる理由、不利益変更の限界、後追いでの規則整備が通用しないケース、そして「会社を元気にする就業規則」という言葉の落とし穴について解説します。
就業規則を正しく理解し、過度な期待や誤解を避けるための基礎知識として、ぜひご確認いただければと思います。
- 就業規則に法律を下回る内容を定めることができない理由
- 労働者の同意なしに行う一方的な不利益変更が原則認められない理由
- 問題が起きてから就業規則を作っても過去の行為は処分できない理由
- 「就業規則で会社を元気にする」という考え方の限界と注意点
できないこと① 法律を下回る内容を定めること
就業規則は会社のルールを明文化したものです。
ただ、この会社のルールという部分を勘違いして、就業規則に定めれば何でも許されると考える人も少なからずいます。
例えば、就業規則に「年次有給休暇を取ることはできない」と書けば、年次有給休暇を取らせなくても大丈夫と考える人がいるわけですが、そんなことはありません。
就業規則には、法律を下回る内容を定めることはできないからです。
仮に就業規則に、法律を下回る内容がある場合、法令違反となった上で、その部分は無効となります。
できないこと② 労働者の同意なしに一方的に不利益変更すること
就業規則は会社が主体的に作成することができる上、労働者から反対意見があったとしても、その周知さえ行えば、就業規則は効力を持ちます。
こうしたことから、就業規則に定めれば労働者の意思に関係なく、何でも決められると思う人もいますが、損なことはありません。
なぜなら、就業規則による変更が労働者の不利益となる場合、いわゆる「労働条件の不利益変更」にあたる場合、原則、労働者の個別の同意が必要となるからです。
よって、場合によっては、99人の労働者が同意していても、1人がこれに反対する場合、就業規則の変更ができないこともありえます。
ただし、かなり条件は厳しいですが、就業規則の変更に合理性があると判断出来る場合、個別の労働者の同意がなくても、就業規則の変更により労働条件の不利益変更ができる場合はあります。
できないこと③ 規則がない中で起きてしまった問題の解決(罪刑法定主義と法の不遡及)
会社が労働者を懲戒処分する際、あらかじめ就業規則に懲戒事項を定めていないとそうした懲戒処分を行うことはできません。
また、ある行為を犯罪行為として法律で定めたとしても、法律で定められる前に行われたその行為については、その法律で処罰することはできません。
これらは法律の原則である「罪刑法定主義」と「法の不遡及」が就業規則にも適用されるのがその理由です。
よくある就業規則を作成するきっかけとして、会社内で何らかの問題が起きたので、その解決のために就業規則を作成したい、というのがあります。
例えば、労働者が会社に重大な損害を与えるような行為したことに対し、処分等をしたいけれど、就業規則にそうした規定がない、あるいはそもそも就業規則がないので、作成したいというものです。
しかし、上記の法の不遡及の原則により、例えそうした規則を後追いで作成したとしても、当該労働者をその規則で処分することはできません。
ようするに、就業規則は問題が起こる前に作成しておけば、様々なことに対処できるものの、問題が起こった後に作成してもできることは限られるということです。
もちろん、同じ過ちを繰り返さないという意味で、問題が起こった後に就業規則を作成したり、対応規定を就業規則に定めたりすることには意味があります。
役割でないこと:会社を元気にする
就業規則で会社を元気にする、あるいは逆に会社を元気にする就業規則、という謳い文句をたまに見ます。しかし、本当にそういったことが就業規則に可能なのか、筆者は疑問です。
他の記事でも解説していますが就業規則の主な役割は「労働条件」「服務規律」「業務命令権」を決定することですが、いずれも「会社を元気にする」役割はありません。
「会社を元気にする」ことについては、強いて言えば、昇給、昇格などのインセンティブを定めることでそうしたことは可能かもしれません。しかし、これらは就業規則でなくてもできることです。むしろ、就業規則には最低限のことを定め、社内制度として行った方が、柔軟性高く運用ができるはずです。
会社の元気、という観点で言うと、労使間でトラブルが起きると会社の元気が削がれるのは確かなため、そうした労使間のトラブルに対処できる就業規則というのは会社の元気を削がないためのものと考えるべきでしょう。会社を元気にする(というのが、具体的にどのようなことを指すのかもよくわかりませんが)ために行うべきことは、社内制度を整えて行ったほうが効率的です。
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