時間外労働というと、会社の業務の都合による時間外労働や休日労働をイメージする人が多いことでしょう。
一方で、労働基準法には、会社の業務の都合による時間外労働や休日労働とは別に、緊急災害時の時間外および休日労働に関する定めが行われています。
この2つについては、同じ時間外・休日労働のことなので、同じ条文にまとめてしまう規定例も少なくありません。
しかし、両者には法律上のルールが異なる部分がある上、時間外労働や休日労働を行わせる理由自体も異なるため、条文を分けておいた方がわかりやすいでしょう。
この記事の目次
就業規則「緊急災害時等の時間外および休日労働」の規定例
第○条(緊急災害時等の時間外および休日労働)
会社は、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合、労働基準法第33条第1項の規定に基づき、第△条の所定労働時間外、または第□条の休日に労働を命じることができる。
条文の必要性
法律上、一般的な会社の業務の都合で行う時間外・休日労働と、緊急災害等により余儀なく行われた時間外労働や休日労働は区別され、後述するように様々な面で異なる扱いがされます。
緊急災害時等の時間外・休日労働については法律上に定めのある制度である一方、会社がそうした命令を出す場合、就業規則上の根拠が必要です。
緊急災害時等の時間外・休日労働は、会社の業務の都合による時間外・休日労働よりも会社に有利な制度であり、天災等のときに時間外・休日労働が必要な場合にこれを利用しない理由は基本的にないため、就業規則に定めは必須といえます。
緊急災害時等の時間外・休日労働の法制度上のポイント
運用面での注意事項
緊急災害時等の時間外・休日労働は、その定めの内容よりも運用方法の方が、注意すべき点が多いです。
例えば、緊急災害時等の時間外・休日労働を行わせる場合、会社の業務の都合でそれを行わせる場合のように36協定の締結は不要ではあるものの、代わりに労働基準監督署の許可が必要となるからです。
この許可は原則、事前に得る必要がありますが、そうした時間がないなどやむを得ない事情により事前に得ることができない場合は、事後、遅滞なく届け出る必要があります。
なお、この許可のない労働については仮に「緊急災害」を理由とするものであっても、通常の労働時間となります。
また、緊急災害時等の時間外・休日労働であっても、法定労働時間を超える時間の労働や法定休日に働かせた分の時間は、時間外割増賃金や休日労働割増賃金の対象です。
「緊急災害時等」の範囲
では、労働基準法33条1項における緊急災害時等とはどういったものを指すかというと「災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合」がこれに当たります。
よって、地震や津波といった天災の他、突発的な機械の故障や設備の不具合への対処などもこれに当たります。
災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準
(1)単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと。
(2)地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること。例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコール対応は含まれること。
(3)事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれること。
(4)上記(2)及び(3)の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認めること。
上記許可基準の解釈に当たっての留意点
1 新許可基準による許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれること。具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれること。
2 新許可基準(2)の「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合が該当すること。具体的には、例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことにより通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行うこととした契約等に基づき除雪作業を行う場合や、人命への危険がある場合に住宅等の除雪を行う場合のほか、降雪により交通等の社会生活への重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合も含まれるものであること。
3 新許可基準(2)の「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれること。
4 新許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合」となることもあり得ること。例えば、新許可基準(4)においては、「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について規定しているところであるが、これは、国や地方公共団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため、例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者へ物資を緊急輸送する業務は対象となるものであること。
出典:災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準
業務の都合による時間外・休日労働との違い
監督署の許可が必要なこと以外にも業務の都合により、会社が行わせる時間外・休日労働と異なる点がいくつかあります。
まず、労働基準監督署の許可を受けた「緊急災害時の時間外および休日労働」は、時間外労働の上限規制の対象とはなりません。
また、18歳未満の年少者については会社の業務の都合による時間外・休日労働を行わせることはできない一方で、緊急災害時等の時間外・休日労働については18歳未満の年少者であっても行わせることができます。
その一方で、妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過していない女性)からの請求がある場合は、例え、緊急災害時等の時間外・休日労働であっても行わせることはできません。
条文作成のポイント
規定の内容を会社によって変える必要はない
規定の内容を個々の会社に合わせる箇所がないので、会社ごとにアレンジする必要のない規定です。
ただし、定め自体はほぼ必須となるので記載漏れがないよう注意する必要があります。
規定の変更例
なし
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