時間は現代人にとっては切っても切り離せないもので、時間に「追われてる」と感じる人もいれば、「足りない」と感じる人や「持て余している」と思っている人もいるだろう。
しかし、物理学の観点から見るとそもそも「時間」というものは存在しない、らしい。
時間は存在しない、と言われると、なんとも哲学的、文学的な郷愁に襲われるが、本書の著者は物理学者である。そして、本書の半分から3分の2ほどは、ニュートンや相対性理論、量子論といった物理学からみた時間について論じられている。
繰り返しになるが、物理学の観点からいうと「時間」というものは存在しない、らしい。
少なくとも、宇宙を方程式で表すとき「時間」というものは必要はない、らしい。
必要がないということは存在しないということ、らしい。
アインシュタインの相対性理論では、時間は重力やものの進むスピードによって変わるため、誰にとっても共通の「現在」というものが存在しない、というところまではわかる。わたしが量子論を全然理解できてないことを差し引く必要もあるだろうが、それでも「ない」と言われてしまうとモヤモヤする。
物理学的にないからといって、わたしたちが「時間」の呪縛から解き放たれるわけではないし、腹が減れば、眠くもなるし、朝が来れば夜も来るし、やがては死ぬ。
ないと言われても、わたしたちは日々それを確かに感じているからだ。
でも、この筆者はそんな読者の心境などお見通しで、物理学的に存在しないとされる「時間」を、なぜ人は「ある」と感じるのかということまで論じている(これが本書の残り半分から3分の1を占める)。
そして、その結論は、(わたしのステレオタイプなイメージかも知れないが)物理学者のそれとは思えないほど文学的で、感動的ですらある。
本書を読んだからといって、人が時間を超越できるわけではないし、月曜日の仕事に遅刻して良いわけでもない。
しかし、人が時間を「ある」と感じるからこそ生まれるもの、感じられるものがあることに気づけるはずだ。
ちなみに、本の概要だけ知りたい、本編の内容が小難しすぎる、あるいは著者の例えが冗長だ、と思う人は、本書の本編よりも日本語解説の方が簡潔でわかりやすくまとまっているので、そちらを先に読むのも良い。