今日は、「近大マグロ」で注目を浴び、最近では受験の偏差値もどんどん上がっているという近畿大学の件について。
この記事の目次
近畿大の明らかな不当労働行為
組合員への差別がマズいのは常識中の常識
こちら、近大が特定の労働組合に加入している職員に対して、賞与を支給しないと通告。
これを受けて、その労働組合はこの通告が「不当労働行為」であるとし、労働委員会に救済を申し立てた、というのが本件の流れです。
このニュースを見たとき「こんなわかりやすい不当労働行為、見たことない」と思ったのですが、この件をもう少し深掘りしていくと、別のものが見えてきます。
団体交渉に応じなかった労働組合側
それがこちら。
近大「誠に遺憾であります」 教組「前代未聞の暴挙」批判に反論
要するに、賞与を支給しないと通知したのは、そもそも労働組合側が団体交渉に応じなかったからだ、と大学は主張しているわけです。
この辺りの事実関係は、報道からしか事件を知ることができない第三者にはあずかり知るところではありません。
ただ、気になるのは「労働協約を締結されない間、賞与を一方的に支給することは不当労働行為に該当する」と、大学側も「不当労働行為」を主張している点です。
不当労働行為とは
そもそも「不当労働行為」とはなにかというと、簡単に言うと、会社側が労働組合の活動を阻害するような行為をいい、労働組合法で禁止されています。
労働組合法で禁止されている「不当労働行為」は以下のとおりです。
- 労働組合と関連のある労働者に対する不利益取扱い
- 黄犬契約
- 正当な理由のない団体交渉の拒否
- 労働組合の運営等の支配介入
- 労働組合の運営等に対する経費援助
- 労働委員会への申し立て等を理由とする不利益取扱い
1.は労働組合へ加入使用とする労働者や、すでに加入員である労働者、あるいは労働組合を結成しようとする労働者に対する不利益取扱いを禁止するものです。
2.の「黄犬契約」とは労働者が労働組合に加入しない、あるいは脱退することを理由に雇用することいいます。
3.については、団体交渉の拒否の禁止だけでなく、誠実に交渉を行う義務があるとしています。
4.の支配介入に関しては、わかりやすいところでいうと、橋下市長時代に大阪市が行った「組合活動への参加の有無などを問うアンケート調査」などがそれに当たります。
5.の経費援助とは、組合の経費を会社が負担することなどがそれに当たります。一方で、組合員の給与から、組合に代わって組合費を天引きすること(いわゆるチェックオフ)は経費援助には当たりません。
6.については読んでそのままなので解説は省略。
大学側がいう不当労働行為とは???
さてさて、近大の件に戻りたいと思いますが、組合側がいう不当労働行為というのは明らかですよね。
特定の労働組合の組員であることを理由に賞与が支払われなかったのだから、上でいう1.の「不利益取扱い」に当たります。
一方で、大学側のいう、不当労働行為というのがよくわかりません。
「労働協約を締結されない間、賞与を一方的に支給すること」が、上記の1.から6.のどれに当たるのか判然としないからです。
最初にこの件の経緯を知ったとき、わたしは、大学と組合の間で「賞与については労働協約を締結してから支払う」といった内容の労働協約が結ばれているのだろうと推測しました。
それだと、組合側が団体交渉に応じず、「賞与支給のための労働協約」を締結できない中での賞与の支給は、「賞与については労働協約を締結してから支払う」という労働協約に違反してしまうからです。
ただ、労働協約違反は問題ではあるものの、不当労働行為ではありません。
なので、本件については、なぜこの組合が団体交渉を拒否したのかよくわからないので、組合側の主張を一方的に信じる気にはなれないのですが、一方で、大学側の主張もちぐはぐ、といった感じで、なんというか消化不良。
とりあえず、第三者としては労働委員会の判断を待つしかなさそうです(待っても、事実関係が明らかになるかはわかりませんが)。
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なぜ、本書で就業規則の個々の条文の必要性に焦点を当てたかというと、日々の就業規則作成業務で「この条文はどういう意味か」「この条文は変えられないのか」「この条文は削除できないのか」といった質問、要望をお客様から受けることが多かったので、ならば、本でそれらをまとめてしまおうと思ったわけです。
本書には魔法のような条文も奇策のような条文もありませんが、ベーシックな就業規則を作成するのにお力になれる就業規則本だと思っています。