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残業 行動経済学 賃金

「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」の最新動向とこの制度を行動経済的に考えてみる

2018/02/17

このブログでも何度か取り上げている国際自動車の裁判ですが、

国際自動車事件で「歩合給から残業割増分を控除する規則の正当性」の裁判が差し戻しになった理由

昨日、東京高裁で会社側が逆転勝訴しました。

タクシー「実質残業代ゼロ」制度、原告逆転敗訴…裁判所「長時間労働を抑止」と評価

国際自動車の裁判で争われているのは「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」という、その特殊な賃金制度で、これでは残業代を支払っていることにならないということで、労働者側が会社を訴えています。

しかも、労働者側は4グループに分かれて同じ内容の裁判を起こしているので、事件を追っているこちらも混乱しがち。

今回判決が出たのは4グループのうち最初に訴えた「1陣」。

この「1陣」は地裁、高裁では労働者側が勝訴したものの、最高裁で高裁に差し戻されています。差し戻された結果、高裁でもう一度裁判をやりなおしとなったわけですが、それが今回の会社側勝訴の判決です。

一方、「2陣」についてはつい先日高裁の判決が出ていて、こちらも会社側が勝っています。

ちなみに、3陣、4陣はまだ地裁での争いと他と比べるとかなり遅れているので、おそらく「1陣」の地裁や高裁の判決をみて「俺たちも訴える」と遅ればせながら訴えた人たちなのではと推測できます。

 

高裁が有効と判断した理由

今回、高裁が制度を有効とした判断した理由として、以下の通り、

従業員に「労働効率性」を意識させ、残業を抑止する効果がある。

判決は、歩合給が残業代のように労働時間によって変動するとしても、「成果主義的」な報酬として、通常賃金であることには変わらないと判断。その上で、名目上の残業代が、法定の金額を下回っていないことから、国際自動車の賃金規定を有効と判断した。

出典:タクシー「実質残業代ゼロ」制度、原告逆転敗訴…裁判所「長時間労働を抑止」と評価(弁護士ドットコムNEWS)

としています。

つまり、歩合給のような成果主義的な賃金が労働時間によって変動することは問題なく、その上、名目上の残業代が法定の割増率を下回っていない以上、この規定は有効と判断したわけです。

加えて、日本の労働裁判ではなかなか聞かない「労働効率性」なんていう言葉が出てくるのがなんとも興味深いです。

 

行動経済学的に考える

さて、ここで疑問なのは裁判所が言うように「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」ことは「労働効率性」に繋がるのか、ということです。

半人前(というかほぼ名ばかり)ながら行動経済学会の正会員である人間からすると、おそらくある、と考えられます。

いや、「時間外労働しても賃金が増えない」のだから、わざわざ行動経済学を引っ張り来なくてもそらそうだろう、と思う人もいるかもしれませんが、こういうのは理論も重要なのですよ、理論があると応用もできるので。

 

同じ1万円でも、もらう1万円と失う1万円は違う

というのも、人間の心は同じ1万円でも、もらう嬉しさよりも、失う痛みの方が大きい傾向にあることが行動経済学の実験でわかっています。これを損失回避性と呼びます。

「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」と言う制度は、法定労働時間以上働いても「残業代は増える」けれど同じが砕け「歩合給は減る」という制度なので、同じ金額が増えて減ってとなっていても、損失回避性が働く分、減る分の心の痛みの方が大きいと考えられます。

さらに言うと、損失回避性の観点から見ると、得られる金額よりも減る金額の方が少なくても心の痛みの方が大きい場合もあるので、必ずしも「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」のではなく「残業したらその分の何割かの残業代を歩合給から差し引く」という制度でもある程度の効果はあると見込めます。

もっと言えば、「残業したら残業代以上の額を歩合給から差し引く」方が効果は高いと思われますが、さすがに日本の法律でこれは無理でしょう。

というか、今回の判決も最高裁で覆る可能性があるため、まだまだ動向には気を付ける必要があります。

 

とはいえ、労働者の残業する理由1位が「残業代がほしいから」という結果も出ている中で、

1万人に聞いた「残業する理由」、1位は「残業代がほしいから」

こうした判決が最高裁でも肯定されることがあれば、今後の長時間労働の上限規制に企業が対応していく上で大きな選択肢になる可能性があるので、今後も動向を見守りたいと思います。

今日のあとがき

珍しく本文の続きみたいなことをあとがきで書きますが、「残業したらその分の残業代を歩合給から差し引く」が大きな選択肢になると言っても、タクシードライバーの歩合給のように「成果給」が明確な場合って実は多くないのではと思ってます。

なので、適用するのはかなり難しい上、このような形での賃金制度への変更は、不利益変更となる可能性もあるので労働者の合意も必要と、裁判の結果次第とは言え、案外、導入のハードルは高そうです。

 

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。