あっちやこっちやで最近ステマが話題になっているので、ステマについての行動経済学の話を一つ。
ご存じない方に説明しておくと、ステマというのはステルスマーケティングの略で、広告なのに広告ではないふりをした広告のことを言います。
広告ではないふりをした広告とは、例えば、広告主からお金をもらっているのにその事実を隠して、あたかも自分が見つけたオススメのようなふりをしたり口コミを装ってブログや動画宣伝することを言います。ああ、こんなまどろっこしい説明しなくても、ほしのあきや熊田曜子がおすすめするペニオクといえばわかりますよね。
通常の広告とステマの違い
そもそも広告や宣伝というのは、広告媒体が広告主の要望に沿った宣伝をし、その対価として広告媒体(つまり、メディア)は広告主から料金をもらいます。ステマの話になるとすぐに金金過剰反応する頭の弱い人がいますが、広告主が広告媒体にお金を払うこと自体は何の問題もないわけです。普通の商行為です。
しかし、ステマでない広告や宣伝というのは、上記のような広告主と広告媒体の関係とは別に、広告を見る側、つまり消費者が広告を見るときにそれが広告であることがわかっているのが普通です。
普通、と書いたのは消費者が広告を見る際にそれが広告であるか否かを知っているかどうか、ということについて、法律上や広告の定義として特に決まっているわけではないからです。なので、広告であることを広告だと消費者に隠して行われるステマも即座に法違反と言えるかというとそういうわけではないのです。
で、広告であることを広告を見る側が知っているかどうか、というのは思いのほか重要、というのが今回の話。
宣伝目的と知っているかそうでないかで人の感じ方は変わる
これは行動経済学者のダン・アリエリー氏が行った実験ですが、被験者たちを2つのグループに分け、全く同じ文章で書かれたとあるオーディオの絶賛記事を両グループに読ませた後、実際にそのオーディオで音楽を聞いてもらいました。ただし、その絶賛記事は、一方のグループにはそのオーディオを販売する会社が作ったパンフレットの記事として、もう一方のグループには権威があり愛好家から信用されているオーディオ雑誌の記事として読ませました。
すると、パンフレットの記事としてその記事を読んだグループよりも、雑誌の記事として読んだグループのほうがオーディオの音が良いと感じる割合が多かったそうです。
同じ音を聞いてるのに後者のグループの方がより良いと感じるのは、実験に参加した被験者の耳の質が大きく違わないかぎり、プラシーボ効果以外の何物でもありません。そして、企業のパンフレットのような宣伝目的が明確な記事よりも、より中立と感じられる雑誌の記事を読んだほうがプラシーボ効果がより高いというのは、要するに、ある情報が宣伝かそうでないかを知っているは、人間の価値判断を大きく左右する可能性があるということです。(雑誌の記事が本当に中立かどうかに疑問はあるにせよ)
ステマは偽装表示である
2013年に社会問題化した食材偽装問題。車海老がブラックタイガーだろうが、芝海老がバナメイエビだろうが、似てるし、味が美味しかったらそれでいいだろ、みたいな意見も当時ありましたが、問題の本質はそういうことではなく、その情報を知らされていたら、消費者側が(その値段で)その料理を注文したり商品を購入したりしなかった人が多くいただろう、ということです。
つまり、消費行動を行うか否かを決める上で重要な情報を隠されていたことが問題だったわけです。似てる似てないは問題の本質ではない。
ステマも同様です。
上記の実験のように記事や動画が広告か否かを知っているかどうかは人間の感じ方に大きく関わります。それだけでなく、広告ならばそうした記事や動画を見ない、という人も少なくないでしょう。テレビ番組のCMなんて、録画再生時にはまず飛ばされるし、新聞のチラシを熱心に見るのは主婦くらいなものでしょう。
そうした人間の心理を逆手に取って、あたかも広告ではないふりをして動画再生数や記事のアクセス数を稼ぐ、というのは、食品の偽装と違い広告の受け手にお金こそ使わせないものの、お金同様に大切な時間を浪費させる行為であり、偽装表示以外のなにものでもないわけです。
いずれにせよ、日本では違法かどうかグレーなステマも、アメリカやヨーロッパでは違法です。どうして日本でも法規制しないのか疑問でしょうがありませんが、電通のロビーイングのおかげでしょうか。みなさんもステマしないよう、ステマにだまされないよう気をつけましょう。
↓の記事では弁護士の先生も法的な観点から指摘されています。
ステマ行為と不正競争防止法による偽装表示防止規定(13号)の適用について